思い出の『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』

 1977年に『スター・ウォーズ』(いわゆるエピソード4)がアメリカで爆発的に大ヒット、それをうけて1978年夏の日本公開が決定されたのがすべてのはじまりであった。このとき、空前の『スター・ウォーズ』ブームの盛り上がり、そして、映画の日本公開までのタイムラグ、この状況を利用して一山当ててやろう、と、我が国の各映画会社はこぞってSF宇宙戦争ものを突貫工事でつくりあげていった。それが、東宝の『惑星大戦争』であり、東映の『宇宙からのメッセージ』であったわけだ。この『宇宙からのメッセージ』はB級映画愛好者であれば一度は見ておくべき馬鹿っぷりを誇る怪作なのであるが、それは本稿の主題ではない。重要なのは、そのすぐあとの1978年から、映画『宇宙からのメッセージ』の素材を流用したTVシリーズの特撮ドラマが制作された、ということである。これこそが、『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』である。つまりは、『スター・ウォーズ』の劣化パクリ映画の残骸をリサイクルして出来た、模造品由来の廃品利用ドラマが本作というわけだ。しかし、そういった出自をもつにもかかわらず、この『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』、本当に素晴らしい特撮ヒーロー作品なのである。

 シータ、ベルダ、アナリス、三つの居住可能な惑星をもつ第十五太陽系は、平和な繁栄を謳歌していた。しかし、その日常は、残虐非道なガバナス帝国の電撃的な侵略の魔の手によって、無残にも引き裂かれる。ガバナスによって家族を惨殺されたゲン一族の青年ハヤトは、兄貴分のリュウ、その相棒の猿人バルーとともに、帝国の支配から第十五太陽系を救うべく、レジスタンス闘争の真っただ中へと身を投じていく。彼らに助力を与えるのは、謎の美女ソフィア。ソフィアに与えられた超高性能宇宙艇リアベ号を駆る三人の闘士の物語が繰り広げられていく。

 まず驚かされるのが、世界観と物語のスケールの大きさである。別の太陽系世界を一つ構築するだけではなく、主人公たちが飛び回る三つの惑星の情景をそれぞれ描き分けている。そして、その丁寧に構築された異世界で展開するのは、強大な力をもつ大帝国に反旗を翻す、重厚なレジスタンスの物語。これが熱い。ハヤトたちは、第十五太陽系を巡るなかで、ガバナスに抵抗するさまざまな人間たちと出会っていく。その出会いの顛末の描きかたが実に心憎い。物語序盤で出会う人々については、最後に命を落としてしまう結末が多い。このあたりで、視聴者はガナバスの強大さを痛いほどに実感する。ところが、中盤から終盤にかけては、ハヤトたちが協力者の命を救うことができる展開が増えてくる。このあたりでの、レジスタンス活動が徐々に帝国を追い詰めているのだ、という盛り上がりには、たまらないものがある。そして、ガバナス皇帝ロクセイア十三世の驚愕の正体が暴かれるラストへと物語は流れ込んでいくのである。ちなみに、シリーズ構成と脚本の大部分を担当したのは、伊上勝である。

 そして、アクションだ。これがとてつもなくかっこいい。ベースは完全に時代劇、それも忍者モノ。ガバナス帝国の軍事力の中核をなすのは、コーガー団長、イーガー副長の兄弟が率いるガバナス忍者兵団である。毎回、特殊能力をもつ怪忍者を銀河のさまざまな惑星から呼び寄せ、凶悪な作戦の遂行を企むのだ。それにたいして、ハヤトとリュウは、それぞれ銀と赤を基調にした宇宙未来忍者の装束に身を包み、「まぼろし」「流れ星」を名乗って戦いを挑む。このまぼろし、流れ星というヒーローが、かつて幼い私を狂わせ、虜にした。

