ツンデレ分類仮説

はじめに

 ツンデレの分類は手垢のつきまくったテーマであり、今更感満載なのであるが、言葉が定着しきった現段階だからこそ、あらためて考えうることもあるはずだ。最初に断っておけば、正直なところ、私は「ツンデレ」という言葉にそれほどの思い入れはない。この言葉が登場した当初から、多義的にすぎていまいち使いにくいなあ、という印象であった。そういった言葉を自分で納得して使えるように鍛え直すことをやってみたいのである。

 さて、ツンデレにかんしては、これまでもさまざまな分類が提唱されてきたが、いささか体系性に欠けるきらいがあったように思う。みなさん、わりと自分の好きなキャラクターに引きずられてしまうのだよね。そこで、ここでは、いったんキャラをすべて忘れて、とにかく論理一本槍でやってみることにした。方法論としては、ツンデレを「ツン」部分に着目することによって分類することにしたい。初期条件による分類法、というやつである。

第一部 ツンデレの分類

ツンの条件

 ツンデレのツンとはなにかを確認しておく。基本的に、ツンデレのツンには「デレを阻害する」という含みがなければならない。ツンがあるからデレることができない、となっていなければツンデレではないのだ。たとえば、ただの強気キャラやサディストキャラをツンデレと混同してはならない。強気キャラは、強気にデレることができる。サディストキャラは、サディスティックにデレることができる。つまり、強気さやサディズムは、デレを阻害しないのである。それゆえ、たんなる強気キャラやサドキャラをツンデレと呼ぶことには、私は反対する。ここをまず確認したうえで、分類作業に移りたい。

ツンの八類型

 私は、ツンデレを八つの下位類型へとグループ分けすることを提唱する。その八つとは、テレ屋ツン、不器用ツン、甘えん坊ツン、わがままツン、ぎくしゃくツン、孤立ツン、いじめツン、高慢ツンである。では、これらはどのように分類されるのか。分類の軸は以下のようなものである。

メイン軸その一:発動の方向

 ツン的な態度が誰に向けて発動されるのか、ということである。デレるべき相手にたいしてのみツンである場合を「一方向型ツン」と名付けたい。それとは異なり、誰にたいしてもツンである場合を「全方位型ツン」と呼ぶことにする。傾向からすると、物語的には、一方向型ツンはスキルート、全方位型ツンはナカヨシルートと相性がいいような印象がある。

 一方向型ツンに属するのは、テレ屋ツン、甘ったれツン、ぎくしゃくツン、いじめツンの四つである。

 全方位型ツンに属するのは、不器用ツン、わがままツン、孤立ツン、高慢ツンの四つである。

メイン軸その二:発動の原因

 なぜツン的な態度が採られることになるか、ということである。この原因は、大きく二つに区分しうる。まず、性格のせいで否応なしにツンしてしまう場合、これを性格的ツンとする。そして、本人が意識的にツンな振る舞いを選びとっている場合を、意識的ツンと呼びたい。性格的ツンはdifficult to cureで完全に抜けることはないが、意識的ツンのツンは物語のラストでは多かれ少なかれ解消されている場合が多い。

 性格的ツンに属するのは、テレ屋ツン、不器用ツン、甘ったれツン、わがままツンの四つである。

 意識的ツンに属するのは、ぎくしゃくツン、孤立ツン、いじめツン、高慢ツンの四つである。

サブ軸

 さて、性格的ツンと意識的ツンは、さらに以下のようにそれぞれを二つに区分することが可能である。

サブ軸その一:性格類型

 性格的ツンであるが、これは二つの違った場合を含む。屈折した性格なのでツンしてしまう場合と、幼稚な性格なのでツンしてしまう場合とである。前者を屈折ツン、後者を幼稚ツンと呼びたい。

 屈折ツンに属するのは、テレ屋ツン、不器用ツンの二つである。

 幼稚ツンに属するのは、甘ったれツン、わがままツンの二つである。

サブ軸その二:相手にたいする扱い

 意識的ツンのツンの出方は、これまた二つに区分しうる。ツンする相手を敵視する場合と、物扱いする場合である。前者は敵視ツン、後者は物扱いツンである。

 敵視ツンに属するのは、ぎくしゃくツン、孤立ツンの二つである。

 物扱いツンに属するのは、いじめツン、高慢ツンの二つである。

第二部 各種ツンデレ解題

テレ屋ツン(一方向型・性格的・屈折ツン)

 王道である。好きな人にたいして素直になれず、どうしてもツンツンしてしまう。攻略法は、ツンな振る舞いの裏にあるデレ部分をこちらが認知してあげること、となる。あとはそれを丁寧に表に引き出していけばよい。

甘ったれツン(一方向型・性格的・幼稚ツン)

