それでもいいの系属性あれこれ

それでもいいの系属性グループ

  酔っ払って喋った与太話をまとめておく。複数の属性を、「私はこれこれなんだけど、それでもいいの」という台詞を言うことで盛り上がる、という観点からまとめることができる。「これこれ」には、一般に否定的な価値をもつ属性が入る。このとき、そのような台詞を遮って愛を伝える可能な答えとして、以下の三つの選択肢があるだろう。

「私はこれこれなんだけど、それでもいいの」という問いかけにたいして、

  1. 「それを僕も背負ってあげたいんだ」
  2. 「そんなことまったく気にしないよ」
  3. 「だがそれがいい」

 「1.」は、その属性が否定的な価値をもつことを認めたうえで、それでも君を愛する、と答えるものである。

 「2.」は、あなたや世間はその属性が否定的な価値をもつと思っているが、私はそうは思わない、私のあなたへの愛とは無関係ですよ、と答えている。

 「3.」は、あなたや世間はその属性が否定的な価値をもつと思っているが、私にとってそれは肯定的な価値をもつものであり、愛の障害となるどころか、強めるものなのだ、と答えている。

 さて、このシチュエーションが、否定的な価値をもつ属性にたいして、一般に成立する、と述べた。しかし、上記の三つの答えのどれが親和するか、ということは、属性によっていろいろと異なると思われる。それは、一口に「否定的な価値」といっても、その否定性にさまざまな種類があるからだ。代表的なものを見ていこう。便宜上、以下では男性ジェンダー視点で議論を展開していくが、それ以外のさまざまな展開の可能性を否定するものではない。

1 貧困属性

 「私は貧乏なんだけど、それでもいいの」である。これにたいする答えはおもに「1.」「2.」であろう。「3.」は特殊な場合しか成立しない。「君がお金持ちになっていたら、財産目当てだって思われてしまうから、プロポーズできなかった」と言ったのは、コナン・ドイル『四つの署名』のワトソン博士だったか。

2 不美人属性

 「私は可愛くないんだけど、それでもいいの」である。娯楽作品では、本当に不美人である場合はそれほどなく、たんなる容姿コンプレックスもち属性でしかなかったりする。これにたいしては「3.」が王道ではないか。つまり、「私にとってはあなたはとても可愛い」と答えるのである。たとえ内心そう思っていたとしても、「1.」はちょっとないような気がする。可能な展開が思いつかない。

3 性格悪い属性

 たとえば「わがままで素直になれない私だけど、それでもいいの」である。これにたいしても「3.」が王道であろう。この台詞が出る時点で、もう十分に反省して素直になっているのだから、アバタもエクボで、ツンも可愛さのうち、というわけである。このように、この発言は、「私は嘘を言っています」という発言と似て、自己矛盾めいた印象を与えるものであるのだが、そのあたりも萌えるポイントになっているわけだ。

4 スタイル悪い属性

 たとえば「私は太っているけど、それでもいいの」なんかどうか。あとは、「私は貧乳だけど、それでもいいの」とか。その他にも、いろいろなものが考えられるであろう。これも「3.」、「実は僕は太った子が好きなんで」あるいは「貧乳好きなんで」が王道と言えば王道なのだが、それでは予定調和な割れ鍋に綴じ蓋で、少しつまらないかもしれない。あえて「2.」あたりでもっていくと、その後の展開に味が出るような感じがする。

5 趣味嗜好がアブノーマル属性

 たとえば「私は筋金入りのブラックメタラーなんだけど、それでもいいの」である。その他、オタク趣味でもなんでもいいだろう。これも「3.」では趣味がカップルで一致しました、というだけで、少しつまらない。ちなみに、アブノーマルな性的嗜好で「2.」パターンにもっていくと、コミカルなエロ漫画のネタが数本すぐに出来そうである。

6 年増属性

 たとえば「私はずっと年上なんだけど、それでもいいの」というやつだ。これ、喰いつく読者や視聴者は基本的にお姉さんマニア、熟女フェチであって、「3.」「だがそれがいい」という答え以外ありえないのであるが、物語の展開的には「2.」のほうが素直である、という点が面白い。作品の内と外とであるべき答えがズレるのである。逆の年齢差、つまり、たとえば青臭い小娘が枯れたオジサマに向かって「私はずっと年下なんだけど、それでもいいの」と言うパターンが少々座りが悪いのは、この台詞を言える、ということが、ちゃんとした大人である、ということの証明になってしまうので、状況がそれほど深刻にならないからであろう。