 この作品との最初の出会いは私が物心つくかつかないかのころ、今は故人となった祖母が買い与えた『てれびくん』だか『テレビマガジン』だかの特集記事の一枚のスチルを介してであった。幼い私は、まぼろしと流れ星、二人のスペースでサイバーでメタリックな忍者スタイルに一目惚れ、完全に打ちのめされてしまったのである。いまでもその写真をうっすらと覚えているほどだ。ところがである。まだ本当に小さかった私はテレビの番組を自ら選択するということさえできなかった。そのため、そのときやっていたであろう本放送を一度も見ることはなかったのである。そして、ついに、ついにDVDを手に入れて視聴できるようになったのは、出会いから四半世紀以上も後となった、ついこのあいだのことであった。そして、心の底から感動したのは、ウン十年も脳内でグツグツと煮しめて濃縮された期待値を数段上回るかっこよさを、画面のなかを縦横無尽に動いて悪を蹴散らすまぼろしと流れ星がもっていた、ということにたいしてであった。かつての幼い私のヒーローの価値にたいする直感は、間違っていなかったのだ。

 対人アクションだけではない。宇宙戦闘機によるドッグファイトもまた見事な迫力を誇るものとなっている。現在、TVの特撮作品はほぼ東映戦隊シリーズと仮面ライダーシリーズだけになってしまったが、この二つはドックファイトを基本的に見せてはくれない。それもあって、リアベ号に搭載された二機の戦闘機、ギャラクシーランナー、コメットファィアーが、ガバナス帝国戦闘機と展開する空中戦は、実に新鮮な興奮を我々に与えてくれる。このあたりの出来の良さは、映画版から映像やら美術やらを流用できたことが効いているのだろう。

 キャラクターにも触れておきたい。主人公の三人、ハヤト、リュウ、バルーは、そのまま『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカー、ハン・ソロ、チューバッカなのだが、きちんとアレンジが効いていて、独自の魅力を発揮するところにまで練り上げられている。若き日の真田広之演じるハヤトは、未熟さを残しつつも、その弱点をきちんと自覚しているあたりのクレバーさがあって、ありがちな無鉄砲キャラにはなっていない。そして、ぐっとくるのが、先輩格のリュウとバルーを心の底から尊敬し愛している、というあたりの微笑ましさである。素直でとても可愛らしい。兄貴分のリュウは、軽い雰囲気を振りまきつつも、締めるところは締め、ハヤトをきちんと一人前の正義のヒーローへと導いていく。そして、バルーだ。情に厚くて力持ち、二人のヒーローを一歩下がって立たせる名脇役。この三人組の構成がなんとも絶妙で、軽口を叩きあいながらもお互いを信頼している、という、まさに戦友の絆、大人の漢の絆を我々に見せてくれるのである。素直に応援したくなるチームなのだ。

 さて、本作は視聴率が低迷したこともあり、失敗作とされることが少なくない。しかし、これまで強調してきたように、実は素晴らしく面白い。21世紀のアニメにかんしてDVDやらBlu-rayやらの売り上げが作品の出来不出来の基準としてあまり役に立たないのと同様に、70年代特撮における視聴率もまた、作品の良し悪しを語るさいには役に立たないのだ。ところで、70年代特撮で私が素晴らしいと思う作品は、そのほとんどすべてが視聴率的には失敗したうえに、そのうちのかなりの割合が路線変更をして後半がグダグダになっている。しかし、『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』にかんしては、全話をとおして伊上勝のシリーズ構成が貫徹していて、路線変更による迷走は生じてはいない。このあたりは、作品にとって幸運だったと言えるかもしれない。

 あえて本作の欠点を挙げるならば、とくに終盤、物語のスケールに映像がついていけなくなってしまっている、というところであろうか。皇帝宮殿にたいする決死の潜入爆破工作とか、惑星破壊による超大量虐殺計画とか、それに対抗しての惑星住民全体の脱出作戦とか、怒涛の展開が連続するのであるが、予算と技術の問題だろうか、エキストラの人数も特撮シーンも盛りが足りていない状態で、映像そのものはどうにもあっさりとしたもので終わってしまっている。物語の出来がいいだけに、このあたり、非常にもどかしい。それこそネタ元の『スター・ウォーズ』のように、「特別篇」と題して現代のCG技術をふんだんに盛り込んだ修正をほどこしたものを見たいなあ、という思いが湧いてくるほどである。そのためならば、貯金を全額払っても私は惜しくはない。

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