ESPNマガジン
1999年6月号
僕は自分の成功に、むしろ居心地悪い
インタビュ:Dan Patrick


ピート・サンプラスは、瞠目すべきハイレベルの安定性と業績を維持してきた。それでもなお、我々が焦点を合わせるのは否定的な側面である。人々は、彼には個性がないと言う。さもなければ、彼は一度もフレンチで優勝していないと言う。

だからどうだというのか? 私なら12回のグランドスラム優勝でも充分だろう。彼はテニス界のラリー・ホームズである。彼は誰に逆らったというのか? すべては重箱の隅をつつくようなもので、そして不当である。

彼が1999年6月にステラ・アルトワ大会で優勝した後、私たちは話をした。1時間半を一緒に過ごしたが、私が雑誌のためにインタビューした中でも、彼は最も素晴らしい1人であった。彼は自分を茶化し、彼は個性を持っていないと思っている人々を茶化した。それをウィットと知性に富んだやり方で軽妙に表現し、活気がないという彼の評判が、どれほど真実から遠いものか私は知った。

インタビューしたアスリートの中で、ピート・サンプラスは最も私自身に似ていると感じる。彼には偉大でありたいという願望はあるが、それを認められたいという欲求はない。プレーしたいからプレーするのである。たとえ人々が、彼がそうでない事のために批判し続けようとも、彼は自分が望むやり方で、ただプレーし続けるのだ。最終的に、それは認められるであろう。


ダン 勝った後と負けた後とでは、君の気分には違いがあるかい?

ピート あー、ええ。負けると僕は落ち込み、ガッカリする。それは負け方にもよる。誰に、いつ、何の大会で負けたかによる。でも今日の勝利はナイスだったよ。僕はそれを必要としていた。

ダン それは面白い。というのは、君のエージェントに話をした時、私は「彼はティム・ヘンマンに勝つだろう」と言ったんだよ。数日前の事で、実は私はステラ・アルトワ大会に誰が出場しているかも知らなかったんだ。

ピート おいおい!

ダン 大した事じゃない。ビールだ。みんなステラとは女性の事だと思ってるさ。ビール。君は1杯やったかい?

ピート (笑)いや、僕はビールを飲まない。でも僕が何をやったか、あなたは知ってる? 僕は実際にESPNマガジンを買ったんだ。

ダン 買った? このインタビューがどんなものか知るために?

ピート そんなところ。あなたとデビッド・コーンのインタビューを読んだよ。

ダン そして君は不安になった。

ピート 彼は「Spanktravision(お尻をひっぱたく?)」について話をしていた。僕は「ウワーオ!」って感じだった。(笑)


ダン 私は彼のホームラン・コール「お前は自分の足首でも掴んでろ!」が気に入っている。(両者とも笑う)

ピート 彼は魅力的だね。

ダン 実際は、載せられない事もたくさんあったよ。


ダン いつ君は自分のエゴを見せるんだろう?

ピート テニスコートで。それは僕のエゴが活動し始める唯一の時だ。

ダン しかし、どのように見分けられる?

ピート 外側からは分かりにくいだろうね。でも心の奥深くで、負ける時には僕のエゴは傷つくよ。

ダン 興味深いね。私には見えない。

ピート まあ、コート上でだよ。

ダン でも君は喋ったりしない。物を投げたりもしない。君はコート上で感情を露わにする男ではない。

ピート それは個人のプレーに帰着する。誰でもしたい事をし、言いたい事を言える。でも結局、プレー中に何をするかに要約される。それが僕の心構えであり、性格だ。僕はとても控えめな人間で、自分のキャリアでの成功にも、居心地が悪いくらいなんだ。

ダン おそらく、ハングリーな状態を保つには、そうすべきなんだね。自分を素晴らしいなんて思うと、すぐに誰かが現れて、打ち負かすだろう。

ピート それは致命的行為だよ。

ダン 君が自分で自分を、世界最高のプレーヤーだと言うのを聞いた事がないよ。あるいは、マルセロ・リオスのポニーテールを切りたいなんて言うのもね。

ピート 言ってみたいけど、舌を噛んじゃうよ。

ダン 偉大さを評価する際、何をしていないかという事で判断すべきかい?

