オケラのくりごと  劇場

  オケラだってたまには劇場に行くし、これからは出来ればその頻度を増やしたいと夢見ている。 曾ては時間的にも金銭的にも比較的余裕があったから何処にでも行けた筈だが、例えば歌舞伎は観たことがなかったし、大相撲は一回だけ、N響なんてのも、いつも行きたいと思うだけで結局は行ったことがなかった。 但、もう無くなってしまったが浅草の国際劇場は例外で、時には外人の接待で、また或る時はメケラを連れてと、機会があれば遠さをものともせずに出かけていった。 小浜奈々子やトニー谷がいた日劇MHは別として、日劇や新宿コマよりも、やはり広い舞台一杯に繰り広げるSKDのレビューがオケラの文化的レベルにぴったりで、特にラインダンスとその掛け声、屋台崩し、夏の水、フィナーレで良く使う何処までも上に続く階段が気に入って、観る度にワクワクした。 昔、SKDの小さなグループがモスクワに来たことがあって、その舞台で一本の立木が落雷で一転焼けた木になる、という屋台崩しとも言えないような屋台崩しをやった。 これがモスクワっ子に大受けで、オケラは仕掛けよりもその受け方に驚いた。 どうもロシアのオペラやバレーには屋台崩しや廻り舞台、せり上がり等がないらしい。 同じ伝統芸能でも歌舞伎にはこの手の仕掛けが多いから、日本人のほうが古来器用でメカに強いのかもしれない。 考えてみるとオケラは自分が思っている以上に仕掛けの類いを見るのが好きなようで、例えば、書き割りではない背景の森が上に上がって、代わりに街並みが降りて来、前景の樹木や茂みが左右にするすると引っ込んで、中央に大きな家がせり上がって来たりすると、劇の中身よりもその方に感激してしまう。 早変わりも大好きで、道成寺は勿論、群舞が主役ダンサーを囲む輪舞になり、それがほどけると主役の衣装が変わっているとか、盗賊が逃げて下手に隠れると直ぐ上手側から捕り方が飛び出してきてこれが同じ役者、なんてのにも本気で感心してしまう。 猿之助の舞台にはこんな仕掛けが多いらしいから一度観たいと思うのだが、いざとなると早変わりと共に宙乗りも、等と欲張るものだから中々機会が掴めない。 どんでん返しとは、広辞苑によれば、舞台の大道具を後方にひっくり返して次の大道具と取り替えること、なのだそうだが、アッと言いたいのに中々見られない。 現実では、私事に限らず政財界にスポーツと、誰が仕組むのか仕組まないのか、割にしょっちゅうドラマティックなどんでん返しを見せられてきたような気がするのだが、マ、こう言うことは夢の舞台だけに限ってもらった方が、お互い心の健康にいいかもネ。
−−−−−−−−−−1993.11記

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