ブラック将軍の来歴をたずねて

 ゲルショッカー大幹部ブラック将軍には、ショッカーの大幹部たちに比べると、いろいろと謎が多い。ちょっと腰を据えて考察してみたい。
 注意しておくと、以下はすべて私の妄念であり、公式設定とはなんの関係もない。お酒が飲める人はちょっと酔いがまわったくらいの状態で読んで、笑い飛ばして忘れていただければそれでいい、くらいのものである。

 ブラック将軍についてわかっていることは少ない。
 元ロシア帝国の将校である。
 来日までは、ショッカー首領が組織した悪の秘密結社ゲルダム団の運営の中核を担っていたと思われる。具体的には、アフリカの砂漠でのゲルダム団の訓練を指揮していたようだ。
 地獄大使の敗北により、ショッカー日本支部が壊滅する。それとともにショッカーそのものもほぼ崩壊するわけだ。ここでショッカーとゲルダム団の統合が行われ、新組織ゲルショッカーが成立する。
 それと同時にブラック将軍、ゲルショッカー大幹部に就任する。おもに日本で作戦活動に従事する。
 しかし、皆さんもよく知っているように、最後には仮面ライダーらに敗北、死亡する。彼の死とともにゲルショッカーも壊滅したのである。
 手がかりはこれだけだが、推理していく。

 ブラック将軍はいつ改造人間になったのだろうか。
 ロシア革命が1917年。そのころに彼はすでに将軍だった。かなりの経歴を積んだ軍人だったのだ。ゲルショッカー大幹部としての来日が1972年。単純計算で55年が経過している。100歳を超えていてもおかしくないはずだ。ゾル大佐の父親くらいの世代なのである。
 しかし、彼の風貌は壮年のものである。とくに若返りの手術をしたということでなければ、改造手術を受けた時点で外見の老化が止まったと考えることができる。
 そうすると、ロシア革命によって祖国を追われて、そこからそう遠くない時期にショッカー首領と接触、改造人間となったということになる。ショッカーの母体はドイツ第三帝国にあったと言われている。改造手術はそこで行われたはずだ。執刀者は不明。ここは死神博士のショッカーへの加入時期の問題とも絡むので、ちょっと難しい。
 ブラック将軍が初期ショッカーを経由せずにゲルダム団にかかわった、ということはありそうにない。改造手術の技術はショッカーのもので、ゲルダム団のものではないから。ブラック将軍は、ショッカー黎明期からの、いや、ショッカー創設にすらかかわっていたはずの古参の幹部と考えるべきだ。そこからゲルダム団に出向したのだろう。

 しかし、ここで問題が起きる。以上のように考えてしまうと、ブラック将軍の改造時期はかなり早まることになる。そのころにゲルショッカータイプの改造手術の技術が確立していたのかどうかは疑問である。そこで私はブラック将軍二重改造説を採用したい。
 ブラック将軍はショッカーがまだナチス・ドイツの深部の暗闇にじっと潜んでいたころに、黎明期のショッカー式改造手術を受けた。そこで彼の老化は停止した。そして、ゲルショッカーの成立にさいして、ブラック将軍は二度目の改造手術を受けたのである。そこで彼はヒルカメレオンとなった。これなら筋が通る。

 では、ヒルカメレオン以前のブラック将軍の正体はなんだったのだろうか。
 再改造後も元のモチーフは残っていると考えるのならば、カメレオン男かヒル男であった可能性が高いことになる。ところが、両方のモチーフがともにショッカーに在籍する既存の怪人のなかに見つかってしまう。死神カメレオンとヒルゲリラである。かぶってしまうのだ。ショッカーが怪人の素体となる動物をあまり重ならせないようにしていたことを鑑みると、カメレオン男、ヒル男、どちらにしても都合が悪い。
 そうなると、どちらでもない、と考えざるをえない。
 とすると、動物を組み込んだ改造人間手術は、ブラック将軍が改造手術を受けたときには確立していなかった、と考えたほうがいいのかもしれない。
 動物モチーフの改造人間手術は、第二次世界大戦以後に、緑川博士と死神博士という二大天才が中心となって確立された、としたらどうか。とすると、ブラック将軍が最初に受けた改造手術は、最初期のもっと素朴なもの、ショッカー戦闘員が受けていた程度のものだったのかもしれない。

 名前が出たのでついでに言うと、死神博士にもロシアの血が流れていると聞く。そのあたりが二人の人間関係にどういう影響を及ぼしていたのかとか、なんか考えてしまうなあ。

 ブラック将軍は年齢からしてショッカーの創設にかかわりえた幹部ではないか、と述べておいた。そういえば、彼は来日前はアフリカにてゲルダム団の結成と訓練に従事していたのであった。どうやらブラック将軍はショッカー首領から、組織創設のプロフェッショナルとみなされていたふしがある。
 ここで問題になるのは、ショッカー創設とゲルダム団の創設の他にはどのようなことをやっていたのか、ということだ。

