残念系性格属性の由来

 どこかで似たようなことを書いたような気もするのだが、まとめなおしておく。

 このところ、いわゆるオタク系のラブコメ作品において、残念な性格を属性としてもったキャラクターが目につく。具体的には、鈍感、意地っ張り、優柔不断、馬鹿、粗暴といった性格属性となろうか。それらが異常なまでに過剰に描かれるのが、現代オタク系ラブコメのお約束のひとつとなっているのである。本稿で問題にしたいのは、このような属性がどのような事情があって要請されたものなのか、ということである。

 一般に恋愛物語は、愛の成就の過程を描くものである。そのため、物語には、愛の成就にたいする妨害の存在が要求される。主人公二人が簡単に結ばれてしまっては、物語は面白くもなんともないであろう。ふつうに、知り合って、だんだんお互いに好意をもつようになって、お付き合いすることになりました、では、読者は「リア充爆発しろ」以外の感想をもちにくい。そこにはなにか妨害がなければならない。その妨害を乗り越えるさまを描くことにおいて、物語の盛り上がりは成立するのである。

 さて、虚構の恋愛物語に二人のキャラクター甲と乙がいて、甲は乙のことがなんとなく好きであり、また、乙も甲のことがなんとなく好きであるとする。ところが、この甲と乙の愛が実っていない。このとき、どのような事情で愛の成就が妨害されているのだろうか。古今東西の恋愛物語にはさまざまな種類の妨害が登場してきた。大まかに分類すれば以下のようになる。

(1)運命による妨害:運命によって引き裂かれたりすれ違ったりする。

(2)社会による妨害:制度上許されない、あるいは、周囲に反対される、などで引き裂かれたりすれ違ったりする。

(3)性格による妨害:性格が残念であるために、引き裂かれたりすれ違ったりする。

 その他にもいろいろあるだろうが、とりあえず三つにくくっておく。順に検討していこう。

 運命による妨害は、現代でも十分に通用している。一方が、戦争が起きて出征した、不治の病にかかった、などである。携帯小説からハリウッド映画まで、よく見かける黄金パターンである。ただし、これはオタク系作品では使いづらい。オタクビジネスの基本にならって、その作品をシリーズ化してキャラクターを転がしていこうとすると、過酷な運命を次々登場させねばならず、かつてのジャンプ漫画のごとく悪性のインフレを起こしてしてしまうだろうからだ。

 社会による妨害は、具体的には、家柄が違った、すでに許婚がいた、同性どうしだった、等々で社会や周囲から引き裂かれる、というものである。このラインは、現代では特有の難点をもつ。一般的に、現代の社会制度や価値観は、社会の構成員のあいだの愛のありようにたいして寛容である。いや、不寛容も多く残ってはいるが、寛容な方向に歴史は動いている。そのため、社会による妨害を現代において描くと、恋愛物語を描いているというよりは、社会にいまだ残る不寛容を告発しているように読まれてしまいがちだ。話のポイントがズレてしまうのである。エンタメとして、社会派なノリからは一線を引いておきたいオタク系作品にとって、これは避けたい事態である。

 そこで残るのが、性格による妨害である。結局のところ、オタク系作品において、愛の成就の妨害要因としてもっとも手っ取り早いのは、本人たちの残念な性格なのである。我々が好む作品において、冗談にしかならないようなレベルでの、鈍感、意地っ張り、優柔不断、馬鹿、粗暴等々が属性として活躍しているのは、このような事情が出発点にあると考えられる。そののち、一部の残念系性格属性は、そのものとして愛好されるようにオタク文化のなかで洗練されていった。そのいちばんの成功例が、言うまでもなく、「ツンデレ」属性というわけだ。

 このように、残念系性格属性は、もともと物語上の必要性から要請されたものである。他の属性のように、第一に萌えの情念ありきで生み出されたされたものではない。そのため、少し間違えると、たんに不愉快なだけのものになってしまう。残念系性格属性はやはり残念なのであり、愛されにくいものなのである。一部のキャラクターの鈍感さや粗暴さが反感を買ってしまうのは、そのあたりの課題をクリアするのに失敗したためである。

 平坂読『僕は友達が少ない』や高津カリノ『Working!!』が興味深いのは、残念系性格属性のこのような事情をメタな視点で作品に取り込んでいるところである。これらの作品、オタ向け恋愛物語のキャラクターはどこか残念でなければならない、という要請を逆手にとって、その残念さをよりエキセントリックにしてみたり、残念さの方向性をお約束から少し外してみたり、といった工夫をしている。これがオタ向けラブコメ最新型の定跡なのである。

 ついでに、『はがない』とよく並べられる、渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』について一言だけ述べておこう。こちらは『はがない』的な残念系性格属性の扱いを、さらにもうひと捻りした結果、直球に戻って、「性格が残念な青春」を正面からテーマに扱う作品になっている。『はがない』の影響あっての作品であることはたしかだが、やっていることはかなり違っている。このあたりには、注意が必要であろう。

ページ上部へ