スマッシュ
1995年3月号
新春特別企画 ピート・サンプラス独占インタビュー
王者の気持ち
インタビュー:Paul Fein


   ピート・サンプラス。完璧なまでのプレーで、男子テニス界の頂点に君臨する男。
   決して試合中に暴言を吐いたりすることなく、淡々とプレーするその姿に好感をお
   ぼえるファンは少なくない。控えめで物静かなチャンピオン。

   スマッシュでは新春特別企画として、この王者サンプラスの本音に迫ってみた。彼
   は一体何を考え、何を必要としているのか? いまキミは、本当のピート・サンプ
   ラスを知ることになる。


現在のテニス界の王者ピート・サンプラス(アメリカ)は、スポーツ界で最も知られていないスーパースターといえるかもしれない。けれど彼自身はそれでいいと考えているとか。

以前のオーストラリアのチャンピオンたち、とりわけ「ロッド・レーバー」と「ケン・ローズウォール」をアイドルとしているサンプラスは、彼らの品行とテニスに近づこうと努力している。サンプラスのテニスは、ウルトラパワーで抜きん出ているが、何よりもグランドスラム大会のタイトルを優先して狙っているようだ。

彼は、世界No.2のカリスマ的存在のアンドレ・アガシや、1980年代の伝説的なプレーヤーであるジョン・マッケンローや、ジミー・コナーズ等とは対照的で、極めて控えめで口論することも全くないため、マスコミからは退屈な選手と批判の声も聞かれる。では本当のピート・サンプラスとは、どんな男なのだろうか。

新しい年も一生懸命プレーするよ

世界No.1の気分はどう? 思ったより居心地が悪いかな、それとも夢が実現したという感じ?

ピート その両方だね。夢が実現したのは確かで、ほめられ過ぎという感じもする。でもランキングが100位の頃と比べるとプライバシーは少なくなってしまった。良し悪しさ。現在は全てのことが早く通りすぎているので、年をとった時にそのありがたさがわかるかもしれないね。

94年の前半は、オーストラリア、リプトン、イタリア、ウインブルドンと、素晴らしい成績だったね。キミ自身こんなに完璧に近い成績を上げ、層の厚いテニス界でズバ抜けた存在になったことに驚いたかい?

ピート 94年前半の5か月間は、おそらくボクの人生で最高のテニスができたと思ぅよ。というのは現在多くのトーナメントがあるが、その試合で多く勝つというのは層の厚い今日のテニス界では特に難しいからさ。ボク自身も少し驚いていたが、その反面元気でいいプレーができるうちに多くのタイトルを取りたいとも思っていた。この5〜6か月間の成績は完璧といっていいね。

では95年もいけるかな?

ピート もっといい成績があげられるかどうかはわからないよ。94年は幸いにも2・3試合連敗しただけだった。95年は健康に気をつけて一生懸命プレーし、一年をとおしていい成績を上げたいと思っている。もちろんそれはできないことではないと考えているんだ。

ウインブルドンに優勝した後、故障に悩まされたようだけど、その経験からキミ自身は何かを学んだのでは?

ピート そのとおり、最初足首を痛めたけれどプレーは続けて、オランダで行なわれたデ杯にも出た。でも無理がたたったようだね。95年はもう少しクレーコートでのプレーを増やして体調を整えたい。一端故障すると休養が必要だが、ボクはそれをやらなかったんだ。

オーストラリアンオープンで思うこと

94年には易々と優勝したオーストラリアンオープンの開催が近づいているが、センターコートと、リバウンドエースというゴムのコートサーフェスについて話してくれないかい?

ピート 全てのグランドスラムの内で、選手にとってはオーストラリアンオープンのスタジアムが最高に便利。というのは、ロッカールームからストレートでコートに入れるからね。いったん外に出る必要がないんだ。立派なスタジアムだよ。

リバウンドエースというコートサーフェスも立派だ。しかし極端に高温になった時にはボールのスピードが変わってくるんだ。それに足元が少しすべりやすくなるから足をフルに使うわけにはいかないし、選手が足首をくじくシーンをよく見るよ。

でもしばらくの間はリバウンドエースのサーフェスは変わらないだろうね。いい点も悪い点もあるという感じ。個人的にはハードコートの方が好きだが、オーストラリアンオープンの当局者は、USオープンとは少し違ったサーフェスを望んでいるのだと思う。

ボクは好きじゃないけれど人工芝に代えるというウワサも聞くよ。リバウンドエースはいいが、完璧なコートサーフェスではないと考えている選手が多いようだね。

メルボルン(オーストラリアンオープン)で最も手強い相手は誰だと考えている?

