The Art of the Overhead Festival 2009




<The Art of the Overhead Festival 2009>で、奥山順市のパフォーマンス作品が上演された。 ・・・・・・記:奥山順市
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
In "The Art of the Overhead Festival 2009", a performance work of Jun'ichi Okuyama was presented.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(左は地図右下の中央駅からのルート。中央は会場前のバス停。右はツイストタワー。)

2009年5月22日から5月30日まで、スウェーデンのマルメで The Art of the Overhead Festival 2009 が開催された。
マルメはスウェーデン第3の都市と呼ばれており、芸術に造詣の深い街としても有名な所だそうだ。近年コペンハーゲンとの間に橋が完成し、観光客も急増しているらしい。古城とツイストタワーが有名な観光スポットだ。このタワーは会場近くに建っている。上演会場は、マルメ中央駅から徒歩15分程の所に位置し、バスでも3つ目の停留所Kockums(コッカムス)の目の前にある廃工場を利用した場所だ。巨大駐車場の端に建ち、通称コンクリートビルディングと呼ばれている。


(左は上演会場。中央は受付。右は22日のパフォーマンスのメニュー。)

スウェーデン、デンマーク、アメリカ、フランス、イギリス、オランダ、ドイツ、ギリシャ、日本等から、様々なキャリアやアプローチが賑やかな実に個性的な顔ぶれが揃う。
ライブパフォーマンス及び、ワークショップで生み出された成果を含む作品は、どれもこれも妙に眩しい。
オーバーヘッド・プロジェクター(OHP)作品は、機器本体の光源をまず意識する所から始まるからだ。


(写真は左からLinda,Kristoffer & 奥山)

主催者のKristoffer Gansing & Linda Hiffling さんは、会期中にオーバーヘッド・プロジェクターの歴史 "OH-istory! A Genealogy of The Art of the Overhead" を英語でレクチャーしたが、外国語が苦手な僕は、あまり理解出来なかったのが残念至極。

初日の22日、招待された僕のライブパフォーマンス作品4本が、スウェーデンで初のお披露目となった。

<以下の英文は、事務局に送った上演作品の解説>

<Comments>

"Human Flicker" (1975-2009) 5min
Okuyama becomes the shutter of cine-projector.
The picture begins to move.
This work's theme is the structure of the movie.
The first performance was held in the Yasuda Seimei Hall in 1975.
This time is OHP version.

"Broken Movie Projector" (2006-2009) 8min
Broken 8mm cine-projector don't move.
However,the amplifier can only be used.
I play the sound by using the light of the mini fan.
The first performance was held in the Miraikan in 2006.
This time,it is a collaboration work with the OHP.

"Free Hands"(2009) 10min
This work is Okuyama'hand and a moving toy hand do the collaboration.
This OHP presentation is the first performance.

"Being Painted"(1970-2009) 15min
I do the paint directly to the running film while projecting at the movie theater.
The moving image is a record of the live performance done in 1980.
The first performance was held in the Sogetsu Hall in 1970.
This time,it is a collaboration work of the OHP and the 16mm movie.


"Free Hands"は、このフェスティバルの為の新作で、OHPならではの構成になっている。

他の作品は、16ミリ及び8ミリ作品として作られたものを、今回OHPとのコラボ作品として纏めた。

"Being Painted"で使用する16ミリ映写機は、デンマーク、コペンハーゲンのインディーズ映画の上映組織から調達してもらったEIKI製を使用した。

"Broken Movie Projector"で使用する8ミリ映写機は、加工したものを使用するのでハンドキャリーで持参した。
本体の金属部分のカバーをプラスチックに付け替えたり、金属ドラムやスピーカーを外したり等、かなり軽量化に努めたがそれでも重かった。
成田ではスムースに機内に持ち込めたが、帰りはコペンハーゲン空港でしっかり中身を調べられ、スウェーデン珍味スール・ストローミングという魚の缶詰共々「何だこれらは!」と問い詰められたのだ。
しかし両方ともまったく問題にはならず、無事機内に持ち込むことが出来た「ホッ!」。 疲れていたので重さも倍増の巻、なり。

僕のOHPキャリアは浅く、 2006年に日本未来館で開催された exonemo せんぼうさん主催の「ドークボットTΩKYΩ in 日本科学未来館 〜俺様・非科学・刹那編〜」
で初めて使用した程度だ。このフェスティバルもこれが縁で招待されたのである。つまり今回が2回目。だからワクワク度も高く、気持ちも若返ったようだ。

OHPは、アナログのテイストがプンプンしており、今の時代には逆に新鮮だ。
作家の思いがダイレクトに伝わるメディアのようで、操る作家たちの動きがまるで人形を操る黒子のように見える。
スクリーンに現れたイメージがどのようにして生み出されるか、というプロセスも同時に楽しめるのが最大の魅力ではないか。

