スマッシュ
1993年7月号
No.1インタビュー ピート・サンプラス


 ジャパンオープンで初のNo.1を手にしたピート・サンプラス。続く香港セーラ
 ムオープンでも前No.1のクーリエを死闘の末に打ち破り、ポイント差を広げて
 王座を不動のものにした。新王者の誕生を記念して直撃インタビューと少年時代
 のストーリーを通じてサンプラスの素顔に迫ってみよう。

 なお、このページにあるレセプションパーティーの写真でおわかりだと思うが、
 インタビューに快く応じてくれた彼が実に飾らない性格であることをつけ加えて
 おく。

プレーに全力を尽くすだけ。ランキングはそのあとさ

(ジャパンオープン初戦後)
プロになってから日本のアウトドアでプレーしたのは初めてだけど寒さは気にならなかった?

サンプラス(以下ピート)すごく寒かったよ。こんな寒さの中でプレーしたのは初めて。だから、筋肉がつらないように、ゲームパンツの下にショーツを履いたんだ。

今日のプレーのデキは?

ピート リプトン(3月中旬のリプトン・インターナショナル=優勝)以来の割りには良かったと思う。

リプトンのとき、どこかケガをしていると言ったけど、もう大丈夫?

ピート 足のむこうずねのことだね。リプトンの2週間前に痛めて、剥離骨折かもしれないと思ってレントゲンを撮ってもらったら、そうじゃなくてホッとしたよ。ここ2年くらいの持病で、だんだんよくなっているんだけど、ストレッチやマッサージをして気をつけながらやっているんだ。今日は痛くなかった。

クーリエとポイント差がほとんどないという意味で、この大会は重要だよね?

ピート 他人のことなんて考えてないさ。自分のテニスでベストを尽くすというのが僕の信条だもの。

でも今年中にNo.1になりたいという気持ちはあるんだろう?

ピート それはもちろん、常に頭の中にあるよ。去年、USオープン(優勝すればNo.1だったが、決勝でエドバーグに敗れた)の後も、ヨーロッパの大会で2回チャンスがあったんだ。

近づけば近づくほど、頭をよぎるよ。だけど、とりあえずは健康第一。クーリエ、ベッカー、エドバーグも調子がいいから、簡単にはいかないさ。それでも可能性はあると思うけど。

現在のベスト14ランキングシステム(年間で成績のいい14大会のポイントだけカウントされる)をどう思う?

ピート パーフェクトなシステムだとは思わないけど、他に考えつかないしね。グランドスラム大会はすべてカウントされるべきだとは思うさ。でも、今のシステムによってトッププレーヤーが年に19〜22大会に出るのはテニス界にとっていいことだと思う。

アメリカはキミを含めたトッププレーヤーが出なかったせいで、デ杯の1回戦でオーストラリアに負けたわけなんだけど、出場の要請はあったの? もしあったとしたら、拒否したのはなぜ?

ピート 要請はあった。でも、断ったんだ。スケジュール的に困難だったからね。というのも、リプトンで決勝まで行くと日曜日だろう。それで次の木曜日にオーストラリアっていうのはきついよ。ハードからグラスと、サーフェスも全然違うし。

(3回戦でラオークスにフルセット勝ちして。前の試合でクーリエが敗れていた)
これでまた、No.1に近づいたことをどう思う?

ピート あまり考えてないよ。クーリエが負けたことに驚いているだけ。自分もそうならないよう、一試合ずつ考えていくよ。

No.1に近づいたのは励みになる? それともプレッシャーがかかる?

ピート どちらでもない。ランキングやお金はあとからついてくるもの。いつもプレーに全力を尽くすだけさ。

次はどの大会に出るの?

ピート 香港、それからクレーコートの大会をまわるつもりさ。

今年、クレーのシーズンに入るまでを振り返ると、調子が良さそうだね?

ピート イエス。リプトンも今週もね。クレーは自分のテニスに最適なサーフェスじゃないけど、去年もまあまあだったから心配はしていないよ。

東京でNo.1になったというのはあとで実感すると思う

(準々決勝でウィートンを破り、この時点でNo.1が決定)
試合中にNo.1を意識した?

ピート 今朝知らされるまで、今日勝つとNo.1だなんて知らなかったんだ。試合中は何回か考えたよ。とくにマッチポイントではね。

No.1になった気分は?

ピート まだ実感がわかない。7歳でテニスを始めてからNo.1になりたいと漠然と思ってたけど、はっきりした形でとらえていたわけじゃないし。ただ、実現したのはすごいことだと思う。

これで、東京は思い出に残る都市になる?

ピート 東京でNo.1になったというのはあとで実感できると思う。でもまだ試合が残っているから、明日のことだけ考えているんだ。

いつNo.1になるかと言われ続けたけど、これでひと安心?

