テニス・ウェアハウス
2002年9月24日
ピートの専属ストリンガー、ネイト・ファーガソンと読者のチャット(抜粋)
*以前、某テニス掲示板に投稿したものを再録しました。


ピートはほぼノーマルのWilson ハンドル―――グリップとは別物―――を使用している。私はこれを4 -1/2 から4 -5/8の間に仕上げている。使用グリップはWilson Cushion Aire Sponge grip。ピートはこのコンビネーションを最も快適に感じている。
Wilson Cushion Aire Sponge gripは汗をよく吸収するので、Tournagripをそれほど頻繁に取り替えなくても済む。

訳注:そう言えば、以前の彼のグリップは茶色(革製)でしたが、現在は黒だった。それに試合中のグリップ巻き替え回数も減ったような………。

ピートのラケットのフレームは長さ27インチ、 重さ390グラム、バランスポイント32 cm。

ピートは現在新しいラケットを幾つか試している。特にどれと詳細には触れないが、我々は新しいモデルにパワーが行き渡るよう試みている。

Luxilon/Gut hybrid(ストリングスの種類)については、ピートはこの春広範なテストを行い、何試合かBig Bangerを張ってプレーした。彼はかなり気に入ったが、フィーリングに少し問題があった。クレーシーズンに入って使うのをやめ、グラスではガットを使う事に決めた。そして夏の間どのストリングスでプレーするか決める必要があるという時間の関係で、結局Babolatのガットに戻した。

コスメティックについては、ピートは何もしない。彼はおおむね黒のフレームを要求しているので、ピート特有のものになるだろう。

(選手は年間何本くらいラケットを使うかという質問に対して)
ピートは今年15本のラケットを使ったが、それは以前から使っていたものだった。選手によってはそれほど恵まれておらず、軽くて弱い壊れやすいラケットを使っている人もいる。また癇癪持ちで、50〜60本ダメにする人もいる。忘れてならないのは、プロは毎日数時間、もしくはそれ以上プレーする事だ。またATPの選手達は、大半のアマチュアよりも強く打ち、激しくプレーするから、ラケットはより早くダメになる。
試合中にラケットを替えるのは、ストリングスのテンションが下がったか、弱ってきた時だ。選手はプレーの最中にストリングスが切れるリスクを冒したくないから。

一般の人がラケットにウェイトを加える事については、まさに人によるとしか言えない。興味があるなら、試してみたら良いだろう。私の場合は、より容易くパワーのある深い球が打てた。
ピートのラケットの場合、ハンドル部分にはノーマルのものに20グラム重りを足す。それからトータルで20〜30グラムの鉛を上端から下端までに足す。ハンドルの先端部分のbutt capの下にリードテープ(鉛のテープ)を巻き、上の部分のグリップ下にも少し巻く。ヘッドには3時と9時の部分(両脇)に鉛を付け、時々は先端のバンパーの下にも付ける。

(1999年初めには、ピートが自分でストックしていたラケットを使い果たした)
私はピートが何本のラケットをストックしていたか知らないが、記憶によると彼は5〜6年間、毎年20本ずつカスタム化のために私にラケットを送ってきた。もうピートには手持ちのラケットがなく、Wilson社にだけある程度の量のストックがある。
そもそもピートがどうやって自分用のストックを手に入れたか聞いた事はないが、もしそのために代金を払わなければならなかったとしても、何のためらいもなかった事は確かだ。

ピートは中国製プロスタッフでプレーした事もあり、悪くはなかったが、何かが違っていた。彼はほんの少し打ってみただけで、その違いに気付いた。今まで使っていたもの(セント・ヴィンセント製)で上手くやっていたから、替えたいと思わなかったのだ。

グロメット(ストリングスを通す穴を補強する筒状のもの)については、古くなってきたり、ストリングスが予想より早く切れるようになってきたら、少なくとも部分的に交換する。個々のグロメットとパッドを付ける。
パッドを付けるのは角を丸くして、ストリングスが早く切れるのを避けるためだ。75ポンドで時には1.22ミリのガットを張るには、あらゆる予防措置を講じる必要があり、これはピートのためにガット張りを始めた時からやっている。
最後に手でステンシルを描いてガットを切っているが、長さを測った事はないので、張り上げたガットの寸法は分からない。

