ace(イギリス)
2001年10月号
Home Loving Pete
インタビュー:Tiffany Osborne


   ピート・サンプラスは世界で最も魅惑的な場所に住んでおり、映画スターと結婚し
   た。しかし彼は有名人としての生活を避け、家でくつろぐのが何よりも好きだ。彼
   の豪華な邸宅で行われた単独インタビューの中で、サンプラスは Tiffany Osborne
   に、この11年間で初めてトップ10以下になったが、引退する考えはないと語った。


峡谷に囲まれてハリウッドスターが暮らす、ロサンジェルスの超豪華な住宅地、ビバリーヒルズでピート・サンプラスの家を探そうとするなら、完璧に刈り込まれた庭つき豪邸とパームツリーの並ぶ、広い道をたどる必要がある。丘をくねりながら上る道が細くなるにつれ、建物の豪華な見かけは徐々に素朴なものになってくる。

「僕はこの高い場所にある、周りから隔絶された家にいるのが好きなんだ」とサンプラスは言う。「静けさが好きだ。僕はずっと人目にさらされているから、家にいるのが、ただもういいね」

その理由を知るのは容易い。それは人をくつろがせる環境である。セキュリティー・システムのついた門の後ろにあるのは、魅力的で気どらず、慎み深い所有者の人柄を反映する家だ。

家にはグリーンの鎧戸つきの窓があり、白いレンガと木でできている。庭はバラの木で縁取られ、中庭から、小さなレモンの木々に囲まれた、手頃な大きさのプールへと続く。

サンプラスは高い天井の部屋に、専用トレーニングジムとビリヤード台を所有している。以前の持ち主であるサックス奏者Kenny G.は、この部屋をレコーディング・スタジオとして使っていた。

家は趣味の良い中間色でまとめられ、節度あるサイズのキッチンと食堂があり、家じゅうにサラウンド・サウンド・オーディオ・システムが施されている。テニスコートも例外ではなく、彼は Pearl Jam の音楽を聴きながら練習するのが好きなのだ。

「僕は彼らの音楽も、彼ら自身も好きだ。彼らはごく自然に振る舞う。多くのロックスターと違い、彼らはごく控えめで気どらない男たちで、それが僕を引きつける。僕はエゴをむき出しにしない人が好きなんだ」

それがピートである。人前に出たがらず、気どりのない控えめな人間。実際、この家の持ち主を知る唯一の手がかりは、居間に並ぶ、彼の傑出したキャリアを証明する数々のトロフィーだけである。

ピート・サンプラスの業績について、いまだ書かれていない事はあまりない。彼は年度末ランキングで6年連続1位になり、13回のグランドスラム優勝を果たしたレコード・ホルダーである。そして彼は、現役プレイヤー最多の63タイトルを獲得している。史上最高かどうかは論議があるとしても、間違いなく彼の世代最高のプレーヤーである。

しかし今年は、通常のゲームプラン通りには行っていない。1年以上優勝を果たしておらず、彼の高水準からいえば、グランドスラムでの成績もふるわず(フレンチ2回戦、オーストラリアンとウインブルドン4回戦、USオープン準優勝)、レジェンドは見限られている。USオープン前には、この11年間で初めてトップ10から外れさえした。30歳にして、彼はシーズン終わりには引退を考えているのだろうか?

「いいや、バカげている」と彼は主張する。「僕はもうすぐ辞めるなんて言ってないよ。思うに、結婚もしたしグランドスラムの記録も破った、もう何も証明する事はない、今年が最後のウインブルドンだろうと、みんなは決めてかかっているんじゃないかな。でもそれは違う、僕は引退しないよ」

女優のブリジット・ウィルソンと結婚した後3カ月休みを取り、その後の調子は、結婚と勝利は両立しないという、スポーツ界の定説を打ち消す助けとはなっていない。しかしピートにとって、ブリジットは人生に、以前にはなかったバランスをもたらしてくれた事は疑いない。

「確実に彼女は僕に、安定と幸せをもたらしてくれた」と彼は言う。
「僕らは9カ月間つき合ってから結婚したけれど、4〜5カ月の時点で、彼女と結婚しようと思ったよ。僕にはいい時と悪い時があるが、僕たちはその両方を、昨年と今年のウインブルドンで経験した」

「彼女はテニスに関する予備知識がなかったから、僕の日課とか、試合の時、僕は自分のする事に集中し切らないといけないという事などを、努力して理解しなければならなかった。彼女はいつもそこにいて、僕をサポートしてくれている。今年のウインブルドンでは、僕は扱いがたかった。僕はすごく自分に厳しくて、そんな時の機嫌は悪いからね。僕のそばにいるのは、あまり楽しくなかっただろう」