 このタイプは、こちらを舐めていて、多少の逸脱した振る舞いは許してくれるだろう、と好き放題してくる。内弁慶の中学生が母親にたいして採る態度がまさにこれである。「勝手に部屋を掃除するなよ、プライバシーって言葉知らないのかよ」ってやつだ。妹属性ときわめて相性がいい。攻略法は、なんらかの窮地を救ってやったりして、これまでの舐めた態度を改めさせる、というあたりから入るのが定石である。

ぎくしゃくツン(一方向型・意識的・敵視ツン)

 属性というよりは物語類型である。基本的に、なんらかの障害があってツンな振る舞いが選択されている。攻略法は、その障害を取り除くこと、これに尽きる。障害のタイプによって、さまざまな下位区分があるのは言うまでもないだろう。被ツン者のことを誤解して、などというのが典型である。

いじめツン(一方向型・意識的・物扱いツン)

 被ツン者を意図的に攻撃しているタイプである。被ツン者はそもそも人間扱いされていない。ドマゾでそれでいい、というのでなければ、攻略するためには、どこかできっちりと逆襲して立場を逆転させるか、少なくとも同位に立つ必要があるだろう。凌辱系エロマンガの王道展開だと、無理矢理押し倒して身体に直接こう、ね、まあ、あれだ、あとは察してほしい。

不器用ツン(全方位型・性格的・屈折ツン)

 人間関係が全般的に苦手なタイプであり、ツンしているというよりも、他者にツンしていると誤解されやすい、と言ったほうが正確かもしれない。このツンはさらに多種多様に分岐する。強気方向に不器用だったり陰気方向に不器用だったり堅物方向に不器用だったりヤンキー方向に不器用だったりと、さまざまな下位区分があるのだ。攻略法は、理解者になってあげること、これに尽きる。

わがままツン(全方位型・性格的・幼稚ツン)

 これまた人間関係が全般的に苦手なタイプである。甘やかされて育った一人っ子タイプ。どこか幼くて、本人がその駄目さに気づいていない、というのがミソである。攻略法は、駄目さを叱って導いてあげられるような保護者のポジションを占めることであろう。そこから囲いを破るのは容易い。

孤立ツン(全方位型・意識的・敵視ツン)

 ぎくしゃくツンは特定の相手にのみ敵意を抱くものであるが、こちらの敵意は全方位にたいして発動する。結果として、孤立することになるわけだ。これにはいくつかのタイプがある。なんらかの原因で人間不信やらなにやらになっているタイプの孤立ツンの攻略法は、ぎくしゃくツンと同じく、その原因そのものを取り除くこと、となるだろう。もうひとつ、イタい天才ちゃんに相性がいいタイプとして、周りの連中は皆馬鹿だ屑だと見下している、孤高ツンとでも言うようなものがある。こちらの攻略法であるが、結果的にその思いあがりを打ち砕く役目を果たすことが、堕としの最終条件となるであろう。

高慢ツン(全方位型・意識的・物扱いツン)

 周囲の一般人を自分とは別世界の下層民だと思っているタイプ。お姫様、お嬢様的勘違いキャラである。その周囲には、そのツンを当然のこととしてかしずく取り巻きがいるはずだ。攻略法は、こちらはたんなる取り巻きとは違う存在なのだ、ということを示すことから始まる。

おわりに

 各々のツン類型のそれぞれについて、念頭に置いているキャラがないわけではないが、あえて出さないでおく。いくつかのツンにかんしては、読者諸賢がすぐにピンときたキャラが、たぶんそうだ。

 最後にいくつか指摘をしておきたい。

 一点め。一人のキャラが、複数のツンを兼ね備えている場合がある。そして、そういったツンの組には相性があるように思われる。基本的に、構成要素を共有するツンは共存しやすいだろう。たとえば、不器用ツンはテレ屋ツンを併発する場合が多いのではないか。

 二点め。ここには挙げなかった要素の組み合わせで、奇妙なツンが出てくることがある。たとえば、馬鹿な女性誌などで「ツンデレポーズでカレのハートをゲット!」的な記事が組まれる場合には、意識的・テレ屋ツンが出現したりする。性格的ツンを意識的に行う場合は、総じて、本来のツンというよりは、ツンを擬態しているだけ、と理解すべきであろう。逆に、意識的ツンのはずの要素が性格に組み込まれている場合は、ちょっと怖いことになる。性格的・敵視ツンキャラがいるとすれば、それは被害妄想患者にしかなりえないだろう。性格的・物扱いツンキャラは、伝奇アクションに登場するサイコ系の敵になってしまう。つまり、もはやツンがツンなどという生易しいものではなくなってしまうのである。

 とりあえずはここまで。この八類型に分類できないツンデレがあるのかどうかは、今後の課題としたい。

ページ上部へ