クレーコートの場合、通常ストリングスを太くする(1.25ミリから1.27ミリへ)。テンションは気候とコート・コンディションによる。暑くて乾燥している時はボールの飛びが速くなるので、テンションを上げる。気温が低くて湿度が高い時は下げる。その他は全ていつもと同じ。

ピートは自分のラケットのパフォーマンス特性について、正確に把握している。我々が行った唯一の変更は、彼の手により良い感じを与えるためのものだけで、全てのラケットが同じになるようにしている。つまりグリップを少し変えた他は、何も変えていない。
彼は長さ・重量・バランス・スウィングウェイトに関しては何も変えていない。もし彼の手に痛くなる部分があったら、何を変えれば解決するか話し合い、私はそれを実行する。秘密にしている事はないし、大きな変更もない。

ピートが何を望んでいるかについては、私は全て把握している。もしラケットに何か問題があった時、ピートは精確に感じている事を伝え、解決法について話し合う。私が一緒に仕事をしてきた選手の中で、ピートはずば抜けて敏感だ。ラケットに関して自分の感触を伝え、アジャストメントを私に頼む時は、ピートは決して引っ込み思案ではない。

私は今でもピートが出場する大会には全て同行する。デビスカップには行かない。ツアーを回るのは大変な事もあるが、ピートのチームの一員として旅をするのは特典もある。ピートがGSで優勝した時や、一緒にパール・ジャムのコンサートに行く時、ヨーロッパから帰る前夜にピートが電話をくれ、彼のプライベート・ジェットに招待されたような時は、旅は素晴らしい。
しかし、あまり良くない時もある。3日間雨が降り続き、一度も使っていないのに同じラケットを何回も何回も張り替える時や、早朝3時半に張り替えを始めなければならないような時、オーストラリアから飛行機の普通座席で帰る時だ。もしくは我が家や家族から何カ月も離れ、挙げ句にピートがパリで早々と負けてしまい、我々の全ての努力が無に帰したような気分になる時だ。

ピートはオフコートでも、皆さんがテレビで見る彼と全く同じだ。とても礼儀正しく、物静かで、親しい人とだけ一緒にいるのを好む。彼は練習と練習の間ホテルの部屋にいて、テレビの映画を観たりくつろいで身体を休める事に何の痛痒も感じない。パーティーに出かけたりしないし、必要な時以外は人前に出るのを好まない。彼は自己満足に浸ったりしないし、自分をスターとして扱うように人に押しつけたりしない。

私がピートのラケットのカスタム化を手がけたのは1990年、彼がUSオープンでGS初優勝を遂げた年で、以来ピートは私が手がけたラケット以外を使った事はない。ピートのストリングスを張るようになったのは1998年春からで、従って私が張ったラケットでの優勝は、ウィンブルドン3回、USオープン1回という事になる。
私が張ったラケットでGS優勝した他の選手は、ナブラチロワ、レンドル、セレシュ、ノボトナ等だ。

ピートはストリングスの無償提供を受けている。トップ選手は皆同様で、ランキングの低い選手達は割引してもらえる。

私はレンドルのラケットにも何年も関わってきたが、彼は全くえり好みしない。ピートが最も敏感だ。

ストリングス張り替えの行程にかける時間は大体30分。一人で行い、ストリングスの輪をドアノブに引っかけ、両端をペンチで押さえておく。最初のひと引きから最後の結び目までにかかるのは約15分。ピートのガットを34キロで張り替え、グロメットやパッド装着全てを含めて仕上げた最速記録は11分59秒。

訳注:最後に面白い質問が……。
Q:セント・ヴィンセント製はよりフレキシブルだと聞いています。またグラファイトのラケットは、長年ストリングスを張り替えたりボールを打っている間に、その硬さが失われていくとか。という事は、私の中国製プロスタッフ6.0-85は、いつの日かセント・ヴィンセント製に近くなるのでしょうか?

A:That could be, man, could be. Makes sense, any way.
訳注:「あり得ないとは言えないかもよ」てなところでしょうか? 中国製をお使いの方には朗報?


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