オーストラリア版tennis
2000年7月号
「僕の好きな人々」――打shすピート・サンプラス
インタビュー:Paul Fein


インタビュー第2部で、世代の最も偉大な選手は、家族、コーチ、そしてお気に入りのアスリートについて、ポール・ファインに語る。

ご両親やお兄さんのガス、お姉さんのステラとは、どれぐらい近い関係ですか? また、彼らはあなたの個人的、そしてキャリアの発達において、どんな役割を果たしてきたのですか?

ピート 家族や兄弟とは、とても近い関係だ。いま僕はロスに住んでいて、怪我のためにずいぶん休んだりしているから、以前より彼らと連絡を取り合ったり、一緒に過ごしているよ。彼らはコート上、コート外の僕の基本となるものに、多くの影響を与えてくれた。僕はいつも、兄弟とは親しかった。

人生で大切なのは、家族と一緒にいる事だ。彼らは、僕の良い時も悪い時も、いつも支えてきてくれた。僕のテニスをサポートしてくれ、僕が順調にやる事を望んでくれる。でも、僕がこのスポーツを80歳までするわけではない事も承知している。僕はいつかはテニスを辞めるし、残りの人生で他の事をするだろう。だから、彼らはこの1990年代を通して、僕が地に足の着いた人間であり続けるようにしてくれた。

ガスとステラについて、読者に話してくれますか? 彼らについて書かれる事はめったにありませんから。

ピート 彼らは僕と似ている。はにかみ屋で、堅実な良い人間。そして誠実だ。結婚相手として両親に紹介したいと思うようなタイプの人間だよ。

故ボビー・リッグズは、かつて次のように言いました。「私の考えでは、テニスプレーヤーは完全なアスリートである。短距離走者のスピード、マラソンランナーの忍耐力、ボクサーの機敏さ、優秀なフットボールのクォーターバックの知力を備えていなければならない」

ボビーは正しいですか? そして、もしそうであるなら、プロテニスプレーヤーは、それに値する敬意を得ていますか?

ピート ボビーは正しいよ。でも(スポーツ界の)偉大なアスリートについて話をする時、テニスプレーヤーはNBA選手のような敬意は得ていない。テニスでは、すべてを必要とする。耐久力、ハンド・アイ・コーディネーション、そして1対1のスポーツだから、精神的な強さを必要とする。コート上では、コーチであれマネージャーであれ、誰の助けもない。

テニスプレーヤーは途方もないアスリートだ。世界でも最高の部類だ。アスリートが持つべき、あらゆる要素を必要とする。ある意味では、(プロ)テニスをする事は、NBAでプレーするよりも、さらに難しい。交代選手もいないし、回復するためのハーフタイムもない。テニスコートでは、その人間の本質を目にする。だから、テニスは過小評価されていると言える。

数年前、ある質問票で、あなたは犬が苦手と言っていました。現在サマンサという名前のラブラドールを飼っているという事は、変わったのですね。サマンサのどんなところが好きですか?

ピート (笑)僕は犬を飼ってないよ。どこからそんな話が出たの?

あなたは犬が怖いんですか?

ピート
 16歳で(イワン)レンドルのところに滞在した時、犬とは悪い経験があるんだ。もともと犬好きではなかったけど。

僕が自転車のトレーニングから戻って来て、レンドル家の敷地に歩いて入っていったら、彼の5匹のシェパードが僕に向かって吠えたてたんだ。僕は犬が近くまで来られない区域にいたんだけど、それ以来、犬にはちょっと、竦んでしまうようになったんだ。

ポール・アナコーンは過去5年間あなたのコーチですが、他のコーチと比べると目立ちません。彼はあなたの素晴らしい成功において、どんな役割を果たしてきましたか?