 手がかりは、「ブラック将軍」という名前である。「将軍」は日本語なのに「ブラック」がそのまま残っているということは、「ブラック」は原語のままと考えるべきであろう。「ブラック」。つまり英語なのだ。これは本名ではなく、英語文化圏の誰かにつけられた異名が通り名になったものであると思われる。それも、彼が死ぬまで名乗った通り名であるからして、かなりの由緒があるはずだ。つまり、味方か敵かに英語文化圏の組織がある状況で、大活躍した過去があるはずなのだ。
 ところがこれがよくわからない。彼のかかわった土地は、記録のかぎりでは、出身地ロシア、ショッカーの結成地ドイツ、ゲルダム団の結成地アフリカ、最後の戦場の日本ということになる。彼のかかわったアフリカの地域は、アフリカのコンゴ川領域とか、サハラとか、基本的にフランス領だったところである。つまり、「チョールヌィ将軍」「シュヴァルツ将軍」「ノワール将軍」(アフリカの当地の言語もありか)ならわかるのだが、「ブラック将軍」とはこれいかに。

 そうなのだ。ショッカー創設からゲルダム団創設のあいだに、ブラック将軍は英語文化圏での大規模な作戦に従事していて、そこで彼は「ブラック将軍」と呼ばれるようになった、とでも考えないと、どうも辻褄が合わないのである。これまではロシア帝国から逃亡してすぐにアフリカに渡ったとされてきたようなのだが、私はこの定説にあえて異説を唱えたいのだ。

 さて、ショッカー、ゲルショッカーの支配圏には偏りがある。大幹部とか有力な怪人とかが来日したのは、中近東、スイス、南米、東南アジア、アフリカなどということになる。抜けているのが気になるのは、北米、ロシア、中国、地中海といったところであろうか。
 このあたりの悪の組織が前面に出てくるのは、実はGODになってからである。東西の大国が手を結んだ、ということで、アメリカ合衆国とソヴィエト連邦が暗示されている。そして、初期GOD怪人の多くが地中海ギリシャ由来のものであるわけでさ。ちょうど抜けていたあたりが活動しだすのだ。
 ショッカー、ゲルショッカー、デストロンが壊滅して、そのあたりであまり活躍しなかったおかげで大きな損害を受けずに残った組織を呪博士が再編成したのがGODであると考えると、なんとなく筋が通るかな。
 話が流れてしまった。ブラック将軍の活動場所であるが、そういうわけで、アメリカ合衆国やイギリス本国ということは考えにくい。ショッカーの大規模な作戦行動の痕跡があまりないからだ。となると、やはり中近東、エジプトあたりが濃厚になってくる。
 中近東のショッカー支部はかなり強力だ。アバラバラバライバラバラだ。そのうえ、あの辺はイギリスの植民地だったから、英語文化圏でもある。もしかしたら、ここの支部の地盤づくりをやったのは、ブラック将軍だったのではないか。これは、組織創設のプロとしてのブラック将軍、という仮説とも合致する。そして、それを引き継いだのがバカラシン・イイノデビッチ・ゾルだったのではないか。
 ついでに言っておくと、ゾル大佐のいささか変質狂的な規律へのこだわりは、ナチス時代の名残りというだけでなく、中近東支部の責任者時代に生まれた、あまりにも偉大な前任者への過度な意識をも反映したものだった、とか考えると、楽しくなってくるな。

 ああ、なんだか見えてきた。ブラック将軍は、ゲルダム団の仕事にとりかかる以前に、ショッカー中近東支部の創設にかなり決定的にかかわったのではないか。そこで、多くの罪のない人々を殺害しまくったのではないか。時はたぶんイギリス間接支配の只中である。恐怖に慄く彼ら彼女らのあいだで、死と破壊を振りまく悪の組織の大幹部が語られるときは、きっと英語が使われたはずである。
 そう、そしてそこで、彼に「ブラック」の名がついたのではないか。
 では、なぜ「ブラック」か。
 彼自身は軍服であり、とりたてて黒衣というわけではない。とすると、「ブラック」は、当時彼が率いていたショッカーの戦闘員が黒戦闘員であって、その黒衣からついたのかもしれない。黒衣の凶悪なテロ集団を率いる謎の将軍ということで、ジェネラル「ブラック」。
 国を追われ、人としての生を捨てた果てに辿りついた中近東の地で、暴虐のかぎりをつくす。その血塗られた日々の只中で誰ともなしに囁かれるようになった「ブラック」という名を、自分の通り名として死ぬまで名乗った。
 どんなもんだろうか。

 ブラック将軍が来るよ、ブラック将軍が来るよ。黒覆面の殺人鬼どもを引き連れて、ブラック将軍が来るよ。あいつが来ると、みんな死ぬよ。黒い将軍が、来るよ。

 オチはとくになし。
 ベロベロに酔ってこのネタ喋っているときにずっと聞き手になってくれた後輩のY君、ありがとうございました。

 追記。平山亨プロデューサーによる「ブラック」は本名との発言があるようだ、との情報を掲示板で頂いた。ありがとうございました。ただし、私はまだ出典を確認できていない。ともあれ、もともとろくに設定などなかったはずの昭和ライダーであるが、平山発言は準公式設定として尊重せざるをえないだろう。ここで私のとりうる態度はいくつかあるが、ここはひとつ踏ん張って、公式設定が間違っている、という説を主張したい。ゲルショッカー諜報部の流した偽情報に平山Pが騙されてしまったのではないか。

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