1997年
ゴルフへの情熱
インタビュー:Ann Liguori


ピート・サンプラスは、一流スポーツ選手の中でも少数の紳士の1人である。彼のキャリアと行動のモデルは、2回グランドスラムを制覇した唯一のプレーヤーである、伝説的な、そして粋なロッド・レーバーだった。サンプラスはまた、レーバーのグランドスラム優勝11回に追いつき、追い越す事も視野に入れている。

ピート・サンプラスについて、コートで見られるものは、彼の本質―――ガッツ、ハート、そして品性である。それらの特質は、ゴルフコースにおいても同様である。彼と一緒にゴルフをし、親しく付き合うのは楽しい。

プロキャリアの初期には、彼を、そして彼のプレースタイルを退屈だと決めつけた記者に文句をつけられたりしたが、サンプラスはすべてを己のコート上の偉業に語らせた。そしていくつかの非常に感動的な逆転勝利は、 彼に対する大衆の認識を変えた。

1995年オーストラリアン・オープン準々決勝クーリエ戦では、親友でありコーチであるティム・ガリクソンが、後に脳腫瘍と診断された病で入院したという事実と闘い、サンプラスは試合中に号泣した。だが2セットダウンから逆転し、クーリエを5セットで破った。

1996年フレンチ・オープンはティムが亡くなった直後だったが、サンプラスは3回の劇的な5セットマッチを勝ち抜いた。

そして1996年USオープン準々決勝―――これは私がこれまでで最も胸を打たれ、そして忘れ難い試合の1つだが、サンプラスは第5セットのタイブレークで、胃の不調とセットダウンからの劣勢を乗り越え、アレックス・コレチャに打ち勝った。

タイブレークの早い段階で、サンプラスはコート上に吐いた。7オールでは、マッチポイントを1つしのいだ後に、セカンドサーブのエースでポイントを取った。そしてコレチャはダブルフォールトを犯し、試合に敗れた。サンプラスが勝つために最後まで頑張った姿は、英雄的であった。

私はインディアンウェルズ大会の最中、会場に隣接したカリフォルニア州パームスプリングス・リゾートの、ゴルフコース近くで彼と落ち合った。

ゴルフは、プロテニス選手の間でとても人気のあるスポーツで、彼らは練習や試合の合間に、気晴らしのためクラブを振る。我々のインタビューの主題がゴルフとテニスである事を知ると、サンプラスはスケジュールを調整し、私と過ごす時間を作ってくれた。向かい合ってのインタビューの後、サンプラスと私はゴルフコースに出た。彼は自分のドライブショットの腕前を、見せたがっているようだった。

テニス界で、彼は最も強力なサーブを持つ1人であり、パワープレーヤーである。彼の最速サーブは時速132マイルを叩き出す。サンプラスが絶好調の時、対戦相手はリターンゲームで、コートの両サイドを歩いて移動するだけで、その間サンプラスは次々と、返球の不可能なサービスを放つ。

彼は同じ力をゴルフのスイングに振り向ける。ドライバーを取り出し、300ヤードを強打するのが、彼にとって最高の幸せである。彼は足元から遙か遠くへボールを飛ばすが、ボールは滅多にまっすぐ中央へは向かってくれない。しかし1996年、ネバダ州レイク・タホで開催された「イスズ有名人ゴルフ大会」のロングドライブ・コンテストでは、サンプラスはアメフト、野球、バスケット、ホッケー選手等を退け、332ヤードを打って優勝した。もし練習する時間がもっとあったなら、彼は危険な存在になるだろう。


リグーリ ピート、世界1位のテニスプレーヤーは、どうやってゴルフのための時間を見つけるの?

ピート まあ、僕がテニスから離れてオフを取っている時が、ゴルフをできる唯一の時だね。ツアーを回っている時は、すべき事がたくさんあって、自由な時間があまりないんだ。僕の家はタンパのゴルフコースの所にあって、僕はゴルフカートを持っているから、家にいる時は時間の許す限りカート飛び乗って出かけ、ゴルフをしているよ。

どんな風にゴルフに興味を持ったの?

ピート プロに転向した16〜17歳の時、ゴルフに興味を持った。ツアーの選手はみんなゴルフをしていて、僕もそうなったんだ。楽しんでいるよ。それは僕がメディアやテニス、ビジネスとかすべてから逃れられる時間なんだ。とてもリラックスする。僕を煩わせる人は誰もいない。親しい3人の友人と一緒に愉快な時を過ごし、大いに楽しむ事ができる。

あなたのハンディは14だと聞いたけれど?

ピート そう、14。

あなたはとてもゴルフに向いた気質を持っているわね? つまり、自分の感情をコントロールできるし、かなりリラックスしている。たいていの優れたゴルファーは、怒り、フラストレーション、喜びのコントロール法を知っている。

ピート うん。あまりプレーできないから、僕のゴルフゲームはとても不安定で、ショットは気まぐれだと思う。でもゴルフでは、4ラウンドで2回くらい悪いショットを打つと、大会に負けてしまうんだから、そういう事をやっている人には敬服する。テニスでは、悪いショットをたくさん打っても、勝つ事ができる。僕はいつも、ゴルファーのそういう点を尊敬しているよ。

僕にとって最も難しいのは、ボールが動いていないという事だ。ボールはそこに留まっているし、同じスイングなのに、ボールはどこにでも行っちゃうって感じだ。少なくとも僕にとっては。充分に練習できないけれど、楽しんでいるし、もっとプレーして、もう少し上手くなれたらいいなあと思っている。

誰と一緒にゴルフをした事がある? 思い出に残る4人組は?

