オケラのくりごと


ハトヤ

  編集部にもそれなりの事情があった事とは思うが、8月号の本稿 を見て紙面の汚さと間違いの多さにうんざりした。 以前にも同様のことがあり、オケラがあんないい加減な原稿を渡したのかと思われるのが心外で、今回は適切な処置がとられぬ限り今後一切投稿しないと、つむじ曲がりの腰曲がりがへそを曲げた。 この結果、9月号の再掲載となったわけだが、こうなってしまうと逆に何か投稿しないと義理が悪くなってくる。 それに何時までスネていてもアメ玉一つくれるような相手じゃない事も判ってるし‥‥。   さて、

  学校の夏休み中は夏休みを取らないことにしているオケラが、自分達の夏休みを如何しようかと考えていた6月下旬の朝刊に、静岡県伊東市長の地震終息宣言と共に、伊東温泉旅館組合の謝恩大サービスの広告が掲載された。
  7月29、30日の二日間、通常二万円以上の宿泊料を一万円にした上、当日開催する花火大会では、結局は貰えず教えられて後日郵便局で買うはめになったのだが、鈴虫まで呉れるという。 店の鈴虫が死にはじめて心細くなってきた折でもあり、夏休み中ではあるけれど早速申し込むことにした。
  四十数軒の中から自分で選んで電話するわけだが、伊東に不案内のオケラに馴染みの宿などある筈もなく、結局テレビCMで名高いハトヤホテルに‘デンワハヨイフロ’とダイヤルした。 このCM、何処まで流されているのか知らないが、大きな生きてピチピチ跳ねるブリ?を必死に抱える女の子の所作が可愛く、大の男が枕を抱えてピチピチ動かす宴会芸にまでなった。 もう満員です、と言われるかもしれないと心配だったが、応対に出た予約係は二泊しても良いという。 それなら当然そうさせて貰うことにして、定休日との関係で前に沼津の民宿を組み合わせ、メケラと二人アルトを連れて、三泊四日の旅にした。

  7月28日、気を揉ませた長梅雨が前日に明けて、どうにかこうにか曲がりなりにも多少は日が照りそうな余り素直じゃない空模様の中、日本平目指して出発した。 日本平では良いことはなかったが、強風の美保の松原では何とか富士山が見えて、ちったァ来た甲斐があったような気がした。 伊豆半島の左肩辺りに泊まって次の日、西から東へ反時計回りに半周して伊東ハトヤホテルに着いたが、その時オケラ達は彼の有名なハトヤ大ホテルに一万円で泊めて戴くのだからと、サービスなど何も期待していなかった。 それがなんと、帰ってきた次の日に以下の如き御礼状をハトヤホテル会長 原口せつ様宛に出すことになろうとは。

  “前略 この度の催しに際し、伊東に不案内な私達はテレビの広告を頼りに貴館にお願い致しましたが、正直なところ貴館が大きいのと料金の安さから余りサービスは期待しておりませんでした。 ところがところが、規模の大きさや全体にゆったりしたスペースとは裏腹に、受けてみてそのサービスの肌目の細かさに驚かされました。 離鳩亭での個室の食事、夕食の中の一品としてお好み料理を選ぶシステムとその提供の早さ、花火と鈴虫についての質問に対する真摯な対応、そこでビールの銘柄を選びましたら即座に部屋の冷蔵庫の中のビールの銘柄まで変更されていました。 レストランシアターでも、部屋係のグループが、うるさくない程度につきっきりでサービスしてくれ、ショウや食事の内容と共に満足させられました。 お風呂で貴女様丹精の月下美人に気づき、伺いましたらその説明の懇切丁寧なこと、お名前をお聞きしても、風呂係ですとて中々名乗らぬ奥ゆかしさ、そして最後に無理を承知で月下美人の苗を無心しましたら、貴女様のお許しが戴けたと、早速部屋までお届けくださいました。フロントの皆さんもきびきびと親切ですし、すべてに喜びと驚きを感じ、顔の見えるサービスとはこういうことなのだろうと勉強致しました。 後略。”

  判り易いように原文に少し手を加えたが、兎に角驚いた。 通常のホテルや旅館では、観光ホテルも含めて、部屋係の顔を見るのは到着時のお茶を受け取る時のみで、チップを欲しそうに顔を出す。 若い頃はこの無言の圧力に耐え切れず金額を気にしながらチップを切ったりしたが、最近ではそんなことはしなくなった。 だからこのサービスはチップの所為ではない。 部屋係は三名一組のようで、10部屋程度、人数にして約30〜40名位を担当しているようである。この客達が朝晩てんでに食事をする。 例えばオケラは最初の夜はホテル内の料亭の個室を宛てがわれ、次の夜はレストランシアターの一角の席に着いた。この逆の客もいた筈である。 このような時普通は料亭では料亭係が、シアターではシアター係が面倒を見る。 所がこのホテルでは部屋係がついて廻る。だから最初にビールを指定すれば、次の夜場所が変わってもそのビールが出てくる。 どんな布陣をしているのか、オケラの逆の行動をした客にも同様のサービスをしたであろう事は、客の帰り際の部屋係への言葉を聞いても判る。 大所帯なのに一人一人の客の特徴を掴んで、それに合ったサービスをするのには頭が下がった。 それに何れがあやめかきつばたと言った美女揃い。オケラの回りの何れがホウボウカナガシラの類とは格が違う。 これには到底敵わぬが、メケラにはこの手の才能が幾分あるようで、このお客様はネギ多目でショウガ無し、あの方は昨年事故にあって今でも療養中と、割によく覚えていて個別に対応しようとしている。 この点オケラは丸で駄目。 さぁ皆さん、こちらも総客数何名ではなく、お客様一人一人の顔に応じたサービスに努めましょう。なァんてね、この文章、身の程もわきまえずにNさんの巻頭言みたいな教訓調になっちゃった。 影響って恐ろしいね。 アァ、ヤダヤダ。

−−−−−−−−−−1993.09記

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