ピート そのとおりだね。そう気にかけてたわけじゃないけど、マスコミに色々書かれてきただけに肩の荷がおりたよ。

No.1になって歴史に名を刻むことで、自分の今後が変わると思う?

ピート ノー。90年のUSオープンで優勝してからずっとトップ5にいたからね。これからもいつもどおりベストを尽くすことだけ考えると思うよ。

クーリエはNo.1よりグランドスラム・タイトルの方が大切だと言っていたけどキミはどう思う?

ピート 僕もそう思う。No.1になるより、No.2でいてUSオープンとウインブルドンで勝ったほうが意味があるからね。

今年ダメなら一生かかってもウインブルドンで勝つ!

ビッグタイトルを取るためには?

ピート ケガをしないことだね。むこうずねを痛めたのはプレーのしすぎのせい。だから、グランドスラム大会の前は1週間休もうと思っているんだ。グランドスラム大会は2週間だからきついもの。

そういう意味では、デ杯に出なかったのは正解じゃないの?

ピート そうなんだ。2週間オフをとったのがよかったと思う。


デ杯のメンバーのことでゴーマン監督をマッケンローが非難しているけど?

ピート 2人と話してないから本当のことはよくわからない。ジョン(マッケンロー)は長い間デ杯に貢献してきたから監督をやらせてあげたいという気もあるし、去年優勝したゴーマン監督をやめさせるのもおかしいという気もするし……。

(準決勝でマスーに完勝して)
昨日はNo.1を考えずに試合に集中したいと言っていたけど簡単だった?

ピート 昨日心配していたのは、No.1になったことで気が緩むんじゃないかということだったんだ。昨日で気分的にはピークになりたくなかったからね。でも、今日はランキングのことを心の中からブロックできて試合に集中できた。

昨日、No.1よりもグランドスラム・タイトルを重視すると言ったけど、コナーズやレンドルやマッケンローの時代ほどNo.1を重視しなくなったのはなぜ? ランキングシステムの問題かな?

ピート いや。大切なのは年度末に誰がNo.1であるかであって、今がどうこうじゃないんだ。クーリエは去年グランドスラム・タイトルを2つ取ったし、レンドルは全部で9つ取っている。マッケンローだって、ウインブルドンで3回優勝してるんだよ。グランドスラム大会を重視して、そこで結果がよければ自然にNo.1につながるんだ。彼らもそう考えていたと思う。

では、これでますますグランドスラム大会に照準を合わせやすくなったね?

ピート そうだね。去年惜しくもダメだったから、今年はUSオープンとウインブルドンにピークを持っていきたいし、フレンチオープンもチャンスがあると思う。

記録に残る選手と、記憶に残る選手のどちらになりたい?

ピート USオープンでの優勝や今回No.1になったことで、みんなに名前を知ってもらえるのは嬉しいよ。でも、自分を見てもらうのはコートの上だけでいい。アイドルになりたいと思わないし、コート外の姿を見せたくないね。全力でプレーしようとする姿を見て、ナイスガイというイメージを持ってくれれば満足さ。

(決勝でギルバートを簡単に下して)
今後、課題になるショットは?

ピート 今日のデキが続けば何もないさ。ただ、ウインブルドンに勝つにはサービスリターンを磨かないと。上達してはいるんだけれど、ビッグサーバーが相手だと不安が残る。去年、準決勝でイバニセビッチに負けたのは満足できないよ。

グラスは難しいサーフェスだし、相手との実力差を縮める。運も大切だね。でも、今年はぜひ勝ちたいし、もしダメなら、一生かかっても勝ちたいね。

USオープンで初優勝した2年前と比べて、技術的、精神的にどこが変わったと思う?

ピート グラウンドストローク全般が一番上達したと思うよ。クレーコートでの成績がよくなったことが、その証明さ。ベースラインにいても、気楽に構えられるようになった。精神面はまだ不安定なところがあるけど、今大会ではよかったね。

89年当時、堅実さが課題だと言ってたけど、もう万全?

ピート 今では安定性を身につけたと思う。プロになりたての頃は、大きな勝利をつかんだ次の日に、気がゆるんで負けたりしていたんだ。でも、今はそんなことがなくなったし、むしろ前の日よりもいいプレーができるくらいだよ。

(翌週の香港セーラムオープン決勝でクーリエを死闘の末に破り、クーリエとのポイント差を30から203に広げてフロリダ州タンパの自宅に凱旋後)

気持ちも落ち着いたところで、改めてデ杯欠場をどう思うか教えてくれる?

ピート ある程度非難されるのはわかってたんだ。でも、No.1になるという個人的な目標があったからね。難しい決断だったけど。No.1になれるチャンスなんてこの先何回あるか。11人しかいないNo.1の一人になれた以上、選択は正しかったと思う。


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