ピート ジム・クーリエ(アメリカ)は少しの間ツアーから離れて体調を整えてオーストラリアに乗り込んでくる。また、今まで出場していなかったアンドレ・アガシ(アメリカ)もここ3〜4カ月は好調だね。ステファン・エドバーグ(スウェーデン)はいつもいいプレーをしている。ボリス・べッカー(ドイツ)やミヒャエル・シュティッヒ(ドイツ)もいるしね。おそらく5〜6人の選手に優勝の可能性があると思うよ。

94年、オーストラリアのタイトルを取った時にあなたはギリシャ人のファンの人たちに特別な謝辞を述べていました。あなたにとってギリシャ人の血を引く事はどんな意味を持っているのか、話してくれない?

ピート それはボクにとって大きな意味を持っている。ボクの母(ジョージア)は生まれも育ちもギリシャだし、父(ソテリオス)もギリシャ人の血を引いている。だからギリシャ移民が多く住んでいるメルボルンでは、ギリシャ人のファンからの手紙が数多く送られてくるんだ。ボクはルーツがギリシャ人であることを誇りに思っている。ギリシャには行ったことがないけれどいつかは行ってみたいと思っている。

結婚については彼女と話し合っているよ

ストックホルムの大会で、キミはアゴひげについて「ガールフレンドが生やしてみたらと言っている。彼女にとっては、それがいいみたいだ。彼女がいいならボクもいい」と話していたが、デライナ(サンプラスの恋人)の影響はどんな風で、どのくらいハッピーだと感じているの?

ピート 彼女はボクの事を非常によく理解してくれているんだ。というのは、テニスとボクのライフスタイルは複雑でツアーにでる時は少し自己中心的になる必要があるからなんだ。練習する時間も様々で、変な時間に食事することにもなる。だからお互いに独立した関係でお互いを理解する必要がある。

コートでやる事で頭がいっぱいでコート外でしゃくにさわるような事は起こってほしくない。ボクたち2人はうまくいっているし、ボクがしょちゅう旅行をすることもよく理解してくれている。だからこそ、極めてうまくやって来られたと思っているよ。

あなたはデライナの幸せについて、責任があると思っているかい? というのもジム・クーリエは、ガールフレンドだったモーガンが彼のスケジュールに合わせて生活せざるを得ない事に罪の意識を持ったため彼女と別れた、と告白しているからだ。

ピート ボクのガールフレンドは法学部に通っているので、そのような罪の意識を持ったことはない。ボクはいつも彼女に、ボクに関係なく彼女がしたい事を何でもするようにと言っている。彼女には彼女の人生と目標がありボクにべッタリという生活ではない。彼女は法学部の2年生で、彼女自身の日程があるという関係が本当にいいと思っているよ。これは重要な点だね。

キミはデライナを本当に愛していると言えるかい?

ピート もちろん、愛しているさ。

それ以上に発展したいと思っている?

ピート (笑いながら)いや、それはない。

1年ほど前にデライナはあなたとの結婚の予定について質問された時「結婚したい!」と答えている。このことについてキミはどう思っているの?

ピート 近く結婚するという予定はないよ。ボクにとっては急ぐ必要は全くないが、二人で話し合ってはいるよ。

ダブルスに出場するより休養の方が必要なんだ

伝統的で重要なこととしては、ダブルスがあるが、キミはめったにダブルスには出ないし、ダブルスに出る気が起こらないと告白しているね。それはどういう理由で?

ピート ダブルスには出ようという気持ちがないんだ。シングルスの試合が多いので、ダブルスにも出るとなると肉体的にもシングルスがきつくなる。というのは、1日に2試合プレーしなければならなくなるからさ。ボクがダブルスに出るのは、しばらくプレーを休んでいて、サービスとサービスのリターンを実際にやって調子を整える時だけ。

それにダブルスに出ると故障を起こしてしまうこともある。ウインブルドンで活躍したトッド・マーチンは、ダブルスにも出場して毎日試合していたが、ボクは休養する方が重要だと考えているんだ。ボクにとってダブルスの試合はちょっとした練習と考えているんだ。

しかしダブルスはボレーやサービスのリターンの役に立つのでは?

ピート それはそうだ。役に立つことは間違いない。しかしボクにとってはダブルスの試合に出るよりは練習して休養日をとることの方がいい。ダブルスの試合もいいが、時にはよくない事もあるんだ。

ロッド・レーバーは、キミのことを「オープン時代になってからの、どのプレーヤーと比べても最も完成したテニスができるプレーヤーだ」と言っているが、それでもキミのテニスにはボレーにもっとパワーをつけたい、といった様な改善したいと考えている面があるの?

ピート それはあるさ。ボクは、ボクのテニスに違った角度から取り組んでいる。ボレーをさらに安定させ、サービスのリターンをもっと良くしたいと考えている。自分のテニスに100パーセント満足することはないだろうね。

サービスがうまく行かない日もある。完璧に向けて絶ぇず探求している。このことが運動選手にとって重要なことだし、ボク自身が前進できる理由でもあるんだ。偉大なゴルファーであるジャック・ニクラウスでさえ、ツアーにはコーチを同伴しているそうだよ。

ボクの試合は退屈なんかじゃないよ

キミは最近のインサイドスポーツ誌の中で「今や観客は、試合中の弁解や激しい口論を期待しており、クリーンな試合は望んでいないようだ。これが今日のテニス界の姿だと思う。ボクは口論好きではないのに、人々はアンパイアに毒づいたりラケットを投げたりする様な、ボク自身とは全く違う人間になってくれ、と言わんばかりだ」と発言しているね。キミは時々「本質がすべてなんだ」とか「人柄がすべてなんだよ」という様なモットーを、マスコミ記者たちに書いて欲しいと思うことがある?