それと、生原稿や現物を直接投影できるので、走査線や粒子が無くローテクだが高解像な所が良い。
フォーカスも自由に調整でき、奥行きのある表現が可能となる。


会場では、オランダ、ロッテルダム在住のアーチストHiko Uemuraさんと出会う。
彼女は、今回のフェスティバルに出展する作品が間に合わず、時間があるからと僕のパフォーマンスを手伝ってくれる事になった。
言葉が通じる手が足りずに困っていた所だったので、大助かりである。
まず、僕が着ている"Human Flicker"のお目目ユニフォームをお揃いで作る事になった。これはHikoのグッドアイデア。
僕が紙に、開いた目と閉じた目をマジックで描き、それをHikoが切り抜き、自分のTシャツの表と裏にセロテープで貼るという簡単なものだが、これで強力なチームOkuyamaが結成された。
パフォーマンス作品の合間に僕は自作の唄をサービスしたのだが、その際Hikoは唄に合わせて、立体で作った両目と平面に作った顔の切り絵を重ねて自在に動かし、大いに盛り上げてくれた。


"Human Flicker"「ヒューマン・フリッカー/映画誕生」(1975-2009) 5分
2台のOHPプロジェクターを使い、特製ウチワで光源を開閉しシャッター行為を行う作品である。今回はOHP作品なので動画ではなく、写真の目がスクリーン上でウインクするのだ。
この作品にはユニホームがある。今回のものは、初公開時に使用したオリジナルTシャツを撮影した古い写真から、SAMPLESSさんが僕の個展の時に復刻版で限定制作した逸品である。もう1枚買おうと思ったらあっと言う間に売切れだった。
OHPのミラーをウチワでバタバタとはたいて画像を消す処理は、OHPならではの、とても良い終わり方であったと僕は思っているが、主催者サイドにとってはミラーが叩かれた事が結構ショックだったようだ。


"Broken Movie Projector"「動けなくなった8ミリ映画」(2006-2009) 8分
僕が8ミリ映写機を担ぎながら音を出す担当。Hikoは、僕が映写機から手で送りだした8ミリ・フィルムをOHP上で動かす担当。さすったり揺すったりしながら小気味良く音に合わせて暴れまわった。なかなか筋の良いパートナーで、とても良く息が合った。誰もが俄かコンビとは思わず、それを知ったお客さんは一様にビックリしていた。


"Free Hands"「フリー・ハンズ」(2009) 10分
OHPの為に作った新作である。まず、普通回転する事のないDVDのケースが時計回りに回っている。ゆっくり止まると、タイトルの文字が読める。どの角度で読むかはその時々の回り方次第。

2つのイチゴのへたをギヤーに見立て、透明な細い棒で回転させ2つが咬むように時計回りで回す。次にペットボトル登場! 時計回りでアピールするが、次々とOHPのステージに現れては音を立てて周囲に飛び散ってゆく。

次は、丸い透明ケースに入ったボールを左手で時計回りに回す。速く遅く速く遅く。そこへオモチャのスケスケ右手が登場し、丸い透明ケースに入ったボールを右手で反時計回りに回す。遅く速く遅く速く。

OHPプロジェクター本体もケースの回転に合わせて、時計回り或いは反時計回りに回り始める。360度の壁面がスクリーンとなった会場はグルグルグルグル光を直射。お客さんをも照らし出す。左右の別な手がコントロールする丸いケースは、それぞれが主張し回転しながら激突を続ける。さて勝者はどっち・・・・・・・・
ここでもHikoは、巧みな電源ケーブルさばきでスムースなOHPの回転をサポートしてくれた。


"Being Painted"「わっか」(1970-2009) 15分
リアルタイムでスヌケの透明フィルムにペイントする実験映画である。従来の"Being Painted"は、ペイントしている結果のイメージしかスクリーン上に投影できなかった。数秒前でも過去形に変わりはない。
今回のOHPプロジェクターと16ミリ映写機とのマルチスクリーン作品では、結果の画像に加え、ペイントするプロセスも同時に表示する事ができるので、作品上の死角が消えたともいえる。良し悪しは別にして、こういう表現もありなんだと、しみじみ新鮮な気持ちになった。

以上の4作品は、22日のオープニングに上演され大好評。そのため、30日のクロージングにも"Human Flicker"が追加で再演となった。


入場料金は1日60SEK(スウェーデン・クローネ)、フリーパス100SEK。5月20の日本での交換レートでは、1SEK=\14.87だった。初日の客数は40人程度だろうか、最終日も同じ位だった。バーカウンターではビールやコーヒーの他、軽食も提供していた。最終日は、休憩時間の音楽(ちなみにフレンチポップス)に合わせて踊っている人達もいた。
パフォーマンスの出品作家達は、様々な動きの表現を工夫しており、例えば影絵のテクニックやノウハウに由来するMilk Milk Lemonade(ドイツ)は特に印象的だった。ゲームのキャラクターチックな白熊くん、シンボリックな街や自然の風景処理、エレベーターのアップダウン、何故か突然CPUをイメージした画面にLOADINGの文字が現れ、カラーフィルターの手送りでささやかな待ち時間が始まったり、奇想天外だ。
スピーディーでユーモラスな展開、3人のチームはそれぞれ音担当、キャラクターの動作担当、背景等の展開担当と明快な役割分担が実に小気味良かった。
リーダーはニュージーランド出身ベルリン在住のやや小太りのとても早口でお喋りな男性で、人形劇からも随分勉強していると語っていた。

