ビジネスモデル発明の特許戦略

弁理士 遠山 勉


ジネスモデル発明は、

ソフトウエア技術を特定ビジネスに応用

はじめに、ビジネス戦略ありき

 

 (1) 通常の特許の対象である発明は、その前提として、特定の事業が存在し、その事業の上に成り立っていることは間違いありません。例えば、化粧品事業の上に、口紅やマニュキアの発明が存在しますが、そのような発明品を販売するにあたって、特許的には、どのようなビジネス方法を採用するかは特に問題とはしていません。

 従って、どんなにすばらしい発明であっても、その販売方法がまずくて売れない場合もあります。

 これに対し、ビジネスモデル発明は、特許法上「ビジネス関連発明」として、特定のコンピュター利用技術、通信技術を利用していなければなりませんが、その奥底には純粋なビジネス方法が存在します。すなわち、現場では、ビジネスモデル発明=ビジネス方法であると言っても過言ではありません。

 そうだとすると、特許の前に、まず、ビジネス戦略ありき、ということになります。ビジネスモデル出願は、そのビジネスを進めるに当たって、戦略の一環として出願されるものであるということです。

 

 (2)シグナチャ社のハブ&スポーク特許の例

 戦略的な特許の例として、シグナチャ社のハブ&スポーク特許を参照してみましょう。

 シグナチャ社特許は「ステートストリートバンク事件」で話題となりました。シグナチャ社は、ある金融サービスを提供するビジネス方法について特許権を取得し(USP5,193,056)、ステートストリート社に対し、ライセンス交渉を行っていました。この交渉は破綻し、ステートストリート社が当該特許の無効を確認するための訴訟を提起しました。マサチューセッツ州連邦地方裁判所は、当該特許の対象は、特許法の保護対象となるべきものではないとして特許無効を認めました。これに対し、控訴審すなわち高等裁判所である連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許法の保護対象である旨認定しました。これがステートストリートバンク事件の概要です。

 ここで、シグナチャ社特許について、ビジネスメソッドが特許の保護対象となるか否かが問題となっていますが、そのような点のみに拘泥して欲しくありません。

 シグナチャ社が優れているのは、ビジネスメソッドが特許の保護対象となるか否かはともかく、それを自社の「ハブ&スポーク」式金融サービスの事業展開において、特許出願したということです。

 おそらく、たとえ特許されなくとも、出願することだけで事業展開に有利になると判断したのでしょう。

 問題は、特許になるかどうかではなく、特許制度をビジネス戦略としてどう使うかです。「ハブ&スポーク」という商標も取得し、併せて特許出願もしておくという戦略は、きわめて有効であったということです。

 

 ここで、その特許を紹介します。

 シグナチャ社は、アメリカ特許出願に基づいて、特許協力条約に基づく国際出願により日本にも出願をしているので、この公表公報(特表平6−505581)から、特許請求の範囲を引用します。

 発明の名称

 「ハブ及びスポーク金融サービス構成のためのデータ処理システム及びその方法」

 

 特許請求の範囲

「各パートナーは複数のファンドの一つであるパートナーシップとして構築されたポートフォリオの金融サービス構成を管理するデータ処理システムであって、

(a)データ処理のためのコンピュータ手段

(b)保存媒体上にデータを保存するための保存手段

(c) 保存媒体を起動するための第1の手段

(d) 前日からポートフォリオ及び各ファンド中にある資産に関するデータ及び各ファンド資産の増加及び減少に関するデータを処理し、そのポートフォリオ中の各ファンドの有するシェア比率を配分するための第2の手段

(e)そのポートフォリオについての毎日の利益収入、支出及び正味の非換金ゲインあるいは損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てる第3の手段

(f)そのポートフォリオについての毎日の正味の非換金ゲインあるい損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てる第4の手段;及び

(g)ポートフォリオ及び各ファンドについての年度末の合計収入、支出及びキャピタルゲインあるいは損失を処理する第5の手段

 とを含むデータ処理システム」

 ここで、ハブとかスポークとか言われるのは、シグナチャ社が付けた商標であり、シグナチャ社による金融サービスを言う。その内容を特許明細書から抜粋してみる。

 「ハブ及びスポークは2以上のミューチュアルファンド資産の合体を可能とする。この金融サービスは、連邦所得税に対しパートナーシップとして取り扱われる本質(entity)、及び投資ポートフォリオ(パートナーシップポートフォリオ)と そのパートナーシップポートフォリオにおいてパートナーとして投資するファンドを有する。

 上記パートナーシップポートフォリオ及びパートナーファンドの下で、「スポーク」(シグナチャ社のサービスマーク)と呼ばれる複数のファンドは、1940年の会社投資法及び1933年の証券法の下で、一つのミューチャルファンドになることができる。

 ミューチャルファンドでは、一つのスポークとして、一つの年金ファンド、共通信託ファンド、一つの保険会社の別口勘定あるいは一つの非米国居住者の投資ファンドがミューチャルファンドになることができる。

 さらに、「ハブ」(シグナチャ社のサービスマーク)と呼ばれるパートナーシップポートフォリオが構築され、そして各ファンドはそのパートナーシップポートフォリオにおける一人の投資家である。パートナーシップポートフォリオは1940年法の下で登録されたが、そのシェアは1933年法の下では登録されなかった。個々人は直接パートナーシップポートフォリオに投資できない。その唯一の投資家はファンドであり、そのそれぞれがポートフォリオに100%の資産を投資する。

 ポートフォリオは法的には一つの信託あるい他のエンティティであるが、課税に対するパートナーシップとも考えられる。パートナーシップとしてそれ「フロースルー」税の扱いを受け、その結果そのポートフォリオは税を払わず、むしろすべての経済的な損失はそのポートフォリオの投資家に貫流する。ミューチャルファンドは課税を避けるために、内国税収入コードの下で「認可投資会社」(RIC)のステイタスに適合することが必要である。本コードのRIC規定は、一般にミューチャルファンドを他のタイプのファンドに投資するのを防ぎ、そして単一のミューチャルファンドを複数のミューチャルファンドにすることを防ぐ。

 詳細は、明細書に詳述されているので参照されたいが、簡単にいうと、ポートフォリオ中の各パートナーはある種のファンドであるために、顧客がさらに投資するか引き出すかでそのファンドの資産が日々変化し、各ファンドのパートナーシップ利率も日々変化し、従って、ポートフォリオの各ファンドのシェアの分配も日々変化するので、本発明はそのような分配をコンピュータで行うというのです。

 

(2) ビジネスモデル発明は、「はじめにビジネスありき」ということがご理解いただけたと思います。

 従って、まず、企業の経営トップが、あるいは企画・開発が、ビジネス戦略を組み立てる必要があります。

 

 

経営トップ

ビジネス指針の提示

企画・開発部によるビジネスの具体化・設計

知的財産部と連携してビジネスモデル特許出願

 

 

 このように、ビジネス戦略が固まった時点で、そのビジネスを進める方向に向いて戦略の一環としてのビジネスモデル出願を行います。

 ビジネスモデル発明の特許出願は、戦略的に動いているビジネスの上にあって初めて有効となる出願であり、単に世の中で騒がれているからといってなんの戦略もなしに出願するのでは有効な特許とはなりえないことに注意してください。

 

 


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