テニス・ワールド(イギリス)
1993年9月号
ウィンブルドン後の生活
「テニス・ワールド」誌はピート・サンプラスと語る




ウィンブルドンで優勝した後、USオープンのために準備を整えるのは、どのくらい厳しいですか?

ピート:僕は(ウィンブルドンの後)月曜日の午後に飛行機で家に戻り、翌日にはトレーニングを再開した。1カ月間ヨーロッパにいて、少し体調・体力が落ちたように感じたからね。それで家に帰ってすぐ、トレーニングを再開した。もし僕がトレーニングしてなくて、他の誰かがしていたら………だから、ニューヨークで直面する蒸し暑い気候に備えて体調を整えるため、かなり一生懸命やってきた。

USオープンへのモチベーションに関しては、やる気充分だよ。それは明確に、次の大きな目標だ ―――あの大会で優勝するという事は。以前に優勝し、昨年はかなり近いところまで来た。だから頂点に達するべく努力している。

クーリエとのウィンブルドン決勝戦では、パワーが物を言いすぎるという疑問が再び浮上しました。その状況について、どういう意見ですか?

ピート:僕は14歳の時から同じラケットを使っているよ。トップ10の選手を見てみると、みんな身長は6フィート以上だし、ジムと僕はかなり力も強く、とてもハードにボールを打つ。

ボールはこの5年間同じようだし、僕はワイドボディのラケットは使っていない。芝のコートはもともと速いもので、大会最後の日までには稲妻のような速さになるんだ。

僕たちの試合にはベースラインでのポイントもあった。決勝戦の受け止められ方には失望した。でも僕の名前は永久にトロフィーの上に残り、消える事はない。少なくとも僕が現役の間は、サーブを1本にするとか、サーブの時に足を地面から離さないといった変更が行われるとは思わない。抜本的な変更が行われる事はないだろう。ウィンブルドンは変わらない。つまり、変わらないでほしいと願っているよ。

ウィンブルドンで優勝した直後のプレッシャーは、1990年にUSオープンで優勝した後に経験したものと比べてどうですか?

ピート:特別なプレッシャーに関しては、僕は過去2年間トップ5にいたし、プレッシャーへの対処は、ただ慣れていくものだ。プレッシャーはある。だが慣れていくものだよ。

早めにもう1つメジャーで優勝する事は重要ですか? それとも今日までの実績に満足していますか?

ピート:ウィンブルドンで優勝し、とても満足している。とても若い年齢で2つの最大の大会で優勝した事には………それをした人はあまりいない。僕の目標は、トップに留まり、メジャーのタイトルを勝ち取る事。そしてそれが、USオープンで再びやろうとしている事だよ。

8月の間ナンバー1でいる事と、9月にUSオープンで優勝する事と、どちらがより重要でしたか?

ピート:もし僕がUSオープンで優勝すれば、ナンバー1になる。だが僕にとっては、メジャー・タイトルを獲得する方が、ナンバー1である事よりも重要だ。僕はいまナンバー1だ。でも1年の最後の日までは何も意味しない。USオープン後の大きな目標は、今年の終わりにナンバー1であろうとする事だ。

あなたは真のナンバー1には値しないのではないか、というウィンブルドン前の論議は気になりましたか? それを解決した事はどれくらい重要でしたか?

ピート:気にはならなかった。みんなランキングのシステムを本当に理解しているとは思わないから。ジムには失うポイントがたくさんあった。また僕のポイントの大部分は、夏のサーキットとUSオープンで得たものだが、彼にはそれほどない。

ナンバー1ランキングに関しては、みんな本当に状況を理解していたとは思わない。最も重要なのは1年の終わりにナンバー1である事で、3月とか1月に誰がナンバー1かという事ではない。1年の最後の日が問題なんだ。

ナンバー1である事にうまく対処してきたと思いますか?

ピート:かなりうまく対処してきたと思う。何年もトップ5とか10にいると、それまでとは違うライフスタイルや特別なプレッシャーに慣れる。ナンバー1に到達しても、コート上でもコート外でも、何も違ったように感じなかった。

基本的には同じボールゲームだ。自分とボール。自分に多大なプレッシャーをかけすぎないようにして、事をあまり複雑にしない。試合に臨み、いままでしてきたテニスをするだけだ。

あなたは10年前の選手たちのように、ナンバー1の座で完全な支配権を得て、他を引き離せると考えていますか? それとも、そういう事はもう起こらないでしょうか?