Ohpia(日本)とは以前、西麻布のSuperDeluxeのライブパフォーマンスで顔をあわせた事があった。Mickey Guitar(日本)の心地良いギターサウンドに合わせてリアルタイム画像をシンセサイザー処理したビデオイメージとOHPのコズミックなイメージとを巧みにさばき、まるでスクラッチミュージックのようなカッチョ良い世界を構築していた。彼は終わった後、お客に機器や道具類を自由に触らせ、皆を熱中させていたが、誰もあのすべるような滑らかな技は再現できなかった。

若い男女2人Loud Objects(アメリカ)のパフォーマンスは、自作ソフトが入ったICチップを、その場でハンダ接合し、その音を聞くというとても楽しいものだった。ハンダの煙と溶けるアクリル板、接合部が剥がれ再び接合するが違う場所につながる等、バタバタのリアル感が鮮度良好であった。

Katrin Bethge & fur diesen abend(ドイツ)は、バルブの壊れたシャワーからしたたる水滴を、OHPプロジェクターが直接受け、50人用の洗面所の壁面と天井に投影するという展示作品の前で、作者は次々と蛇口をひねって水を出し、再び止めて終わるというシンプルで感動的なパフォーマンスを行った。間の取り方、水圧の強弱が耳にも心地良い、繊細な女性のデリケートなものだった。

Kunst & Musik mit dem Tageslichtprojektor(デンマーク)、サウンドアーチストDerek Holzer(アメリカ)は、顕微鏡を覗く人等の古いビデオ映像、OHPが投影する部品やケーブル等、抽象的なイメージ、その場で調合される音のバイブレーション等々が不協和音を奏で、ミスマッチのマルチ空間が観客を挑発する。必ずしも2人の呼吸がピッタリとは言えず、観客からも賛否が分かれたパフォーマンスであった。

170cm(フランス)は、1台のOHPプロジェクターの映像を次々と異なるミラーで送り、会場はミラーで埋め尽くされる。明快なメッセージが爽やかだ。

Mako Ishizuka(日本)のパフォーマンスは、途切れなく流れる軽快な音楽に乗せて、文字ビスケットを並べて英語のフレーズを書いたり、水や油を入れた容器を泡立てたり、色フィルターを差し替えたり、さらに容器にストローを入れて口でブクブクさせ、OHPのフォーカスを送りながらイメージを変化させるなど女性ならではの心地良い展開がスクリーンを彩った。

この他、OHPエリアの中に小さな四角いフレームを部屋の間取りのように置き、歌を歌いながら着せ替え人形のように扱う女性アーチスト。彼女の展示作品は、もっと魅力的だった。小さなアルミホイルを切り抜いて、ベッドで寝ている人々のチャーミングな表情をシルエットだけで饒舌に表現していた。

プロのイラストレーターは、絵本のような物語を、絶妙な切り絵で語る高度な技を見せたが、言葉がわからなかったのでイマイチという他ない。

ズボン姿の若い女性2人組は、体育会系のノリで身体の動きをOHP画像とのマッチングで見せるというものだが、イマイチ意味不明。

上演時間も大体20分から40分程度だったので、言葉がわからなくても退屈する事はなかった。

小さな別室で勝手にパフォーマンスをやっているグループが居たり、展示だけで参加しているアーチストも多く、お客さん参加型、文字の意味を盛り込んだ作品、モーターを組み込んで動きをつけた作品、揺らぐイメージの体感型作品、そしてスライド映写機とのカップリング作品等もあった。共通の傾向としてはいかに動かすかに、皆それぞれ工夫しているようだった。
変わった所では、OHPの光源で植物を展示期間中に発芽させるというもの。下に光源、上には下向きに種子を配置し、芽は下向きに根は上向きに伸びてゆくというシンプルでほほえましい作品だった。

出し物は実にバラエティーに富んでおり、他にも色々あったが今や記憶の彼方で擦れているだけ。詳しいカタログとかは無く、僕も特にメモを取らなかったので、今や、撮影した写真等も出演者との整合性があやうい。

OHPプロジェクターは、使い方によってはそれだけでも存在感が強烈だが、8ミリ映写機、16ミリ映写機、スライド映写機、ビデオプロジェクター、楽器や音のソース等をマルチに組み合わせて巧みに利用すると、結構有意義な作品を生み出す強力なツールになりそうだ。

しかし、日本ではあまり活発な利用を聞かない。宝の持ち腐れではないが、もっと色々なシチュエーションで有効に活用できる筈だ。僕もまたOHP作品を作ってみたい。

小規模でハートウォーミングなフェスティバルだった。来年は急なので無理としても、再来年あたりに日本でThe Art of the Overhead Festivalが開催されれば面白くなるのだが。


他のアーチスト達のパフォーマンス、展示作品等の写真








奥山順市のマイフレーム表紙

フィルモグラフィー