ピート レイカーズのジェリー・ウェスト、ミッチ・カプチャクと一緒に、すごく面白いゲームをした事がある。

ジェリーは良いゴルファーね。何年も前に「スポーツ・インタビュー・ショー」でジェリーにインタビューしたわ。彼は完全主義者よ、ピート。実際、かつて私に話してくれたんだけど、「ベル・エアー・カントリークラブ」で最高スコアを出して、以来そこではプレーしないんですって。そんなに良いプレーがいつも出来るとは思えないから。

ピート そうだろうね。

彼は完全主義者よ。

ピート 競争心がとても強い。
面白い話があるよ。彼とプレーして、僕たちが第14ホールあたりにいた時、彼のクラブについて尋ねたんだ。彼はとても旧式に見えるドライバーを持っていて、僕はその1本で打たせてくれるよう頼んだ。彼はそれを25年くらい使っていて、愛している。

そして、僕はいつものようにドカーンと打ったら………クラブを壊しちゃったんだ! ヘッドが抜けて、フェアウェイを100ヤードくらい飛んでいった。彼はすごく怒っていたけど、僕とミッチ・カプチャクは笑い転げていた。

それは彼のお気に入りのクラブだったの?

ピート そう、彼はくっつけ直したけどね。

でも、そりゃあ怒ったでしょうね。

ピート 彼はとても上手く気持ちを抑えていたけれど、怒ってたね。

私にも経験があるわ。「ああっ! ところでボールはどこへやったの? 私のドライバーヘッドを見つけて、送ってくれる? 取れちゃったわ」って。
テニス仲間とゴルフコースへ出る時は、競争になる?

ピート ある程度までは真剣にやる。僕は上手くプレーしようとするけど、大半の目的は、楽しんで、ヘマをやって、からかい合う事なんだ。トッド・マーチンやジム・クーリエとは、よく一緒にラウンドしてるよ。

あなたの弱点はショートゲーム?

ピート ドライブはなかなかいいんだけど、ショートゲーム―――チップとかパットがひどいんだ。

まあ、みんなそう言うわ。という事は、あなたは練習場で、ドライバーでぶっ飛ばしてばかりいるわけね。

ピート
 ドライバーで300ヤード飛ばせれば、翌日もご機嫌さ。

ドライバーで300ヤード打つの?

ピート そう、でもまっすぐ飛んだり、右に行ったり、林に突っ込んだりだけどね。僕はジョン・ダリー方式でやってる。ドライバーを振りかぶり、出来る限り強くボールを叩くってやつ。ファーストティーに向かい………

「握って強打する(Grip it and rip it)」(PGA選手ジョン・ダリーの指導ビデオ)

ピート お気に入りのビデオなんだ。

ビデオを見るの?

ピート うん。あれはそれほど指導的ではないけど、見ていて楽しいよ。僕のテニス・スイングはとても長いけど、ゴルフでは短くしなくちゃいけない。僕のはすごく長いんだ。ジョン・ダリーみたいな感じで。でも彼の方が上手くコントロールできてるね。

(冗談で)ドライバーでジョン・ダリーを越せる?

ピート そうは思わないよ。ショットガンか何かを使えばできるかな。

ゴルフはあなたのテニスゲームを損ねる? もしくはテニスがゴルフを? というのは、この2つのスポーツを同時にやるべきでないと言う人がとても多いのよ。実際、何人かのゴルファーはテニスをやめたわ。レイモンド・フロイドが、ゴルフゲームを損ねるからテニスをやめたと言ってたのを覚えているわ。

ピート ゴルファーがテニスをやると、影響があるかもしれない。でもテニスプレーヤーがゴルフをしても、ストロークや何かには全く悪影響がないよ。だから僕がゴルフをしても何の問題もない。

練習場でサンプラスは、まっすぐ真ん中へ250ヤードのドライブを打つ。

クラブに仕事をさせましょう。

ピート あなたは僕のゴルフ教師?

サンプラスは再びボールをセットして打つ。今度は275ヤード、まっすぐ。

ああ、ナイス!

ピート
 悪くないよね。

たくさんの人が見ている前でゴルフをするのは、緊張する? テニスでは慣れているはずだけど。なぜかゴルフでは、ファーストティーにボールを置く時ほど、緊張の瞬間はないと言う人が多いの。

ピート ああ、もちろん緊張するよ。プロアマ大会でプレーしたのは、タンパのTPCコース1回だけなんだけど、僕は………え〜っと、デイル・ダグラスと一緒で、ファーストティーの時およそ100人くらいの観客がいた。あんなに緊張したのは初めてだった。上手く打てたけど、そもそも僕がゴルフをするのは、大勢の人から逃れるためだからね。誰からも離れ、ただ楽しむのが目的だもの。

PGAツアーでは、誰をよく見るの?