ピートの居間にはウインブルドン・トロフィーのレプリカが7つあるが、期待された8つ目は、今年は実現しなかった。4回戦まで勝ち進んだ後、2週目の月曜日、スイスのロジャー・フェデラーに敗れたのだ。

「ウインブルドンの2週目に残れなかったのは久しぶりだ」と彼は認める。「こんなに早く家に帰る事になるとは思っていなかった。勝ち進んで再び優勝しようと考えていたから、敗戦を受け入れるのは辛かった。一両日、頭の中で、あの試合と僕が掴んだチャンスをリプレイしていた」

「だけど、僕のように何年間も優位を占めてきても、接戦にいつも勝てるわけではないという、平均の法則に現実的でなければね。僕はタフマッチをくぐり抜けるのに慣れていたから、ここで負けるのは、相手が素晴らしいプレーをした時だと考えていた。数年前のクライチェクのようにね。

フェデラーがあれほど素晴らしいプレーをするとは予想してなかったけれど、僕も勝てるだけのプレーをしたと感じていたし、チャンスもあった。あの敗戦を乗り越えるのは非常にむずかしかった」

「ここまで、今年の結果は少しばかりガッカリするものだ。まずメジャー大会で優勝できていないし、安定していない。ウインブルドンで良い結果が出せていれば、それを補えただろう。いつも僕の1年を多少救ってきてくれた大会だったからね。だけど現時点でパニックに陥る理由は何もない。今年メジャー大会に1つも勝てない可能性もあるけど、来年は全部勝てるかもしれないとも感じているよ」

すでにこれほどの事を成し遂げ、歴史上の地位は保証つきであるし、彼の成績を凌駕する事はまずないだろう。これほどの事を成し遂げた人間が、13年間もプロとして過ごしてきて、どうやってさらにプレーし続ける動機づけができるのか、理解するのは困難だ。

「いつもグランドスラム大会に対して、モチベーションを持つんだ」とピートは言う。「ウインブルドンに出場してプレーする時、モチベーションが湧かなかったら、何か他にする事を探すべきだね。グランドスラム大会は一番に目指すべきもので、厳しい時でもある。

いままで何回も入れ込みすぎて、えらい目にも遭っている。僕は長い間トップにいて安定していたから、ある時点で譲らなければならなかった。アガシのようにアップダウンのあるタイプの人間は、年齢を重ねるにつれて良いプレーができるようになる」

「やる気はいつも僕の内側から湧き出るんだ」と彼は明かす。「良いプレーをするために、アガシとか他のプレイヤーを見て発奮する必要はない。グランドスラムの記録を達成した後、何か新しいゴールを見つけなければならなかった。それはグランドスラムに勝ち続ける事であり、記録に上乗せして、僕と他の人たちとの差を広げる事だ」

サンプラスは望みうる限りの幸せと富、タイトルを手に入れているように見える。しかし彼の記録には、明白に抜け落ちているものがある。彼はフレンチオープンで優勝した事も、決勝に進出した事もない。そして最も熱烈なファンでさえ、彼がローラン・ギャロスの赤土を制する事に疑念を抱いているに違いない。

今年、予選上がりのフランス人、セドリック・カウフマン相手に3つのマッチポイントを逃れた後、何とか1回戦をくぐり抜けたが、2回戦ではスペインのそこそこの選手、ガロ・ブランコから、セットを取る事さえできなかった。

「負ける事とすべきプレーをする事とは、また別物だ。だけど今年の僕のプレーは、間違いなく実にひどいものだった」と彼は認める。「僕は良いプレーをしなかった。なぜそうなったかはいまだに謎だ」

「メンタルの問題でもあるけれど、テニスの問題でもある。芝生やハードコートでのプレーは、僕にとっては第二の天性と言える。しかしクレーでは、同様のエネルギーと同じタイプの攻撃的なプレーで行けると思うんだけど、精根尽き果ててしまう。

少し自分を静める必要があるんだが、それは僕には簡単じゃない。僕はひたすら自分のパワーとペースで突き進むのに慣れている。それがあまり効果的でない時、少し無理をし始め、ミスが増え、穴に落ち込むんだ。それが僕の傾向だ」

「僕は攻撃的であろうとし、ネットに出て相手にプレッシャーを与えようとする。だが今日、彼らはみんな良いプレーヤーだ。それは疑いもない。それに彼らは僕に少し弱みがある事を知っていて、それは彼らの助けになる。フレンチでは、僕は自分のオーラに頼る事ができない。しかしウインブルドンやその他の大会では、僕は "倒すべき男" の1人であるといまも感じているよ。フレンチでは、僕はダークホースの1人というところだ」

