称号としての仮面ライダー

0 はじめに

 近年、仮面ライダーの偽者をよく見かけるようになった。
 私の知っているライダーたちは、自らの名を上げることには何の関心ももっていなかった。だから、「仮面ライダー」を騙る者がいても、苦笑して許してしまうだろう。自分たちの名誉が汚されているというのに。彼らは、そういう男たちだった。
 しかし、だ。だからといって、君たちは許せるのか。本郷が、一文字が名乗ったあの名を弄ぶ輩を。
 私は不愉快だ。
 今こそ、真の仮面ライダーとは何かを語っておかねばならない。

1 シリーズとしての仮面ライダー

 とまあ、原理主義めいたことも言いたくなる。カレーを注文して、ラーメンが出てきたら、いくらそのラーメンがおいしくても釈然としないものが残るだろう。(そのうえ、たいていそういうラーメンはクソマズイ。)それと同じだ。二十一世紀に入って新しいものをつくるんだ、という、どこまで本気かわからない台詞をよく聞くが、だからといって、全然別のモノを伝統ある名前で出してくるのは、端的に詐欺である。
 新しい「仮面ライダー」が、新しいにもかかわらず、仮面ライダーであるためには、少なくとも守らねばならないことがある。そして、その最低条件が、最近ではまったく無視されてしまっているのである。

2 仮面ライダー称号説

 言いたいことはいくつもあるが、本稿で述べる条件は、ただ一つ。
 「仮面ライダー」とは称号である。
 称号とは、認められた者のみが名乗ることができるものだ。
 人類の平和と正義のために戦う戦士として認められた者だけが、「仮面ライダー」を名乗ることを許される。

 いかに能力をもっていたとしても、正義の戦士として認められない者は、仮面ライダーではない。本郷や一文字と全く同タイプの改造人間であったとしても、ショッカーライダーはただの怪人バッタ男、偽ライダーでしかないのは、この理由による。悪い仮面ライダーがショッカーライダーなのではない。悪い仮面ライダー、という概念は矛盾している。ショッカーライダーは、どこまでいっても偽モノの仮面ライダーでしかないのだ。

 逆に言えば、改造人間としてのタイプが全く異なっても、平和と正義の戦士の隊列に加わることを許された者は、「仮面ライダー」の名で呼ばれることになる。Xライダーやアマゾンを考えてみればわかるだろう。初代の一号とは全く別タイプの改造人間であっても、彼らは本郷の正義の魂を受け継いでいる。だから、仮面ライダーと認められ、その名で呼ばれるのだ。
 繰り返そう。平和と正義の戦士としての魂を受け継ぐと認められた者、ただその者だけが、「仮面ライダー」を名乗ることを許される。変身能力やらをもっているからといって、どこぞのチンピラ風情が名乗ってよいものではないのだ。

3 仮面ライダーV3第五十一話

 「仮面ライダー」を称号として考えると、名シーンが、また新たな印象で浮き上がってくる。「仮面ライダー」の名は果てしなく重い。
 その重さがもっとも感じられるシーンは、やはり、V3の第五十一話か。大空に散るライダーマンに向けてV3が叫ぶ、「俺は君に仮面ライダー四号の名を贈るぞ」という言葉を思い出そう。東京を守るため、自らの命をも省みずプルトン爆弾を破壊したライダーマン。そして、そんな彼に、最大の尊敬と感謝をこめてV3が送るのが、「仮面ライダー」という称号なのだ。
 ここまで、ここまで重いのである。

4 仮面ライダーSpirits

 村枝賢一は、さすがというか、この辺の事情を完全に抑えている。『仮面ライダーSpirits』第一巻で、本郷が滝和也に言う、あの台詞。「今夜はお前と俺でダブルライダーだからな」。これを思い出してほしい。
 たとえ一夜限りの戦いであっても、「お前も仮面ライダーだ」と認められること、それも、誰あろう、仮面ライダー一号、本郷猛に認められるということ、これがいかに名誉なことか、もはや言うまでもない。以降のSpiritsの物語は滝を一つの軸に展開していくが、その展開を支えているのは、他ならぬこの一言なのである。このたった一言が、物語を滝和也が中心となって織り上げていくことを説得力あるかたちで正当化しているのだ。

5 仮面ライダークウガ

 平成モノでは、クウガに一定の評価をしたい。改造人間でないこと含め、気になる点はいくつかあるのだが。
 周知のように、クウガは劇中で一度も「仮面ライダー」と呼ばれることはなかったわけだ。実は、ここが非常に重要なのだ。
 私はこれを、「この五代雄介という男を、ブラウン管の前の皆さんは、仮面ライダー、という名で呼んでもいいと思いますか、どうですか」という、制作スタッフからのメッセージとして受け取った。クウガは、「仮面ライダー」という称号の審級を視聴者の側に委ねたのだ。これには、やられた。
 そして、最終回まで見て、私は思った。
 五代雄介、クウガ、お前は、まさしく仮面ライダーだ、と。

6 おわりに

 最近の自称仮面ライダーたちを見ていると、怒りをとおりこして哀しくなる。
 「仮面ライダー」の称号は、地に堕ちた。
 オトナの事情がいろいろあるのは重々承知している。しかし、「仮面ライダー」の称号に値しない者を、仮面ライダーとして出してくるのは、やはり納得がいかない。自分のオリジナルに自信があるなら、新しい名前でやればいいではないか。
 「仮面ライダー」とは称号である。誰もがおいそれと使っていい名ではないのである。

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