ピート 僕のスポーツでは、すべきじゃないと思う。現在と40〜50年前を比較する事はできない。だから、自分がした事で判断すべきだ。それが本当のテストだ。

ダン しかし人々は「はい、でも………」と言うよね。

ピート まあ、白黒つく訳じゃないよ、ダン。(両者とも笑う)

ダン これを書き留めておこう。ここで少しセラピーを受けると。

ピート もちろん、批判家や歴史家、昔の人たちは、僕がフレンチに勝つまでは史上最高ではないとか、いろいろ言うだろう。でも、ロッド・レーバーやその時代に敬意は払っているけれど、現在は別のスポーツなんだ。

レーバーはどんなサーフェスでも、他の人より優れていたけれど、彼の時代には現在のようなクレーコート・アニマルたちはいなかった。彼は2〜3人について悩めば済んだが、僕はおよそ50人くらいについて、悩まなくちゃならない。

ダン でも君の人生は、フレンチ・オープンがなくても完璧かい?

ピート うん、僕の人生は素晴らしいだろう。ガッカリはするだろうけれど、そもそも僕は、こんなに優勝できるとは思ってなかったもの。

ダン 有名である事について、最良の事は何だい?

ピート 世界でも最高のゴルフコースでプレーできる事。いつ、どんなレストランにでも入れる事。そんなところかな。

ダン では、最も悪い事は。

ピート どんな大会でも、車から降りたり、ロッカールームを出ると、僕は人に気付かれる。時によっては、いつも見つめられたり、サイン、写真、不作法な人たちに対処したくない事もある。

ダン 退屈だと言われるのは、傷つくだろ?

ピート うん、それにナンセンスだ。退屈な人なんていないよ。

ダン 同感だよ。

ピート そういうような事は、僕の性格に対する個人攻撃だと受け止めている。あなたはあなただし、僕は僕でしかない。

誰かの事を退屈だと言うのは、逃げだ。何が僕を動かしているのか、あるいはなぜ僕がそうするのかを理解しようとする代わりに、ただ「彼は退屈である」と言って終わりにするのは楽だからね。

ダン(笑)

ピート まさにそういう感じなんだ。僕は時に、メディアをそう見ている。男子テニスについて、個性がないとかライバル関係がないとか不満を聞くが、すべて否定的な見方だ。

なぜ100位のアンドレイ・メドベデフがフレンチの決勝に進出するのか、なぜいまの男子テニスは層が厚くて、誰にも勝つチャンスがあるのか、そういう事について考えるべきだ。確実なものはないんだ。

否定的な事ばかりあげつらう。ウンザリだよ。

ダン バーブラ・ストライサンドはアガシに電話したが、最初に君のところに電話はあったかい?

ピート (びっくりする)いいや。

ダン 彼らは数年前、USオープンでデートしたそうだが、それを知りたかった。

ピート 僕はもう少し若い人の方がいいや。

ダン 君は50代の人は好みじゃない?

ピート いいや。僕は彼女をピッチングウェッジと呼ぶよ。彼女は150ヤードくらい離れて見るとステキだ。(両者とも笑う)

ダン これがいわゆる個性と呼ばれる喋り方だ。いま君はそれをしてみせている。


ダン 君の夢のフォーサム(ゴルフの4人グループ)はどんな組み合わせ?

ピート ニクラウス、ジム・キャリー。ニクラウスは真面目だから、少しユーモアがほしい。当たってる?

ダン ああ、彼は退屈だよ。

ピート そうだね、彼は退屈で、18のメジャータイトルを獲得している。(笑)ニクラウス、ジム・キャリー、それとあなた、ダン。あなたと一緒にゴルフをしてみたいな。

ダン 私は上手いよ。

ピート 知ってるよ。

ダン そう書いてあったのを読んだだけだろう。それで君は女性はいらないの?

