ace(イギリス)
2001年7月号
何がピートにプレーを続けさせるのか?
インタビュー:Jorg Allmeroth


   サンプラスは今年30歳になり、ツアーに参加して14年になる。最高記録である
   13のグランドスラム・タイトルを獲得し、4,000万ドル以上の賞金と、さらにそ
   れ以上の契約金を稼ぎ出している。彼にはゴージャスな妻もいる。それでは、彼は
   なぜトレーニングを続け、旅をし、プロテニスのストレスと負担を、自分にかけ続
   けるのだろうか? サンプラスはJorg Allmerothに語る。


チャンピオンである事の負担・緊張

誰もが倒したいと思うプレイヤーである事に、どうやって対処しているのですか?

ピート プレッシャーははかり知れないよ。時々、8,000メートル級の山に阻まれている、登山家のような気分になる。誰もが、僕やアガシのような者を倒せる時を待っている。僕のような、かなりリラックスした、自信のある者だけが、自分の立場を守り通せるのだと思う。対戦相手には大いに敬意を払っているけれど、同時に自分に言い聞かせるんだ。「僕は彼らよりいい」ってね。

それにキャリアの現段階では、もうプレッシャーはそれほど大きくない。最終的に、自分の目標のほとんどを達成したからね。特に昨年ウインブルドンで、グランドスラム記録を達成したし。

肉体的なものと精神的なものとでは、どちらがより大きな課題ですか?

ピート 最も大変なのは、自己の弱い部分を克服する事だ。いつも気持ちがフレッシュでなければならないし、内なる集中力を見つけなければならない。そして、重要なゲームの重要な場面で、いつも冷静であらねばならない。それに比べれば、肉体的な努力は大したものでもなくなるよ。

テニスはノンストップの娯楽マシーンのようになってきています。トップ選手の負担は、より大きくなっていますか?

ピート その通り。止まらないメリーゴーランドみたいだ。でも常に露出する事は、危険でもある。スターはあらゆる大会に出場を期待される。怪我の度合いはとても高くなっている。そしてトップ選手が無理をするので、予想しない結果が増えてきている。健康に悪影響を与えずに、そんな努力を続ける事はできないよ。

多くの人が、現代のパワーゲームは、特にウインブルドンでは魅力がないと言いますが、どう思いますか?

ピート 近年試合を見にきた観客は、誰も後悔なんかしてないと思うよ。専門家と言われる人たちは、アガシのような人間が、全サーフェスで優勝したという事を忘れている。

彼はあらゆるタイプの選手に対抗できると証明した。これが、テニスのすべてに対する答えだ。進化は決して止まってない。

テニスにおけるライバルについて

若い頃、あなたはそれほど大物とは、見なされてなかったんですね?

ピート 僕はただ物事を、順序通りに進ませていただけさ。タランゴ、クーリエ、アガシなど同世代の他の者が、僕より上にいた時期もあった。でも実際のキャリアは、プロレベルで始まる。そこが、己を証明する時なんだ。

トップクラスのテニスのレベルは、互角ですか?

ピート 最近はどんな大きな大会でも、優勝できそうな者が30人くらいいる。そして彼らはそういう心構えで臨む。でもこの現象は、必ずしも良いとは言えない。危険でもある。トップのハッキリした序列は、スポーツ・スポンサー・観客のためには、より良いだろう。

ゴルフもそうだけど、毎週違う人が優勝している時は、テニスへの関心は薄れていく。だけど、1人か2人の傑出した選手がいる時代は、じきに永久に終わりを告げるんじゃないかと思うよ。

1995年頃のアガシとあなたのような、強いライバル関係を支持するのですか?

ピート あの頃は、僕にとって最高の時期だった。彼との試合には、ものすごい激しさがあった。1位対2位のボクサーがリングに上がっているようで、アメリカでは、タイブレークの意味さえ知らないような人も、テレビにかじりついていたよ。

1997年に彼がランクを下げていった時は、残念でしたか?

ピート アンドレが141位まで落ちてしまった時は、本当に悲しかったよ。特に、彼がどんなに才能があるかを考えるとね。でも彼には、辛抱してやり通せるタイプでない時もあったんだ。最近は全く違う。いま彼はかつてないほど、テニスのために生きている。実を言えば、ある時点では、彼はもう終わりかと思った事もあった。

フレンチで優勝していないという事は、どの程度あなたを悩ませますか?

ピート 確かにパリは、僕にとってジグソーパズルの欠けた1片だ。あそこでの勝利は、テニスプレーヤーのピート・サンプラスにとって最大の目標だ。でもローラン・ギャロスで勝つためだけに、自分の全テニス・キャリアを滅茶苦茶にはしないだろう。レンドルがウインブルドンのために試み、空しく終わったような事を、自分に強いたりはしない。僕の問題は、クレーでは僕には弱点がある、そして他の選手たちはそれを知っているって事だよ。

自分の性格について

あなたはしばしば、テニス界のリーダーとしては面白みがないと、批判されてきました。

ピート いったい僕に何をさせたいんだい? ワイルドパーティーを開いて、毎日見出しをにぎわわせる事? それとも対戦相手を殴りつけて、コートを大騒ぎさせる事? 

センターコートをハリウッドみたいにするっていうのは、僕のスタイルじゃない。僕は最高のテニスプレーヤーとして受け入れられたい。ゴシップコラムには興味がないんだ。

でも、あなたの公のイメージには関心がありますか?

ピート もちろん。問題は、近頃はただナイスだってだけじゃ、充分ではないって事だ。面白い人物だと思われるには、スキャンダルを提供したり、後ろ暗い一面を持たなくちゃいけないようだ。

親ごさんが来て、「ピート、あなたは私の子供たちのお手本です」と言ってもらえると嬉しいよ。自分のイメージを上げるために、バッドボーイを演じる必要はないって、納得させてくれる。論争のための論争は、僕はしたくない。

では、あなたに関しては、イメージはすべてではないという事ですか?