ピート:難しくなっている。本当にゲームを支配した最後の男はレンドルだった。僕は支配できるか? トライしてみるよ。競争は現在の方がずっと厳しい。今は50〜60位にも、トップ選手相手にタフな試合をできる男たちがいる。難しくなっているが、ゲームを支配し、世界ナンバー1の選手でいるために、僕はできる限りの努力をするつもりだよ。

あなたはいつもタイトルを争える者だと感じていますか?

ピート:うん、僕は出場するすべての大会で、勝つ事を自分に期待する。優勝しないとガッカリするだろう。

ウィンブルドンの後、何かお祝いでもしましたか?

ピート:僕は(ウィンブルドンの後)月曜日にタンパに戻り、トレーニングをしてきた。おいしくて油っこいチェッカーズ・バーガーを食べ、ニュージャージー州のニューアークで、Safe Passage 基金のエキシビションでプレーした。体調を取り戻すために、サドルブルックでトレーニングしてきた。2〜3の記者会見やメディアからの要請に応えた。だがおおかた控えめな状態を保ってきた。僕たちなりの方法でお祝いしたよ。ただ戻ってきてくつろぎ、すべてを自分にしみ込ませたという感じだね。

あなたはいま、グランドスラムで優勝する事の意味を味わっているのですか?

ピート:正直言うと、ウィンブルドン優勝の後、月曜日に目覚めた時からこの2週間ずっと、雲の上にいる気分だったよ。素晴らしかった。毎朝目覚めると練習したくてたまらなかったし、ただ本当に幸せだった。僕はそう多くの人がやらなかった事を成し遂げて、いまはそれを楽しんでいるといった感じだ。

またコートに出て、すべてをしなければという気持ちになっているのですか?

ピート:その通り。体調を整え、再びハードコートで練習を始めなければならない。僕は勝利を2週の間楽しんだ。だがいまはUSオープンに備えて練習に戻る時だ。ウィンブルドン優勝の喜びは消えていかないけれど、いまは明らかに仕事の方がたいせつだ。

USオープンでは、皆があなたを倒そうとしてくると思いますか?

ピート:僕、クーリエ、エドバーグ、ベッカーは、皆が倒そうとしている男たちだ。過去2年間もそうだったし、これからもそうだ。そして僕はそれに備えている。

あなたはトップシードになる事を期待していますか?

ピート:そうなるといいね。でもランキングについて言ったように、昨年夏、僕はとても好調だった。シンシナティとインディアナポリスで優勝したが、クーリエはそれほどでもなかった。だから彼がどれくらいポイントを得られるかにかかっている。

USオープンに際し、1位なのか2位なのかという事はあまり重要ではない。基本はUSオープンに優勝する事で、それが僕の次の目標だ。僕にとっては1年の終わりに1位である方が、いま1位でいる事より多くの意味がある。

アンドレ・アガシがニック・ボロテリーと別れた事を、短期的スパンではどう見ますか。この夏、彼はどうでしょう?

ピート:ニュージャージーでアンドレに会った時に、ニックとどうなったのか尋ねた。彼らは各々の道を進む事になったが、ある意味でいいかも知れない。彼はいまパンチョ・セグラと一緒にやっている。多分パンチョはゲームについて別の見通しを示せるだろうし、新しい物の見方を提供できるだろう。

アンドレは誰よりも才能があると僕は思っているし、彼が世界のトップ2あるいはトップ3の中にいられない理由は何もないよ。彼にはそれだけのゲームと才能がある。素晴らしいプレーヤーだ。彼は僕のサーブを誰よりも上手くリターンできるし、とても危険な選手だ。

あなたはこのところ、様々なサーフェスでジム・クーリエに勝っています。何がうまく行っていると思いますか?