7 犯罪歴あるいは反道徳的行為歴もち属性

 あまり罪業が軽いものは物語にならない。「私は幼いころから殺し屋の訓練を受けていて、これまで何十人手にかけているんだけど、それでもいいの」くらいでないと。これはまあ「1.」しかありえないような気がする。贖罪が済んでいる場合にかぎっては「2.」もありか。いわゆるムショ帰り、というヤツである。「3.」の選択肢の行く先としては、ちょっとバッドエンドしか思い浮かばない。

8 家庭の事情もち属性

 これ、いろいろなパターンがあるのだが、ラブコメにありがちなものとしては、「私の父はヤクザの組長だけど、それでもいいの」とかだろうか。これについては、「2.」「3.」は物語の展開的にありえない。つまらないからだ。「1.」を物語の導入に置いたうえで、すったもんだするのが王道であろう。『ロミオとジュリエット』はこれの変形パターンか。

9 病気属性と障がい属性

 古き良き葉鍵的あるいは携帯小説的なアレだ。これは「1.」「2.」のどちらかであろう。物語内で「3.」が成立することはほぼありえない、と言っていいだろう。実は、ノンフィクションでは、社会的にハンディキャップと見なされるなにかを負っていたとしても、与えられた人生をそのまま肯定する、という文脈はありえて、我々を感動させもするのであるが、さすがに娯楽作品のネタとしてそれを消費するのは憚られるのである。ただし、読者や視聴者の立場からすると、私はこの手のパターンの話が好きなんだよね、という意味で「3.」も成立しうるであろう。

10 被差別属性

 気合いを入れた作品にのみ許される。現に社会的に問題になっている被差別属性にかんしては、ここで例文をつくることさえはばかられるほどである。そして、たとえば「私はこれこれの地域の生まれなんだけど、それでもいいの」「私の肌の色はこれこれなんだけど、それでもいいの」には、「1.」の答えしかありえない。「3.」はありえない。「2.」のような弱い覚悟は、必ず悲劇的な結末を招くであろう。「1.」の答えから、二人の社会的偏見にたいする戦いの物語が始まるのだ。

11 使命あるいは運命もち属性

 「私は実はムー大陸の聖戦士の生まれ変わりで人類根絶を企む暗黒星雲からの侵略堕天使と命をかけた戦いをしなければならないんだけど、それでもいいの」とかなんとか。これにたいしてもまた「1.」の答えしかありえない。「僕もまたかつての聖戦士のひとり、引き裂かれた君の前世の恋人の生まれ変わりなんだ」とかなんとか。そこから二人の戦いの物語が始まるのである。この構造の一致から理解できるように、上で検討した被差別属性は、物語論的には、使命あるいは運命もち属性の一種類として理解することができる。差別との戦いが社会的道徳的使命として受けとめられるのである。

12 人外属性

 「私は宇宙人、未来人、異世界人、超能力者etc.なんだけど、それでもいいの」といった感じである。物語のもっていきかたによっては、「1.」「2.」「3.」のどれでもいけるか。きわめて珍しかったり希少であったりするだけでは、属性が否定的価値をもつ、とは言えないので、前の二つ、すなわち、被差別属性や使命あるいは運命もち属性と組み合わされている場合が多いような気がする。

13 男の娘属性

 「僕は男の娘なんだけど、それでもいいの」というわけだ。いいね。盛り上がるね。これは「2.」で行くか「3.」で行くかのどちらかであろう。「2.」は、好きになった子がたまたま男の娘だった、ということになる。「3.」は、男の娘がそもそも好きなんだよ、というわけだ。

14 非処女属性

 とくに説明する必要もあるまい、エロ漫画などによくあるアレである。エロゲーやエロ漫画以外でこれを使ってドラマを盛り上げようとするクリエイターは、いまひとつセンスがない、と言わざるをえないだろう。

それでもいいの系属性の論理

 その他にも、料理下手属性やら連れ子もち属性やらなにやら、いろいろと展開できるであろう。さまざまな属性を挙げてみたが、これらの違いは、問題となる属性の否定的価値が、主観的にのみ認められたものなのか社会的に認められたものなのか、根拠があるのかたんなる偏見なのか、重大な帰結を引き起こす可能性があるかそうでないのか、努力によって克服可能なものなのかそうでないのか、云々といったような違いによって生じていると思われる。ただし、これをパターン化するのは難しそうなので、個々の属性ごとに考えていくのがいいのかもしれない。

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