オケラのくりごと  夏の勝敗

今年の夏は暑かった。 これまでにも暑い夏は何度もあったと思うのだが、観測史上初めてなのだそうだから矢張り一番暑かったのだろう。 この数日涼しいお蔭で、こうして過去形で書けるのが嬉しい。 涼しさを喜ぶのは年の所為なのだろうか。 ここまでダウンしていないのだから、先ずは一勝に値する。七月中旬、小さなプランターに小松菜と春菊の種を蒔いて、店先の立て看板の横に置いておいたら、幼児に踏まれた。 蒔き直して暫く、又踏もうとしている現場をメケラが押さえて謝らせ、一勝。 小松菜は、大きくなるのを待ちながら比較的大きいのを間引いて味見を一回。 その後青虫との競争になり、完敗。 皆食われてしまった。 実年のオケラには敵が見えず、実眼鏡の助けを借りて捜しまくり40匹ほど見つけたが、それでも何匹かの紋白蝶が飛び立っていった。 春菊は暑さで乾いて枯死寸前になったが、手当の甲斐あって僅かに持ち直し、昨日良さそうなところを、少しだが摘んで味噌ベースで味噌汁にし、冷麦にかけて食べたら固いけれど旨かった。 引分。 熟年男性一人暮らしのお客様がいて、この方、少々どころか大分耳が遠い。 『今甲府に行ってきた』“電車が混んで大変だったでしょう”『一人でこの格好で』“リュックサックがいいですね”『足が痛くて靴が履けないから』“どうしたんです?”『孫がお祖父ちゃんと歩くの嫌だって言うんだ』“アレまァ”『家に寄らずに真っ直ぐ来たんだ、ハハハハハ』と言った調子。 何時もシャケご飯では飽きが来るだろうし栄養的にも片寄るのではないか、と別なものを奨めてみるが、こんがらかって結局又シャケご飯を作る。 あちら様も何が何だか判らないことだろう。 こんな会話?を少しでも聞こえるようにと怒鳴るようにしてするものだから、事情を知らない他のお客様は呆気にとられている。 席も営業時間も何もかも一方通行で、オケラ達は言いなり放題、丸でシンドバッドの海の老人みたい。 このお客様には何十連敗もしているのだが、大きく纏めて一敗。 混みそうな時に一人でテーブルに座りたがり、怒って帰る人約三名。 これは場外引分。 今年もお盆中は定休日返上で営業して一勝。 昨年との営業成績比較では、夏休みを七月から九月にずらしたので、夏だけで言えば辛うじて今年の勝利。 カラカラ天気の中、増えた鈴虫を近くの緑地公園の湿り気のある所を選んで放したら、その夕方から突然大雨。 鈴虫は大敗、オケラもつられて一敗。 こうしてこの夏四勝三敗二分。 率にして五割七分。 巨人には敵わないが、イチローの打率は超えた。 オケラ達にしては上出来、上出来。
−−−−−−−−−−1994.08記

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