ピート それはもちろんあるね。記者の中にはボクを理解していない人がいて、ボクの様なプレーに価値をおかない人もいる。その人たちは、何か違ったこと、記事を書くのに都合のいい何かを望んでいるようなんだ。ボクは自分が間違っているとは思っていない。ボクは激しい口論もしないし、大騒ぎをする気もない。ただ、いいプレーをするだけさ。あんな風に批判されるなんて、まったくガッカリで、ボクには理解できないよ。

キミはその他にも「退屈だと思っているのは記事を書いている人たちかもしれない」と発言している。これはどういう意味? 

ピート 彼らはボクの試合が退屈だと書いている。ボクが退屈なのではなく、彼らが書く能力がないのではないかな。記者の人たちを批判するつもりはないが、例えばイギリスではボクについて何を書いたらいいのかわからない様なところがある。だからボクの試合が退屈だと決めつけてくるんだ。

でもそんな事はちっとも気にかけていないよ。黙ってやり過ごすだけで、全然ボクの問題ではないと考えているからさ。

興味深い事に、キミを弁護する記者も出てきている。英国のザ・オブザーバー紙のジョン・ヘンダーソンは「本当の卓越した選手は、一時的に観衆を喜ばす選手よりも、長く人々の記憶に残るものだ」と書いている。

またザ・ニューヨーカー紙のマーチン・アミスも「レーバー、ローズウォール、アッシュは、ダイナミックでしかも模範的な選手だった。彼らは人格者だったから "個性" なんて必要なかった」と書いている。この様な意見についてはどう思うかな?

ピート これはお世辞だと思うけれど、この様なことを聞くのはうれしいし、彼らの言っていることは正しいと思う。ボクは8歳の時からコートに出た時は "勝とう" として努力してきた。そして全てのことを表面(表情)にださないように、また、気が動転したりしない様にしてきたんだ。ボクはここ20〜30年間でマスコミが変わってきたと思う。

いつかレーバーがウインブルドンでマスコミについて、彼がプレーしていた頃とはどうだったかという質問を受けでいたのを覚えている。レーバーは「非常に変わってきた」と答えていた。昔の記者は友人同士の関係で、試合後は一緒に酒を飲みに行った様だが、今ではこんな事は聞いたこともない。記者とは一歩距離を置いているのが現状なんだ。

いまのボクにはライバルが必要なんだ

94年の8月に燃え上がったボリス・ベッカーが「この様なプレーができていれば、コートの反対側にサンプラスという名の選手がいない限りどんな相手でも負かすことができると思う」と発言した。またアガシも、キミのことを同じ様に高く評価をしている。このようなコメントについてどう思う?

ピート それもお世辞だよ。仲間を尊敬するのにトップの連中はこの様なことを言うんだ。いつの時代を通じても偉大な選手の一人であるべッカーからその様な言葉をもらうのは嬉しいかぎりだよ。しかし、ボクは自分がそれほど抜きん出ているとは思っていないよ。

キミがそう考えていないとしても、キミは最近のグランドスラム大会の6大会のうち、4大会で優勝し、87年のレンドル以来初めて年間を通じてNo.1のランキングの座をキープした選手になった。このことからも94年はキミの一人舞台といっていいのでは?

ピート ボクはそうは思っていないよ。まあそれも一つの見方ではあるけれどね。

キミは「ボクは退屈な選手ではなく、見て興奮を呼ぷ選手になりたいと思っていることは確かだ」と告白している。キミが5回優勝している試合ぶりは、ゲルライテスが言っているように「一分のスキもない」ものだったが、あなたの望んでいる様な状況になるにはもっと競った興奮を呼ぶ決勝戦になるとか、好敵手がいるという状況になる必要があるのでは?

ピート その両方が必要だと思う。ボクにはライバルが必要だし、ボルグ対マッケンローや、コナーズ対レンドルの様なグランドスラム大会の決勝にふさわしい試合が必要なんだ。これが結果的にはテニスの発展にもつながると思う。歴史の本には我々の記憶に残るようなグランドスラム大会の決勝戦が必要なんだ。ここ3〜4年、この様な決勝がみられなかったのはボクにも責任があるのかな?

ピート、キミが相手をやり込めすぎるのでは?(笑)

ピート そうかもしれないね。それが問題なんだよ。でも一度コートで向かい合うと相手を徹底的にやっつけてしまう。これについては反省しなければならないのかな。(笑い声)


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