ピート フレディ・カプルスを見るのが好きだ。僕たちの精神構造は似通っているようだ。テニスコートでの僕と、ゴルフコースでの彼は。僕たちはとてもリラックスしているように見える。彼のプレーを見るのは楽しいよ。グレッグ・ノーマンも見る。いろいろな人を見るよ。週末にはいつも見てるかな。

あなたはカウチポテト?

ピート カウチポテト、そうだね。RCA衛星放送に加入してるんだ。

テニスよりゴルフをよく見るの?

ピート ああ、もちろん。テレビでテニスをやっている時は、なるべく見ないようにしている。だからゴルフとかNBAバスケットボールとかを見るね。

あなたはバスケットボールのファンだけど、どのチームがお気に入り?

ピート レイカーズ。僕はロスで育ったから、いつだってレイカーズのファンなんだ。

もしテニスをしていなかったら、プロゴルファーを夢見た?

ピート ゴルフは主にアメリカとヨーロッパでプレーするから、テニスほど旅は大変じゃないだろう。それに30年間くらいプレーできる。テニスは10〜12年くらいだ。ゴルファーは、たとえばレイ・フロイドは52歳で、いまでもシニアツアーで活躍している。つまり、テニスでは絶対そういう事はない。走り回るから身体に堪えてくる。もしテニスをしていなかったら、やりたかったスポーツはゴルフだろうね。

テニスの視聴率や全体的な人気は下がり気味なのに、なぜゴルフはこんなに人気があるのかしら?

ピート う〜ん、ゴルフはそれほど肉体的にきつくないから、誰でもやる。大会社の社長が大勢ゴルフをする。一方テニスは多くのエネルギーが要求されるし、体調を整える必要がある。それにゴルフはマーケッティングも、とても上手くやっている。

ゴルフツアーで最も成功しているマーケッティング手段の1つは、大会始めに開催されるプロアマ・コンペね。プロはアマチュアやスポンサー、その他様々な人たちとプレーする。テニスでも週の始めにそういう事をすべきだと思う? 選手は1週間ずっと試合をするけれど。

ピート それについては聞いている。できるだけ協力したいと思う。でもゴルファーはとても近づきやすいし、テニス選手より年長だ。大方のテニス選手は20代前半だが、ゴルファーは30代で、ビジネスの側面、お返しが必要な事を理解している。

テニス選手の中には、かなり自分本位な人もいると思う。でもゴルファーは自分たちのスポーツに協力しようとしている。彼らはプロアマ大会、カクテルパーティーなど、PGAツアーのためにできるだけの事をし、上手くやっている。ATPもそういうレベルになればいいけど、先の事だろう。

批評家があなたの事や、あなたのテニススタイルを退屈だと言う時、私はいつも擁護してきたわ。あなたはテニスに物を言わせているのだと。それと、ショーに出演してインタビューを受けているのを見たけれど………あなたは面白いわ!

ピート ありがとう。誰もがそれぞれだ。プレスや観客はジョン・マッケンローやジミー・コナーズのような、論争好きで、性格や感情を露わにする人を見慣れてきたんだと思う。でも僕はそういう事はしない。僕は感情を内に秘めるタイプで、それは僕がベストのテニスをする最良のやり方なんだ。

もちろん。あなたは勝つために必要な事をしなければならないし、あなた自身でいなければ。

ピート
 そして僕がコートに出ていく時、最も重要なのは勝つ事であり、いいテニスをする事だ。そういう事を通して、観客やテレビを見ている人々を、楽しませられたらと願っている。

それと多分、特にイギリスのあるレポーターたちは、僕について書く事があまりなかったから、ただ僕を退屈だと言ったのだろう。そこが、僕について否定的な批判を聞いた初めての場所だった。僕は良い人間で、正しい事をやり、正しい事を言おうとしていると思っていたから、少しばかり失望した。でも、そういう事を悩んだりはしていられないよ。ただ放っておくだけだ。

そしてあなたは変わらない。

ピート 僕は変わろうと思わないし、変われない。そういうのは僕の個性じゃないからね。

あなたの究極の目的は? もし「自分のテニスキャリアでしたい事はこれだ」と言うとしたら、何と言う?

ピート すべてのメジャー大会に優勝する事と言うだろう。

テニスのグランドスラムをやるという事? それをできると思う?

ピート 1年ですべてに優勝するのは、今日のテニスではとてもむずかしいと思う。現実的に言うと、フレンチ・オープンはまだ優勝していないが、いまは何よりもフレンチで優勝したいね。とても大きなチャレンジだ。僕のサーフェスではない。クレーでも徐々に良くなってきているが、もう少しかかるだろう。多分あと2〜3年。

でも、いまのところ質問に答えるとしたら、それはフレンチ・オープンだ。僕が取っていないタイトル。それを取れば4大会すべてが揃い、残りの人生を満足して過ごせるだろう。


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