テニスマガジン
1993年6月5日号
あのプレーヤーのショットを盗み取ろう!
THE BIG SHOT!
●今回は…
ピート・サンプラスの『ファーストサーブ』
写真:中嶋 常正


90年全米以来の不調をくぐり抜け、じりじりとランキングを上げて今年1月には2位に、そしてあれよあれよと言う間に、1位に躍り出てしまったサンプラス。有名なグランドスラマー、ロッド・レーバーに、次なるグランドスラマー候補と折り紙をつけられた才能は、やはり本物だったようだ。強さの秘密は、レンドルばりのしっかりしたグラウンドストロークとそつのないボレーを自在に使うオールラウンドなプレーができるところだということを忘れてはいけないが、やはりもっとも目立つビッグ・ショットと言えば、あのスピード溢れるファーストサーブだろう。そこで今回は、彼の卓越した弾丸サーブの秘密を、さっそく探ってみることにした。


ジャパンオープン決勝でサンプラスに敗れたギルバートいわく、「サービスエースを取るということならイバニセビッチだが、サンプラスのサーブは鋭いスライスで外に追い出したり、突然センターをフラットでついたりと、変化に富んでいて総合的にもっと怖い」

サンプラスの身長は185センチとトップの中では平均的。しかし(1)全身をリラックスさせて柔軟に使い、(2)スイング速度が最大のときにインパクトする絶妙なタイミングで打ち、(3)最高に高い位置に打点を取り、(4)リストを非常に鋭く効果的に使ってパンチをつけている。サーブスピードのモトである(5)スイングスピードも非常に速い。スピードを出すために自分の体を最大限に使い、体のうまい使い方や、狙うコース、回転で補えば、背の高い人を越えるサーブは誰にでも打てるのだ。試してみよう!


ピート・サンプラス(アメリカ)
●1971年8月12日、アメリカ・ワシントンDC生まれ、フロリダ在住の21歳。185センチ、77キロ。90年全米オープン優勝。92年全豪オープン不出場(ケガのため)、全仏オープンベスト8、ウインブルドンベスト4、全米オープン準優勝。93年全豪オープンベスト4、ジャパンオープン優勝。ATPランキング1位(4月19日付)

CHECK POINT 1
ラケットのぶらさがりに注目。リラックスが、体をくまなく使う最大の秘けつ

(5)(6)で彼のヒジが高く上がり、ラケットが背中にぶらさがるように落ちている点に注目。このように体を柔軟に使い、ムチを打つようにしなやかに振り出すことができれば、サーブスピードは必ず増し、ボールの伸びも段違いに良くなるはず。よく言われることだが、力を込めようと思って体にガチガチに力を入れてしまうと、体がスムーズに動かずスイングスピードはかえって落ちてしまう。上(2)〜(7)の野球のピッチングのように肩、ヒジ、リストの順で振り出される柔軟なスイングをぜひ見習ってほしいが、それにはリラックスしてスイングすることが最大の鍵なのだ。

CHECK POINT 2
最高に高い打点は確実性と最高のスピードを生む基礎。飛びつくように打ちにいく

柔軟に体を使えない年輩の方も、肩の回りにくい人も、とりあえず腕を最大に伸ばしきった最高に高い打点を取ることができれば、ある程度力を込めても入るので、当然サーブはスピーディになり、入る確率も高くなる。上から下にボールを飛ばすサーブでは、打ち出す位置が高くなればなるほど、ネットを越えやすくなるし下向きの角度もつくのでインしやすくなるもの。自分の背の範囲でもっとも高い打点を取りにいくことは、スピードサーブを打つための第1ステップだ。トスが落ちてくるのを待つというより、ジャンプして高い打点に "打ちにいく" ようなつもりで打つとよい。

CHECK POINT 3
インパクトに最大のパワーを爆発させるタイミングの打ち方を身につけよう

インパクトに最大のパワーを爆発させる―――つまりインパクト時にもっとも力が入るようにするためには、勢いよく振り出して腕を伸ばしきったところにちょうどトスがくるように、タイミングよく振り出さなければならない。振り出しとトスのタイミングがぴったり合っていれば力まなくとも自ずと強力なサーブになる。サンプラスは筋力があるためスイングスピードが速いので、トスが手を離れてからラケットをかつぎ、一気に振り抜くタイプ。ただし彼ほど速いスイングができない人がこれを真似てもタイミングは合わないので、そういう人はトスアップの手が上がっていくにつれ、かつぐ腕も上がるようにする。人によってタイミングは違うので、練習の中で意識してそれを見つけ出していこう。

CHECK POINT 4
速さの最大の秘密は鋭いリストワーク。リストを返してスナップをきかせよう

サンプラスのサーブが速い最大の要因は、彼のリストワークが鋭いことだろう。つまりボールを切るように振り出してからフラットにボールをとらえるようにリストを内転させてスナップを利かせているわけだが、このスナップが非常にスピーディなので、連続写真で見るとねじ込む感じに叩き込んでいるように見える(上写真(6)(7))。このようにリストを使ってパンチを加えることは、速いサーブを打つためには不可欠。それには、意識してリストを利かすようにするだけでなく、事前にリストを十分にリラックスさせておくことが大切だ。


もっと細かくコマを割って写真を撮ると、リストワークが詳しくわかる。切るように振り出した(1)あとフラットに当たるようにリストを内転(2)させ、そのままの勢いでボールにスナップを利かせ(3)る。この動きが速いので一気に巻き込んで(4)いるように見える。

CHECK POINT 5
速いスイングスピードはサーブスピードに直結。思いきって振り抜くのがコツだ

ラケットのヘッドスピードが速ければ当然ボールに加わる力も強くなり、ボールのスピードは増す。ヘッドスピードを増すには、前述のようにスナップを利かせること、そしてスイング自体の速度を増すことが大切。上腕の筋力があればラケットも速く振れるので、ある程度筋肉をつけるのも方法のひとつだが、もっと簡単にできる工夫としては、のリラックスしてから振り出すことに加え、インパクト…リスト…と考えすぎることなく、とにかく "ひと息に振り抜く" ようにすることだ。


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