ゲームが苦手

 私はゲームが苦手である。

 まず、プレイするために思考を要求するゲームが苦手である。

 一所懸命に考えたりすることは辛いことではないか。楽しいはずの趣味でなぜ辛いことをするのだ。考えたりするのは嫌だ。どうしてもこのような心もちになってしまい、一定の思考を要求するゲームの多くを私は避けてきた。また、縁あってプレイまでこぎつけたとしても、たいてい挫折してきた。つまり、私はシミュレーションやパズルが駄目なのである。

 くわえて、操作のタイミングやらスピードやらについて習練を要するゲームも苦手である。

 一所懸命になにかを身につけようと努力することは辛いことではないか。楽しいはずの趣味でなぜ辛いことをするのだ。練習したりするのは嫌だ。生来の不器用さゆえに努力がろくに実を結ばないこともあり、この苦痛は私にとって耐えがたいものであった。つまり、私はシューティングやアクションも駄目、というわけだ。

 かくして私は、一定の思考あるいは習練を要求するゲームに背を向けたオタクライフを歩むこととなった。縁あってプレイまでこぎつけたとしても、たいていは挫折してきた。すれすれでできるのは、いわゆるRPGとAVGくらい。それらだって、まともにやれたかというと怪しい。RPGなど、ぼんやりと作業してレベルを上げたうえでの無双プレイがデフォルトだったのだから。あとは選択肢クリックするだけのノベルゲー、というわけだ。あまりにも貧しいゲームライフで泣けてくるほどだ。

 ここで、思考を要求するゲームについて注目してみたい。

 昔の哲学者たちはしばしば人間の知性の働きを二つに分類した。その二つとは、いろいろなものどうしを結合する働きと、あるものをその要素へと区別する働きである。前者はいわば「想像力が豊かである」と言われるような頭の良さにあたり、後者はいわば「分析力に優れている」と言われるような頭の良さにあたる、と言えるだろうか。雑であるが、文系と理系、としてもいいかもしれない。ただし、後輩のひとりにガチのデジタル派雀鬼がいるのだが、奴をそれだけで理系的知性アリ、とするのはなんだか釈然としない。話が逸れた。

 さて、かねてからの私の主張は、オタク趣味においては金と時間だけでなく知性も惜しんではならない、というものである。下らない作品にたいしても、いや、下らない作品だからこそ、全身全霊を込めて語り倒してこそのオタクであり、そこには知的な努力が必要不可欠である、というわけだ。

 ここで問題となるのは、私の言う「知性」が、先に分類した二つのうちのどちらなのか、ということである。

 言うまでもなく、これは前者である。私にとってのオタク的活動の核心は妄想にある。所与の作品を細かく切り刻んで分析するのではなく、その作品をダシにあることないことを豊かに妄想すること、これこそがオタクのやるべきことだ、というわけだ。ところが、いわゆるゲームに必要な知性はこちらではなく後者のほうなのであるよね。ゲームの規則をきちんと踏まえたうえで、適切な解を目指す、という知的活動は、私の定式化するオタク的活動には上手く位置づけられないのである。

 ついで、習練を要求するゲームに目を向けてみたい。

 習練もまた、ちょっと違った意味でではあるが、想像力系の活動と相性が悪そうである。習練とは基本的に同じことを反復することでもって成立する。ピアノだろうが太極拳だろうが日本舞踊であろうが、上達のために求められるのは、まずは型の反復練習、というわけだ。しかし、妄想する知性はこういった習練と相性が悪い。堪え性がないので、同じことをやっているとすぐに飽きてしまうのだ。そして、やるべきことをやらずに、どうでもいい勝手な工夫をしてみたりして、結局失敗するのである。

 私が個人の嗜好としてゲームが苦手である、ということは、かつてどこかに書いたような気がする。また、私が自分のオタク論のなかにゲームを位置づけることが苦手だ、ということも、すでに何度か強調しておいた。この二つのゲームの苦手さは、以上のようなしかたで、根っコのところで繋がっていたようである。

 ところでこの話、いわゆるコンピューターゲームに限定されたものではない。

 そもそも、あらためてこのようなことを考えたのは、最近ちょっと将棋を勉強しようかな、という気をおこしたからである。ずっと見るだけの将棋ファンであったのだが、さすがにそれは損をしているような気がして、某九段の四間飛車本とか入手してコンピュータの最低レベル相手にちょこちょこやっているのだが、案の定、一手一手をちゃんと読んだうえで指すことが苦手で、まあ弱いのなんの。動かした大駒をタダでボロッと取られたりするのは日常茶飯事。これは根っコから自分の価値観を変えないとどうにもならないなあ、と思うようになった。ただ、やはり生来の性向はなかなか変えられないようである。ぜんぜん上手くいっていない。

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