ピート:なぜだか分からないんだ。僕は何年もの間ジムと一緒に練習してきた。僕は彼のゲームをよく知っているし、逆もまた然りだ。彼に対して、僕はかなり上手くサーブを打っているようだ。特にセカンドサーブ、いろいろと変化をつけてるんだけどね。あまり一定のサーブを打たない。できるだけ変化をつけるようにしている。

僕はステイバックして、彼と少なくともある程度ラリーができると感じている。バックコートから徹底的にやり合わないようにはしているけれどね。彼にプレッシャーをかけるようにしている。そしていままで彼に対して良い結果を出してきた。

あなたはクーリエに対し、優位に立っていると思いますか?

ピート:ジムとの対戦は、たとえばボリスと対戦するのとは少し違うんだ。僕はジムをよく知っているし、良い友人だ。だがジムと対戦する時には、自分に勝ち目があると感じる。誰に対しても、自分に勝ち目があると感じるけど。僕はクレーコートでジムと対戦した事はないが、彼は、世界最高のクレーコート・プレーヤーであると証明してきた。僕は彼とベースラインで打ち合い、必要なプレッシャーをかけられると感じている。そして彼に対して良い結果を挙げてきたんだ。

ナンバー1である事について、それを負担ではなくむしろ楽しみであると、いつから考えるようになりましたか?

ピート:ナンバー1になる事は、明確に僕の大きな目標だった。僕はそれを成した。でも先ほども言ったように、1年の終わりにナンバー1である事の方が重要だ。負担だとは感じない。それは僕が何年もの間、達しようと努力してきたものだ。コート上では、世界のナンバー1であろうと、あるいは3位、5位であろうと、あまり違いを感じない。基本的には同じボールゲームだ。自分にプレッシャーをかけすぎず、ただそれを楽しもうとしているんだ。

あなたとクーリエはいまでも良い友人ですか、それとももう友人ではないのですか?

ピート:僕たちはいまでも良い友人だよ。3年前は、僕たちの関係はとても緊密だった。ダブルスを組み、しょっちゅう一緒に出かけたりした。いま、僕たちは世界の1位と2位で、良い競争相手だ。だから本当に緊密な関係でいるのは難しい。いまはいわば異なったライフスタイルを持っている。僕たちはいまでも良い友人だが、かつてほど近しくないという事だ。双方にとって難しい状況だ。特に僕たちがいまいるポジションではね。

ハードコートに順応するのは、テクニック的にはどれくらい難しいですか?

ピート:クレーから芝生に向かうのは、プレーヤーが体験しうる最も極端な変化だ。それは異なった心理、異なったストローク、異なったバウンドだ。芝からハードコートへ向かうのは、少し異なっているが、それほど極端ではない。僕はこの2週間ほどハードコートでやってきて、かなりなじんだよ。子供の頃からハードコートでプレーしてきたしね。

デビスカップについては、何か決断をしましたか。あなたがバハマとの対戦に出ないと決めた事に失望したとアンドレ・アガシが言ったのには、面食らいましたか?

ピート:あの対戦で勝てる者はたくさんいると思うし、僕はトム(ゴーマン)に、プレーするつもりはないと話してあった。彼はたくさんの者から選ぶ事ができる―――レンドルもできる、チャン、クーリエ、アガシ―――あの時は、1年の中で僕が長いオフを取る時期なんだ。我々は次の対戦を通過すると思っている。

そして来年に関しては、僕はそれぞれ個々の対戦について、決断をする事になるだろう。ナンバー1になる事に集中するために、オーストラリアでプレーしないと決めたようにね。それはかなりうまく作用した。この対戦は、たくさんの者が勝てるものだ。

オーストラリアでプレーしなかった事について、自責の念を感じましたか?

ピート:まあ、もちろん、我々があの対戦を切り抜けられなかった事にはガッカリしたよ。他方では、プレーしない事で僕は批判されるだろうと分かっていた。マッケンローがプレーして、自国で優勝した事により、昨年デビスカップは大きな事件となり、マスコミの注目も浴びた。僕たち(サンプラスとクーリエ)がプレーせず、結果として我々が負けたという事実は、もちろんとても残念に思ったよ。だが僕はナンバー1を目指す事、グランドスラム大会でベストを尽くす事に集中したかった。それが基本的に僕の決めた事だったんだ。


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