ピート まあ、彼はそういうタイプで、僕もそういうタイプだから、目立たないんだ。彼が僕のテニスのために果たしてきた役割は、多くの面で過小評価されてきた。どんな風に僕たちが一緒に始めたかというと、僕はティム(ガリクソン)と一緒にいて、そしてティムは脳腫瘍と診断される。僕はポールに助けてくれるように頼んだ。彼は状況全体をよく気遣ってくれ、そして僕と一緒に働き、ツアーを回るようになったんだ。

そういう事に対処するのは、簡単じゃない。僕たちはテニスについてではなく、人生について話し合う。彼はこの経験全体を通して、素晴らしかったよ。ティムが亡くなった時、僕はポールに続けてくれるかどうか尋ねた。それから、彼はもっと多くの役割を果たし始めた。

そして何年もの間、僕はメジャー大会で優勝し、1位だった。彼は何年もの間、過小評価されてきた。彼の(控えめな)性格によるものだが、それを理解できるほど、ものの分かった人は多くない。

あなたのお兄さんのガスは、「ピートは続けて3回ESPNスポーツセンターを見るだろう。次に何が来るか知っていても」と言っていました。あなたはそれほどスポーツ好きですが、お気に入りのアスリートは誰ですか?

ピート (心からの笑い)それは面白い。僕はスポーツの、偉大な人たちのプレーを楽しんでいる。でも彼らの話す事を聞いたり、彼らについて多少知っても、彼らがそのスポーツのベストだとは、気付かないだろう。彼らはとても謙虚だ。彼らは偉大で、そのスポーツに深く打ち込んでいるが、横柄さやうぬぼれを持っていない。自分の偉大さについて、口にしたりしない。

(マイケル)ジョーダン、(ウェイン)グレミツキー、(ジョー)モンタナ………それらのアスリートたちは僕のお手本だ。自分自身の律し方、人間としての振る舞い方という点で。グレツキーは9回MVPになったが、(アイスホッケー界で)最も謙虚な人だ。

マイケル・ジョーダンのアドバイスを聞いてみたいと、あなたは言いましたね。特に、彼にどんなアドバイスを求めるでしょうか?

ピート 年齢を重ねるにつれ、彼の肉体がどんな風に変化したか、そしてこれほど長い年月、どうやってフィットネスやコンディションを維持してきたか尋ねるだろう。

もう1つの質問は、モチベーションについてだ。僕は何年間も、同じライバルたち―――アガシ、ベッカー、エドバーグ―――と対戦していると感じていた。そして現在、新しい選手たちが出てきた。彼らと対戦するのに、同様のモチベーションを得るため、心の奥深くに何かを見つける必要がある。

何年間もバードやジョンソンと対戦してきた後、若い新人選手たちに対して、彼はどうやって自分にやる気を起こさせたんだろうと思っていた。

テニス・チャンピオンになりたいと望む子供たちに、あなたはどんなアドバイスを与えるでしょうか?

ピート 子供時代、僕は勝つ事より、いいプレーをする事を気に懸けてきた。僕は進歩する事を望んだ。今日の子供たちは、ジュニア大会で勝つ事にこだわりすぎている。

ジュニアの頃、僕はそれほど良くはなかった。でも進歩していき、自分よりずっと年上の選手たちと対戦していた。それが僕のコーチ、家族、そして僕が取り組んだやり方だ。明らかに効果的だったよ。

ESPN解説者のクリフ・ドレスデールは、テレビにとって最良な事は、テニスにとっても最良だと信じています。

それで彼は、5セットマッチの廃止、ノー・アドバンテージ制の採用、オンコート・コーチングの許可、準決勝進出のためのラウンドロビン方式等の改革を提案しています。これらの改革案に価値があると思いますか?

ピート いいや。テニスについて否定的な事を聞くと、みんな過剰反応している。スコアリング・システムを変えるべきだとか、5セットマッチを3セットマッチに変えるべきだとか、いろいろな事を主張する。でも、素晴らしい試合そのものが、テニスをアピールするんだ。ワクワクするようなライバル関係は、すべてに対する答えだ。

数年前、アンドレと僕がライバル関係だった頃、スコアリングシステムだの、いままで聞いてきた変更についての話は聞かなかった。重要なのはプレーヤー、テニス、試合そのものだ。これらの変更についての話は、すべて些末な事だ。

テニスの知識、高潔さ、信念を貫く勇気、外交的な存在感をもってすれば、あなたは一流のテニス政治家となるでしょう。多くの過去のチャンピオンがしてきたように、その方面に寄与しようと考えた事がありますか?

