STERN(ドイツ)
2001年22号(5月)
年輩? 僕はほんの29歳だよ!
英訳:Cornelia Schwertner


ピート・サンプラスは、フレンチ・オープン以外のあらゆるグランドスラム大会に
優勝してきた。彼は最後の大きな目標、若い挑戦者たち、そして優秀な選手の多い事が
逆にテニス界に危機をもたらす理由などについて語る。


今期あなたはまだ優勝がありません。ハンブルグでは1回戦で敗退。13年間のプロ生活で、疲れてしまったのですか?

ピート いや、疲れてはいない。敗戦はいまでも僕を悩ませるよ。現在、僕は自分のゲームを見つけようとしている。フレンチオープンまでに、再び自信をつけなくては。

史上最高のプレーヤーにも、まだそういう事が必要なんですか?

ピート そうだよ! グランドスラム大会でいいプレーをするには、自分のリズムを見つけなくっちゃ。ただスイッチが入って、調子が戻ってくるわけじゃない。

パリへ行く時には、他の選手たちが少しばかり僕を警戒し、オーラを身につけ、「ピートは好調だ」と囁かれるようになりたいよ。

あなたは前人未踏の13のグランドスラム・タイトルを獲得しましたが、これまでパリでは優勝していません。そこで優勝するのは、あなたにとってどんな意味があるでしょう?

ピート まさに夢だろうね。クレーでは他のサーフェスでより弱くなる。僕のゲームはいささか圧力を失い、サービスはよりゆっくり跳ねる。選手たちはこれに気づき、「僕は今日ピートを倒せる」と考える。何にせよ、トップのレベルはこれまでで最も高い。サフィン、フェレロ、クエルテン、ヒューイットといった若い選手たちは、途方もなく素晴らしいよ。

にも関わらず、男子テニス界には、スポーツを魅力的にする個性に乏しいという危機感があります。なぜでしょう?

ピート あまりにも多くの違った優勝者がいるからだろう。もしほんの数人のトップ選手が優位を占めていたら、ライバル関係が生まれる。ライバル関係は人々の興味を引きつけ、売り物になる。以前はボルグ、マッケンロー、コナーズ、レンドルが競い合っていた。現在は、グランドスラムで優勝できそうなプレイヤーが20人くらいいるからね。

トミー・ハースとニコラス・キーファーも入りますか?

ピート ああ、彼らもね。いまテニスは移行期にある。アガシと僕が引退したら、これらの選手たちはみんな個別に認識されるだろう。
以前も同じだったよ。僕が1990年、19歳でUSオープンで優勝した時、マッケンローとレンドルはキャリアの終わりにさしかかっていると考えられていて、誰もが「この子供はいったい誰だ?」と思ったんだからね。

スターと認められるのにどのくらい時がかかるか、あなたはご存じですね。退屈だと長い間言われてきて、あなたのコンスタントな成績によって、有名になりました。

ピート もし僕がまだ何かを誰かに証明したいとしたら、僕自身に対してだね。プロはみんな、成長していく中で個性を身につける。若い時は泡の中で暮らしているようなもので、自分の周りで何が起こっているのか気がつかない。でも10年もたてば、視野は広がるよ。

いまの若い世代は、キャリア初期の頃のあなたとは違いますか?

ピート いや、彼らは僕と同じように、意欲的でハングリーだよ。

あなたが90年代にしたように、テニス界を支配できそうな人はいますか?

ピート 何人かはすごい才能があるし、クエルテンはその1人で、最も安定したプレーをしている。でも、いつもトップでいるのは難しい事だ。

あなたは,どうやって成し遂げてきたんですか?

ピート レンドルやコナーズのように、それに取り憑かれなければならない。僕は勝つ事だけを考えてきて、意識を逸らせるような事は起きないようにしてきた。人が言う事や報道陣が書く事には、注意を払わなかった。

ボリス・ベッカーは1997年、ウィンブルドンであなたに負けた後引退しました。彼は「自分はベストを尽くしたが、もはやそれでもピートには勝てなかっただろう」と語りました。あなたはこの気持ちが分かりますか?

ピート いや、僕は「自分がベストのテニスをしても、ノーチャンスだ」と感じた事はない。僕はいまでも、もし僕がベストのテニスをすれば、それよりいいプレーをし、僕を負かせる人はいないと思っている。

テニスプレーヤーの中で、年輩となったいまもですか?

ピート 年輩? 僕はほんの29歳だよ。まだとても若い。僕がいいプレーをする時のレベルは、以前と同じように高いよ。悪くなってきているのは、安定性だ。その代償は払わなければならない。

この年月の間に、あなたはどんな風に変わりましたか?

ピート 僕はもう世間知らずじゃない。20歳の時は成熟していなくて、ぬいぐるみの子犬みたいに走り回っているけど、この仕事はオフィスでの仕事より、人を早く成熟させる。たとえば、僕はヨーロッパの良さが分かるようになった。テニスはいまでも僕にとって重要だけど、「それが世界のすべてではない」といまは知っている。

引退について考えた事はありますか?

ピート いや、全然。もう勝ち負けにこだわらなくなる日が来たら、「やめた、もう充分だ」と自分で言うよ。でも1つだけ決めている事がある。いったんやめたら、二度と戻らない。だけど、まだその日は遠いよ。

多くのアスリートにとって、引退はキャリアの最もむずかしい決断のようですが。

ピート 素晴らしい試合をする時の感覚は、信じられないくらいワクワクするものだからだよ。そして、実際の人生でそんな激しい感覚を見つけるのはとてもむずかしいと、誰もが分かっているからだ。バスケットボールのマイケル・ジョーダンをごらんよ。彼はまたカムバックを考えている。これは中毒みたいなものなんだ。

テニスのない生活を想像できますか?

ピート 分からない。いずれにせよ、何かすべき事が必要だ。ゴルフをし、映画を観にいくだけでは、僕にとって充分ではないだろうからね。

ベッカーの例を見れば分かりますが、ビジネスマンとして同様の成功を収めるのは、むずかしいようですね。

ピート コートでは、すべて自分がコントロールする。それが、多くのアスリートがビジネスで失敗する理由だろう。彼らは自分で全部やらなければと考える。でもビジネスはテニスの試合ではない。信頼できるパートナーが必要だ。

あなたは、うまくやれますか?

ピート 僕はそういう失敗をするとは思わないよ。というのは、これ以上お金を稼ぐ事に興味がないからね。僕はただ心の平穏のために、何か楽しんでできる事を見つけたい。多分、僕は子供たちにテニスのやり方を見せるだろう。どうかな?


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