イヌマキ  Podocarpus macrophyllus

イヌマキ(泉南市信達岡中:2004.11.7)

イヌマキ (泉南市信達岡中:2004.11.7)

マキ科* マキ属 【*APGⅢ:マキ科】

Podocarpus:podo(足、柄) + carpus(…の果実をつける植物)   macrophyllus:大きな葉

イヌマキは雌雄異株の裸子植物で、ふつう「マキ」という名前で庭木や生け垣によく用いられています。マキ属の樹木は暖温帯から熱帯の山地にかけておよそ100種が分布するといわれ、日本にはイヌマキとナギがあります。また、イヌマキの変種でもっと葉の形の小さいラカンマキ(P. macrophyllus var. maki) があり、これは中国から来たとされています。

ナギの天然分布域は、現在必ずしも明確でないのに対し、イヌマキは本州の関東以西の海岸に近い山地や、四国、九州、沖縄にかけて分布し、台湾、中国にまで分布域を広げています。材は緻密で耐水性に優れ、シロアリに強くて耐朽性があるため、沖縄では建築材として重用されると記されています。私が大学を卒業した年に、まだ米国に占領されていた沖縄県・西表島の学術調査に参加した時の聞き取りでは、戦争中に島内のイヌマキはほとんど切り出されてしまったということでした。

イヌマキが庭木として用いられるのは成長が遅く、一度形をつくるとそれが長く維持されるからだと思います。そのせいか、身近でそれほど大きなイヌマキを見る機会はありません。しかし、私が百樹会を始めて1年半ほどした1986年12月に、地元のSさんの案内で岡中鎮守社(泉南市信達岡中:しんだちおかなか)の府の天然記念物に指定されていクスノキを見に行ったとき、すぐそばに大きなイヌマキがあるのに気がつきました。岡中のクスノキは掛け値なしにすばらしいものでしたが、このイヌマキもクスノキに負けず劣らずの天然記念物級だと強く印象づけられました。

岡中鎮守社のイヌマキ樹幹その後、府の天然記念物を担当する人にこの木のことを伝える機会があり、その人や大学の同じ研究室の人たちと一緒に大きさを測りにいったりしましたが、平成2年(1990)に、無事、府の天然記念物に指定されました。手元にあったそのときの測定データは何度か引っ越しする内になくなりましたが、先日再訪して測ったところ、胸高幹廻りが254cm(胸高直径80cm)(右写真 2004.11.7.)、樹高が約17mありました。幹の上の方はクスノキとの競合でそれほど太くありませんが、左右に広がる大きな枝には勢いがあって、老木という印象は全くありません。

イヌマキのイヌは本物のマキに比較して劣るという意味でつけられたものですが、本物のマキが何者かについては、これはスギで、昔はスギをマキといったとか、コウヤマキが本来のマキだとか、いくつか説があるようです。

樹上で発根したイヌマキの種子(奈良公園 2004.11.3 また属名(Podocarpus)の「podo」は足という意味で、これは、たとえば牧野の植物図鑑のように種子の付け根(花托の部分)が肥大する特徴からつけられたとされています。この花托の部分は秋には赤く熟し、甘みがあって食べられるのですが、この花托の形は「足」というイメージからかなり遠く、私には釈然としませんでした。むしろ、樹上で発根を始めた種子の根の方が「足」というイメージにぴったりで、これこそ「足つきの実をつける木:podo + carpus」という名のいわれではないかとひそかに思っています(写真:樹上で根を出したイヌマキの種子(奈良公園 2004.11.3))