eveの夜に


12月24日。
日曜日がクリスマスイブだったこともあって、当然平次は新一と2人で過ごした…かったのだが。


クリスマス商戦真っ只中の某宝石店を狙って、今世紀最後の一仕事とばかりに怪盗KIDからの予告状が届いていた。
誰が買うわけでもないが、客寄せの為に有名な時価一億円もの宝石を展示していたのだ。
今夜こそ、と意気込む平次の事情をKIDが考えてくれるはずも無く。


結局宝石は無事だったが、闇に浮かびあがり目立つハズの白い衣装を纏ったKIDは捕まえられない。
飛び立つ際に、クリスマスカードなぞが落ちてくるあたり、からかわれたのかとすら思ってしまう。

馴染みの刑事がクリスマスなのに悪いね、と謝って来たが彼も仕事とはいえ同じ立場だろう。
側に想い人がいる彼の恋が先に進むのはいつのことか。


 


家に戻ると既に11時過ぎ。
ワインとつまみだけは用意してあったので、いそいそと平次がグラスの用意をする。



「とりあえず、メリークリスマス」

「メリークリスマス」



カチンとグラスを合わせる。

ろうそくも用意しておけば良かったかな…などと考え、ワインが一向に減らない平次をよそに、新一がかなり早いペースでワインをあける。一応グラスが空けば、平次がワインを注いで入るのだが、あまりのペースについ心配になる。

それはもちろん、色々都合もあるので多少酔わせようとは思っていたが、完全に酔っ払われてしまっては困るのだ。



「お前、ちょおペース早いで?せっかくクリスマスなんやし、ゆっくり飲もうや」

「だってよ、クリスマスカードなんて置いて行きやがったんだぜ?ぜってーなめられてるよな。
 お前悔しくないのか?」

「そら、まぁ…」



悔しくないわけではないが。今はそんな事にかまっているわけにはいかないのだ。
探偵としてなら、本来こっちを気にするべきなのかもしれないが。
今日はクリスマスイブなのだ。そして目の前にいるのは、最愛の人で。



「せやけど、せっかくのクリスマスやん?楽しまなv」

「〜〜そうだけどよ」



まだ不服そうな新一をよそに、平次がワインを注ぎながら話題を変える。



「な、工藤。工藤はガキん頃、サンタ信じとった?」

「え?」



突然の話題についていけずに、聞き返すが頭の中でもう一度無意識に再生しなおして、意味を確認する。



「あ〜本当に小さい頃は、信じてたぜ。うちの親、そーゆーの好きだったからな」



ちゃんとサンタクロースからのプレゼントと、両親からのプレゼントをもらっていた気がする。
眠っている間に、いつも大きな包みが枕元に置いてあって、何度か会おうと努力した。きっとどこの子供もやっているだろう事を昔の新一もやっていた。
ガキだったよな…と少し胸の奥がむず痒くなる。



「プレゼントとかもろてたんやろ?工藤んちならなんやでっかいプレゼントとか貰いそうやもんな〜」

「お前んち、サンタって感じじゃねぇもんな。純和風家屋って感じだし」

「まぁな。煙突風呂のしかあらへんし」



クックと笑って平次が思いでを語り始める。そういえば、あまり平次自身の話は聞いた事が無かった。



「うちな、昔から親父あんなやし、クリスマスなんて学校でしかやらんかったんやけど」

「うん」



刑事の仕事をしている親を持つ平次にクリスマスは確かに難しかったろう。



「1度だったかオカンにな。なんでうちにはサンタ来ぃひんのやって聞いたんよ。
 したら順番があるし、いい子の所にしかサンタさんは来んよって言われてな。まぁ、俺昔悪ガキやったし」

「今もだろ」



さっくりと新一が告げる。そうかもしれんな〜と苦笑しながら平次が話を続けた。



「そんで、それからはあんまり悪させんかったらサンタがうちにも来よってん。
 枕元にプレゼント見つけた時、何やめちゃ嬉しゅうて。オカンとこ見せに行ったんよ。したらな」

「うん」



枕もとのプレゼントを見つけて、大はしゃぎで母親の元へ行く平次を思い浮かべて新一がくすりと微笑する。
それを見て平次も懐かしいような嬉しいような顔で笑う。



「居間に3人分のお茶が用意してあって、オカンが一人で笑ってたんよ」

「…何で?」



本当は想像がつく。それでも平次の口から聞きたい。



「『サンタさんさっきまで居ったけど、今帰ったで?平次がよぉ寝とるから起こさんで行くわて言うとったわ』てな。
 親父がサンタを送っていったて言うとったわ。飲み掛けの茶ぁまで用意してな」

「…いいご両親だよな」

「んん?お前んトコもやろ?」



返事の変わりに話続けた平次のグラスに新一がワインを注ぐ。



「あ、おおきにv」



嬉しそうにグラスを空ける。
その時壁の時計が12時を告げた。



「クリスマスおめでとうってのも変な気がするけどな」

「したら聖なる夜に乾杯vて事で」



3本目のワインをあけて平次がお互いのグラスに紅い液体を注ぐ。



「飲めればなんでも良いくせに」

「まぁそう言わんとv飲もv」



20世紀のクリスマスの夜は更けていく。