オケラのくりごと  慰安旅行

 五月と言えば、『風薫る』『青葉若葉の』と言う類の形容詞が通り相場だが、実際には何といっても人間に作られたゴールデンウイークの連休がメインイベントだろう。 サラリーマン時代、三月や四月に五月を考えるとき、最初に位置するGWが余りに巨大すぎて、この計画や過ごし方の思案で、これが過ぎるまで五月六日以降の予定は考えられなかった。 これはうどん屋になっても同じで、GW中の従業員や材料繰りで一杯で、この最中は勿論この以前にも、この後のことは何も考えられない。 だからGW後の数日は何の前触れもなく突然やってくる感じで、例年空白だった。 この現象を憶えている知恵者がオケラのブロックにいて、昨年秋にGW後の旅行を計画した。 時季はずれの女性版五人囃子を中心に、その世話役として、何とも素直にアッケラカンと愛情表現する愛妻家の幹事、旅行屋の血を引く副幹事、その他大勢の取り巻きと引き立て役が参加。 中には遠くの友や近くのOB、隣町の姐御、今だにサラリーマンをやっている妙な取り合わせの三人組なんてのもいて、哲学風に言えば、意味は判らないけど、これぞ不統一の統一。 どうせやることは何処に行っても同じなのだから、目的地は隣の銭湯、湯上がりにその隣のカラオケスナックで一杯飲んでもいいのだけれど、やはり慰安旅行ともなれば時間的・空間的に旅行かなければ慰安にはなるまいとの幹事の深い配慮で、隣の県の温泉街に出かけた。 副幹事の血を引く旅行屋が選んだ旅館はチョウ豪華。 プールを別にしても自室のを含めると風呂が九つあるとかで、風呂好きのオケラは身の振り方に難儀した。 プールと言えば、水着を持参した一名の他、殆どの者が諦めたのに、衆人環視の中、糸偏無しで泳いじゃったとさ、あの人は。 さて愈々手持ちの芸者で宴会開始。 歌い続ける者、司会し続ける者、御輿の掛け声を掛け続ける者、女性のお友達作りに励む者、等々、兎に角皆元気な中で、前夜からの寝不足や日中の飲み過ぎで、ぐったりしている約二名が宙に浮いている。 恒例のゴマスリ唄、信じられない大音声での“フレー、フレー○○”に続き、皆で品よく三三七拍子、二次会に移った。 “寝る”の後、“風呂、飯、金”と順調に進み、大型免許所有の二名が運転する、黒雲なびくバスで再び出発進行。 途中で名物のうどんを様々に批評しながら食べたが、嫌だね、同業者は。 交通渋滞もいざこざもなく、心配したのはこの次何時何処でオシッコ出来るかというだけの、『風薫る』『青葉若葉の』五月を実感する、陽気で気楽なあなたまかせの旅であった。 何と言ってもいいもんだね、同業者は‥‥。

−−−−−−−−−−1993.05記


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