ピート ない。現段階では、僕はまだ現役だから。いまのところ、そういう時間あるいは関心を持っていない。

モヤ、クエルテン、カフェルニコフ、ラフター、フィリポウシス、リオスといった、中間世代のトッププレーヤーたちは、非常に才能がありますが、チャンピオンというよりは、どちらかと言うと、時折のグランドスラム優勝者のように見えます。

ヒューイット、ハース、フェデラー、フェレロ、ヴィンシグエラのような若い世代の中で、誰に最もチャンピオンとしての可能性を感じますか? またその理由は?

ピート あなたが言及した選手はみんな、グランドスラムで優勝できるだけのものを持っている。しかし、毎年のようにグランドスラムで優勝するためのすべてを持っているかは、分からない。それをするのは非常に難しい。

フィリポウシスは、誰よりもビッグゲームを持っている。ある年、USオープンあるいはウインブルドンで優勝するかもしれない。しかし、毎年のように優勝するには、強迫観念、情熱がなければならない。彼は時々それを見せたが、充分に持っているとは言えない。

ヒューイットのような選手は、メジャー大会で上手くやるための精神的強さ、身体的強さを持っている。しかし年々それをするには、ビッグゲームが必要だ。支配するためには、フィリポウシスのようなゲームを必要とする。

それでは、もしフィリポウシスがヒューイットの精神力を持っていたら、チャンピオンになりますね。

ピート そうしたら僕みたいになるだろう!

元1位のステファン・エドバーグは、あなたをいままでに見たか、あるいは対戦した事のある最も完成されたプレーヤーだと言いました。あなたは自分がテニスを変えたと思いますか?

ピート ある意味で、僕のゲームはいろいろな事ができる、若干のオプションがあると感じている。僕は一本調子ではない。テニスの歴史を見てみると、たいていの選手は1次元的だ。僕は常に、できる限り完全であろうとしてきた。

だから、そういう意味では、僕はテニスを変えたのかもしれない。でも僕は、自分がテニスを変えたと言うつもりはないよ。そういう事を判断するのは批評家だ。

昨年あなたは「いま見ているものを楽しんでください。私は永久にいるわけではないのだから」と言いました。なぜそう言ったのですか?

ピート 僕がメジャータイトルをいくつも勝ち取り、1位だった時代があった。そしてある意味で、それは予想され、おそらく当然の事と考えられていた。僕がニュースになるのは、負けた時だけのようだった。

そして多分、後世に残る素晴らしいライバル関係がない、皆にとってすべて満足させるものでないと、ペナルティを課せられる事に対して、僕は落胆していたんだろう。だから、ひとたび僕がいなくなったら、もう僕はいないのだと言ったんだ。そして、僕のように何年もテニスを支配する選手は、もう現れないかもしれない。僕は、ある人々には評価されてきた。しかし同じく、ある人々には評価されてこなかった。

1998年、あなたはテニスの業績が認められ、スペインのベストセラー出版であるMARCA社の、MARCAレジェンド賞を受賞した10番目のスポーツマンになりました。あなたはしばしば、アメリカ国内より世界でより賞賛されると言ってきました。どういう国で最も賞賛を受けていますか? そしてこの現象を、どのように説明しますか?

ピート ヨーロッパのすべての国々で感じてきた。特に1998年の最後の6週間、ヨーロッパにいた間、僕がコートに出ていく時の反応に、人々からの賞賛を感じた。

弱い側を応援するのは、アメリカ人の習慣だ。これまでの数年間、ほぼすべての試合で、僕は勝ちを予想される立場だった。人々が僕に負けろと願っているとは言わないよ。彼らはただ、良い試合を見たいと応援しているんだ。でも僕は、アメリカでは全く同じようには感じた事のなかった賞賛を、ヨーロッパでは感じた。また、オーストラリアや日本でも、とても認められていると感じる。

女子ツアーはいまや、個性の花盛りです。しかしATPツアー選手会会長のトッド・マーチンは、仲間の選手たちを次のように批判しています。「選手がとても親しみやすいと、いつも感じるわけではない。しかし彼らは確かに、どのように不平を言うべきかは知っている。問題は、男子選手の多くが、充分に持ち前を発揮すべきだというプレッシャーを感じていない事だ。彼らは自分の取り分を得たと感じているだけだ」
あなたはトッドの意見に同意しますか?