ピート 基本は、僕はコメディアンとかエンターテイナーとしてでなく、テニス界で最も多くのグランドスラム優勝をした男として、記憶されたいという事だ。最高のショーは、テニスそのものだ……華麗なストローク、偉大な勝利さ。

妻と両親について

あなたの奥さんのブリジットは女優です。彼女はコート上のあなたのパフォーマンスに、エキサイトしますか?

ピート 幸いにも、彼女は試合ではなく、僕に関心があるだけだよ。きっと彼女は、僕が俳優になるよりは、マシなテニスプレーヤーになれるだろうね。

ブリジットが大会に来る事は、あなたにとってどのくらい重要ですか?

ピート 彼女がそこにいてくれれば、とても助けになるよ。スタンドを見上げて彼女の顔を見られたら、素晴らしいよ。

あなたのプレーを良くしてくれますか?

ピート ブリジットが一緒に大会に来てくれる時は、いつもとてもハッピーだよ。そして選手は、勝つにはハッピーでなくっちゃ。僕らは誰も、魂のないロボットではないんだから。

ご両親はめったに大会に見えませんが、なぜですか?

ピート 彼らは試合に興奮しすぎてしまうし、脚光を浴びたくないから、普段は来ないんだ。でも、昨年のウインブルドンに来てくれたのは素晴らしかった。絶対に忘れないよ。

ご両親はあなたのキャリアに、どのくらい影響を与えましたか?

ピート 彼らはよく見られるような、異常に野心的なタイプのテニス・ペアレンツではなかった。僕に決してプレッシャーをかけなかった。

僕は自分のペースで上達する事が許されていたし、他の人たちと違って、すべての試合に勝つ事を期待されたりしなかった。それをいつも感謝しているよ。

ライフスタイルについて

ボリス・ベッカーはドイツのマイケル・ジョーダンのようだと、以前あなたは言いました。あなたは合衆国では、どの程度ビッグですか?

ピート 人々は路上で僕に気づくけど、行く先々でヒステリックに迎えられたりはしない。大騒ぎされる事なく、僕は映画館やレストランに行かれて、それはとても心地よいよ。ジョーダンのような人々は、美しいけれど悪夢のような、黄金の檻の中で暮らしている。タイガー・ウッズを羨ましいとも思わない。彼もまた名声の囚われ人だ。そういう生活が、おとぎ話のようなものだとは思わないよ。

キャリアの中で、最も好まない事は何ですか?

ピート 最悪なのは、旅をする事だね。A地点からB地点までのフライトと、長旅の後の時差ボケ。本当に疲れるし、消耗する。

あなたは過去12年間、テニスサーキットを回ってきました。世界じゅうのどんなものを見ましたか?

ピート そんなに。僕は観光旅行者ではなく、テニス選手として、旅をしているのだからね。正直言って、自分のスポーツに関心があるのであって、その都市にではない。テニスをするには年を取りすぎてからでも、博物館や美術館に行く時間は充分あるよ。

プレーをする日常は、どんなものですか?

ピート すべてが成功に向けて連動している。大した変化は何もないよ。練習して、試合をして、マッサージを受ける。ホテルではリラックスに努める。音楽を聴いたり、テレビを見たりして、夕食をとる。そしてたくさん寝る。僕はぶっ続けに14時間くらいは寝られるし、どこででも寝られるよ。

魅力に満ちたものでは、全然なさそうですね?

ピート またヨーロッパに行くと友だちに言うと、彼らはいつも羨ましがって言うんだ。「ワウ! なんて華麗でワクワクするような生活を、君は送っているんだ」ってね。

だけど現実は平凡なものだ。大試合を控えていたら、ルーヴルに行ったりはできないよ。

本は読みますか?

ピート いつもバッグの中に本を入れてるけど、終わりまで読み通した事はめったにないよ。そうする辛抱強さがないんだ。いちばん好きな作家はジョン・グリシャム(John Grisham)だけど、彼の本でさえ最後のページまで行き着かない。半年後くらいには、何とかなるけどね。

あなたはモータースポーツ・ファンとして知られています。レーシングドライバーになってみたかったですか?

ピート 僕はスピードが好きだ。限界スピードで運転するのはどんな気分かなって、想像はできる。でも僕は優秀なテニスプレーヤーではあっても、第2のミハイル・シューマッハーやミカ・ハッキネンではないからね。

前のコーチのティム・ガリクソンは、かつて「もしピートが望んだら、ベスト・ゴルファーの1人になれただろう」と言っていましたが。

ピート 僕の現在のハンデは12なんだから、あまりそうとは思えないな! もしもっと頻繁にプレーしていたら、多分もっと上手くなれただろうけど。でもゴルフは素敵なハンディキャップ・スポーツで、すべてはリラックスしていて、問題はないよ。

引退後の生活について、何かアイディアはありますか?

ピート 特には。自分が解説者とか、デビスカップ監督とか、コーチになるとは思えない。3〜4年より先の事は、あまり考えないんだ。できるだけ長くプロとしてプレーを続けられるようでありたい。

ベッカーのように、もうグランドスラムで優勝できるほどの力はないと、もし考え始めたとしたら、あなたはもっと早く辞めていましたか?

ピート 確実にね。ポリスの決断に100パーセント共感するよ。僕と同じく、彼は大きな大会、大きな勝利のためにプレーする男だ。それがもはや不可能になったら、燃えるような情熱は消えていく。それが辞める時だ。


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