ピート ゴルフコースで? いいや。僕はレッドティーを待っていられない。後ろからプレーしようよ。


ダン ウインブルドンのプレスから受けた質問の中で、特筆すべきものはあるかい?

ピート あそこのプレスは、僕から大した事は聞けないと知ってるから、そういう質問はしないんだと思うよ。

ダン 君がいまでもジェニファー・アニストンとデートしているかとか、聞かないの?

ピート いいや。

ダン ジェニファー・アニストンが誰か知っているかい?

ピート 知ってるよ。彼女はギリシャ人の女性で、僕もギリシャ人だ。

ダン では、私が君たちのデートをお膳立てしよう。

ピート 僕たちギリシャ人の間には、行き来があるんだよ。

ダン シュテフィは1988年に、年間グランドスラムとオリンピックに優勝した。クリス・エバートは13年間連続で、毎年少なくとも1つのグランドスラムに優勝した。どちらがより素晴らしいと思う?

ピート なぜ女子テニスの話をするの? でも質問に答えよう。僕は、クリスが13年の間、毎年メジャーで優勝した方を取る。

ダン とても素晴らしい事だね。

ピート とても立派だ。

ダン 君は若い娘っ子について話したくないのかい?

ピート 娘っ子ときたね。レンドルが8年連続、USオープン決勝に進出した事はどうだい?

ダン それはクリッシーよりすごいかも………。

ピート まあ、僕たちはWNBA(女子プロバスケットボール・リーグ)とNBAの話をしてるんじゃない?(両者とも笑う)でもあなたの質問、野暮な質問に答えるなら、 クリッシーの13年だね。

ダン 私は女子テニスを見るよ。

ピート 個性ってやつがあるから。

ダン いや。シュテフィがモニカと対戦する時には、いわゆる個性は入り込まない。でも、それが素晴らしいテニスだから見るんだ。

ピート あなたは正しい、そういう事だ。たとえばグスタボ・クエルテンがカルロス・モヤとフレンチで対戦するとしたら、見る?

ダン セレシュ-グラフ戦ほどじゃないね。

ピート 正直だね。とても率直だ。

ダン コートでの君を動物にたとえると、何だろう?

ピート マングース。ジュニア・デビスカップの時、監督が僕につけたあだ名だった。マングースは敏捷で強くて速く、ヘビを捕えるだろ。

ダン 君がいい答えをしてくれて嬉しいよ。「なんてバカげた質問だ!」と言うかと思ってたから。

ピート いい質問だよ。退屈な答えは退屈な質問から来るんだ。(一本調子をまねて)「今日プレーしていて、どんな事を考えていましたか?」

ダン お気に入りのバンドは?

ピート パール・ジャム。(間)彼らを知ってる?

ダン ああ。エディ・ベダーはいいね。

ピート いい程度?

ダン 心を揺さぶる。

ピート 彼は王様だよ。僕のお気に入りはパール・ジャムの他に、REM、デイブ・マシューズだけど、パール・ジャムが最高だ。フロリダのコンサートで彼らに会ったんだけど、エディ・ベダーに会うのは畏れ多かったよ。そんな風に感じたのは、彼が初めてだ。

ダン 連想ゲームをしよう。芝生。

ピート 速い。

ダン クレー。

ピート 滑りやすい。

ダン エース。

ピート アンタッチャブル。

ダン 恍惚とかオルガスムとか言うかと思った。

ピート その方向へは行かないよ。

ダン ビーナス・ウィリアムズ。

ピート アスレチック。

ダン 君はリッキー・マーチンを知ってる?

ピート NASCARレースに出てる人?

ダン 「La Vida Loca」の人だよ。

ピート ああ、知ってる。

ダン 君が見えないくらいハードにボールを打つ人はいる?

ピート 見えるけど、届かないんだよ。芝でのゴラン・イワニセビッチ。彼が打つと、できる事は大してない。返球不能。

ダン テニスの人気をより高めるために、君だったら何をする?

ピート 僕だったら、大会数を半分にする。ランキング・システムを変える。それと、全部のグランドスラム大会の決勝で、僕とアンドレが対戦するように決めちゃうな。


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