「僕はいまでもこの大会で優勝できると信じている。どんどん大変になってきているけれどね。クレーでは誰もがプレーできるから、優勝するのが最もタフな大会だと思っている。優勝できそうな選手が30人くらいはいる。体力的にも非常にきつい。だけど、物事がうまい具合に行き、なにがしかの幸運を得て、良いプレーをし、妥当な選手たちと当たれば、ある年優勝は僕の運命になるだろうと、いまでも信じているよ」

フレンチのタイトルがないという事で、サンプラスは史上最高のプレーヤーかどうかという事には、いつも議論の余地がある。彼はどう考えているのだろうか。

「それに答えるのは本当にむずかしい。でも時代ごとの代表的選手というのはいると思う。ロッド・レーバーは60年代最高の選手であり、僕は90年代を代表する選手だったと思う。

僕ら2人を比べるのは不可能だ。競争という点でも、テクノロジーという点でも、違うスポーツと言える。もしレーバーが今日プレーすれば、あるいは僕がかつての時代にプレーしたら、僕らはやはり圧倒的強さを発揮できただろう。

だが、 僕とレーバーが対戦したらどちらが勝つかは分からない。僕としては、テニスをしてきた誰に対しても、僕は勝つだろうと考えたいけれどね」

サンプラスはその手腕と圧倒的強さを賞賛されるが、どういうわけかアガシ、クエルテン、ベッカーのような、大衆を魅了するカリスマ性が欠けている。彼はしばしば選手としても人間的にも退屈だと見なされる。

「最近は、メディアは僕に対して感じよくなってきている。多分2回目のグランドスラム優勝から9回目くらいまでは、テニスがうまく行っていないとか、ウインブルドンの勝ち方や僕のテニスがつまらないとか、僕はテニスに充分貢献していないとか、そんな事ばかりだった。

長い間それはつきまとい、僕を少しばかりシニカルにしたよ。10回目の優勝あたりで、ようやく彼らは "ひょっとしたら特別な、史上最高のプレーヤーがここにいるのかもしれない" と言いだし、僕のテニスが認められるようになってきた」

基本は、ピートが求めているのはすべてテニスに関するものだという事だ。彼に関心があるのはタイトルであり、記録であり、歴史上の地位である。

「ロスに住んでいると、みんなは僕がトークショーなどに出演するのだろうと思いがちだ。でも僕はそういう事はしない。僕は干渉されない生活が好きなんだ。

もしそれだけの価値があるなら、あるいは僕がそれに値するなら、トークショーに出るのもかまわないけれど、ただトークショーそのもののために出演する気はない。もしプロモートすべき何物もなかったら、自分を売り込んだりしない。メジャー大会に勝ったら何かするだろうけど、それ以外は何もしない」

見たままがピートなのである。彼は派手でも華やかでもない。成功に伴う装飾を楽しみはするが、いわゆる有名人の生活は避ける。

「ロスに住んでいると、プレミアショーなどに行くのだろうといった偏見をみんな抱くけれど、僕はそういうのに興味を感じた事はないし、いまもないよ。ただ家で過ごすんだ。僕はどこででも暮らせるけれど、たまたまロスに家があるというだけだ」

「僕は家で妻と一緒にいるのが好きなんだ。テレビで映画やスポーツを観たり、たまにレイカーズの試合やゴルフを見に行ったり、パーム・スプリングスの親類や家族に会いに行ったりするくらいだ。初めて叔父になったばかりで、自分たちの子供についても、もちろん話し合ってきているし、いずれそのために努力もするよ! でもいまはまだだ。もし子供ができたら、その時はその時だけど、いまのところは予定していない」

ごく近い将来に関しては、いつも通りに仕事をする。「引退するのは、能力がどうとかではなく、もうプレーしたくなくなった時だ。まだ競い合いたいと僕が思う限り、出場して負けてもかまわない。僕が言いたいのは、負けるのは楽しくないけれど、精神的にもう充分だと感じるまで辞めないという事だ」

「引退後に何をするか特には考えていないけれど、何かをしなければならないとは分かっている。ただノンビリして、ゴルフをしたりテレビを見たりしている事はできない。解説? さあね。シニアツアーでプレーする事は考えていない」

「もし明日辞める事になっても、正直言うと、長い間1位でいられた事や、誰よりも多くのグランドスラムで優勝できた事を、とても幸せに思えるだろう。そうは言っても、僕はもう数年やるつもりだし、まだ引退しないよ!」


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