先日,ある雑誌で,面白い記事*)を見つけた.
人間言語(自然言語)は,長さ・数の点で,無限(集合)である.
しかし,全ての個別言語(各国語)は,有限の手段で定義できる.
- その言語の単語をすべて列挙する
- その言語の文法規則をすべて列挙する
- 上記2項によって定義される以外の記号列はこの言語の文ではないと定める
というものである.記事中の「三 言語の共通特徴」という章にあったのだが,人間の言語能力の偉大さと何らかの普遍原理の存在を思わせる共通特徴である.
そういえば,音素を組み合わせて単語を作り,単語を組み合わせて文を作る,という「階層構造」も共通特徴の一つと思われる.ついでながら,これは,情報科学の基礎概念の一つでもある.
言語の定義の話に戻ると,文法規則を繰り返し適用できるということが,無限の文を創り出す源泉である.つまり,文法規則には,
という形式の規則が含まれており,無限の文が生成できるもののようだ.
このような定義の仕方を,帰納的定義と呼ぶそうで,帰納的定義によって定義されうるという点が共通特徴の一つであるということである.
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これを読んで,ハタと思い出したのが,自然数の定義である.普通,代数的には,次のように定義する(幾つかの未定義用語があるけれど).
- 1 は自然数である
- n が自然数であれば,それに 1 を加えたもの n+1 も自然数である
- 上記2項によって定義される以外の元を含まない
なんと,これは自然言語の帰納的定義そのままではないか.
数学では,自然数から整数を創り,整数から有理数を創り,有理数から実数を創り,実数から複素数を創り…,といった具合に,自然数は数学の出発点でもある.現代数学では,自然数を有限集合の濃度として定義するようだが,これは,個数の抽象化に他ならない.言ってみれば,ごく「自然に」定義できる数である.
その自然数が,自然言語と同様に帰納的に定義できるというのは,何とも面白いことではないか.
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ところで,このような帰納的定義のことを,情報科学では,再帰的定義と呼び,これも情報科学の基礎概念の一つである.再帰概念は難しいという「定説」があるが,案外と自然な発想なのかも知れない.
*) 今井邦彦,“言語学をどう教えるか 1 言語の特性”,Vol.27,No.7,大修館書店 (1998-7).