ピート
 すべてではない。確かに、自分の立場に感謝していなくて、必要以上に不平不満を言う選手もいるにはいる。でも男子テニスを損ねているのは、あまりに多くの優れたプレーヤーがいるという事だ。

今日、何がスポーツの売り物か? 僕はそれが、いわゆる個性だとは思わない。むしろ組み合わせだ。ダベンポートとヒンギスが対戦し、 ビーナスとヒンギスが対戦し、セレナとダベンポートが対戦するといったような。それは競争、一貫した競争だ。

男子テニスには非常に多くの優れたプレーヤーがいるので、多くの異なった勝利者がいる。アンドレと僕の他には、これといったライバル関係がないし、僕たちの対戦にしても、この先5カ月間ないかもしれない。

それでは、解決策はなんでしょう?

ピート メディアは逃げ道をとって、女子テニスの方が人気が高いと言う前に、頭を使って、なぜこういう現象が起きているか、注意を払うべきだ。それは男子テニスが、いままでで最高に強い状況だからだ。過去5年間で強くなってきている。

男子テニスの人気がとても高かった時代、ボルグ、マッケンロー、レンドル、コナーズは他の皆よりずっと優れていた。ティム(ガリクソン)が僕に話してくれたが、世界15位だった時でも、彼らを負かすチャンスはなかったそうだ。当時はライバル関係があった。一貫した組み合わせが。そしてそれは、ファンとメディアを引きつけるものだ。

現在、決勝にはたくさんの異なった選手が進出する。コレチャやエンクイストを軽視するわけではないが、彼らがインディアンウェルズ決勝で対戦した時、この国(アメリカ)ではアンドレと僕、あるいはトップのライバル同士の対戦時のような興味を生み出さないんだ。

オーストラリアン・オープンで、あなたとアンドレの準決勝が、オーストラリアのスポーツ番組視聴率の最高記録を破ったのを知っていましたか?

ピート うん、そう聞いている。それはライバル関係ゆえだ。誰がプレーしているかという事だ。僕たちの性格は違うが、売り物になるのはスポーツそのものだ。

確かに、女子にはクルニコワ、ヴィーナス、セレナ、ヒンギス、その他いろいろな選手がいるが、女子テニスにあるのは一貫した競争だ。僕たちにはそれがない。多くの素晴らしいプレーヤーが、異なったタイトルを勝ち取る。そしてもし僕とアンドレが対戦しないと、人々は興味を持たないようだ。

ポルシェはあなたが所有している、最も高額のものだそうですね。ポルシェのどんな点が好きですか?

ピート 完全なパワーだね。

それでは、あなたはパワープレーヤーであり、パワードライバーという事?

ピート 当たり!




*犬についての話。「Animal Rescue Foundation(動物愛護団体?)」の2000年版チャリティ・カレンダーに、ピートは他の有名人と共に登場。ラブラドール犬と一緒に写真を撮っています。(秘宝館・カレンダー2003年度版11月に使用)

キャプションには、犬の名前は Samantha とあり、ピートの愛犬のように見せている訳です。
「犬は人間と一緒にいるのが大好きだ。テニスボールを追いかけるのも好きだから、僕らの役にも立ってくれるよ」なんて「いかにも」なセリフも。

このインタビューに先駆けて、ファイン氏が samprasfanz のメンバーに、どんな質問をしてほしいか募集したところ、「ピートは犬が苦手だと思ってたのに。ぜひサマンサについて聞いて!」という要望があったのです。ピートはチャリティに協力しただけで、どんな能書きがつけられたのか、全く知らなかったのでしょうね。

ところで、ピートが「犬恐怖症」のわりには、ガールフレンド第1号デレイナさんは2頭のワイマラナー(ドイツ産のポインター)を飼っていたのだとか。ブリジットはフレンチ・ブルドッグを飼っているという話も聞いた事があります。自分とこの犬なら大丈夫なの?

→証拠?写真。「InStyle」1996年9月号より。犬の名前は「ピストル」って事になってます。それよりも、当時のピートがこんな大胆写真を撮らせた事が驚き! でも、この年の終わり、2人は別れたのであった。(^^;

インタビュー一覧へ戻る Homeへ戻る