オケラのくりごと  食器洗浄機

 曾て古い店が何処でもそうであったように、オケラの店も四、五年前までは51cmの寸胴鍋で出し汁を取っていた。 寸胴鍋の内側に40リットル、60リットル、80リットルの印をつけ、60cm角の一口レンジにかけて水を汲み込み、昆布を入れて火をつける。 沸騰寸前に昆布を引き上げて沸騰を待ち、バラの削り節を入れて弱火にし、ネルで漉して80リットル入るポリバケツに溜め込む。 これをステンレス製60cm角の作業台を兼ねた覆いの下に格納し、大鍋を洗って出し汁取りが終る。ここまで何分掛かったのか覚えがないが、相当の時間を要した。 それが或る日、現在のティーバッグ方式になった。 その結果時間も浮いたが、一口レンジとポリバケツのスペース、60cm×60cm×2が浮いた。 オケラの店の如き小さな所ではこのスペースは貴重である。 食材の変化で冷凍庫のスペースが不足しており、夏場麺を冷やす冷水がなく、酒を燗するのに電子レンジも欲しいし、ゴミを捨てる設備も改善したい。 人数減で洗えぬ為食器を増やしたから、洗うまでの食器の置き場も必要と、オケラの頭の中で各要因の陣取りが始まった。或る年の晩春の夜中、M店のI氏が遊びに来て、製氷機を覆いの下に置けばいいのに、と曰うた。 この御託宣でH社の製氷機がポリバケツの分を占領することになった。 数年が経過して従業員はオケラとメケラだけ、昼の混雑が一段落すると山になった食器を洗う為に一時閉店することが多くなり、夜は夜で大繁盛の後始末で残業が常態、メケラは手の荒れに加えて腰痛に悩まされるようになった。 昨年夏担当SVに、試しにY社の食器洗浄機を入れて見ないか、と言われた。 それまでにもオケラにはその気があったのだが、メケラは自分で洗う方が早いと言って譲らず、その都度流れてきた経緯がある。 確かにそれまでのH社製を初めとする機械は、既に入れている所には申し訳ないが、オケラの目から見ても今一で、高い金を払ってまで、という躊躇があった。 今回のは新型で性能が違うし、お披露目中で価格も勉強する、との言葉に引かれて入れることになったのだが、これに連れてシンクやゴミ捨て場も改造された。11月、開発したての機械がやってきて働き始めた。 場所不足で通り抜け型は入れられなかったけれど、結果は大成功。 ゴミを捨ててシンクに浸し、殆ど中腰にならずにラックに詰め込むと、コップも丼も皿も皆、一分程でピカピカになる。 メケラの腰痛は軽快し、手はきれいになってダイヤの指輪が出来ると言い出す始末。 イイトモいいとも、あと五十年もすれば金剛石婚式になるから、その時にでもネ。 それまでもうチョットの間、元気で待ってて頂戴。
−−−−−−−−−−1994.02記

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