オケラのくりごと  映画

  映画と言えばハリウッド、ハリウッドと言えば西部劇、西部劇と言えばジョンウェイン、ジョンウェインと言えば騎兵隊、騎兵隊と言えば黄色いリボン、そして‘あの娘の黄色いリボン‥‥’とつながる古びたオケラの頭には、三十年位前の種々な映画のシーンが何の脈絡もなく、題名や筋や役者の名前などと切り離されて雑多に詰まっている。 当時の娯楽は映画と相場が決まっていて、パチンコと共にオケラの生活の一部であり、夢でもあった。 渋谷・新宿の場末の映画館の三本建ての常連で何でも観たが、暇があったナァ、あの頃は。
 さてジョンウェイン。 西部劇の王様。 王様としては例えばジョンフォードやハワードホークス等、監督や製作者を挙げるのが筋なのかもしれないが、オケラにとってはやはりジョンウェインが王様である。 西部劇の俳優は別に彼だけではなく、アメリカの俳優の殆どは一度や二度は西部劇に出演しているが、彼は別格であった。 駅馬車はオケラの生まれて間もない頃の作品で、かなりたってからテレビで観たような気がするが、彼の全盛期の作品は、金がなくてロードショーでは観られなかったので、名画座位に来るのを待って殆ど観た。 もう一人はアランラッド。 シェーン以外では余り印象に残っていないのだが、彼はシェーン、しかもそのラストシーンだけで充分である。
 西部劇全盛期は、ミュージカルの全盛期でもあった。 結局ハリウッド映画の全盛期だったということなのだが、当時のミュージカルは楽しかった。 南太平洋とかブルーハワイ、錨を上げて、サウンドオブミュージック、等、その後のポギーとベス、ウェストサイド物語やコーラスライン等に比べると格段に明るく陽気で、オケラはミュージカルとはそういうものだと思っていた。 ミッチーゲイナーはまだ生きているかしら。 ミュージカルといってもフレッドアステアが出てくるとこれはもうダンス映画で、最高級の優雅さとタップダンスで楽しませてくれた。 ジーンケリーも上手いが、雨に唄えばは兎も角、パリのアメリカ人では後半一寸退屈した。 フレッドアステアとビングクロスビーがビスタビジョンで共演した映画があって、ホワイトクリスマスだと思っていたら違っていた。 楽しく素晴らしい映画だったという印象があるのだが。
 ラヴロマンスの代表は愛情物語か慕情。 エディデューチンに扮したタイロンパワーとその息子がピアノを連弾し、カメラが息子に寄っていって改めて引いてくるとタイロンパワーが消えている、というラストシーンは、カーメンキャバレロのピアノと共に忘れ難い。 慕情のポスターにウイリアムホールデンとジェニファージョーンズが立っている丘があり、オケラも香港に行った時捜したが判らなかった。 旅情、安っぽいけどめぐり逢いなんかも良かったね。
 ヒッチコック作品では知りすぎていた男、裏窓、北北西に針路をとれ、等、明るいのが好きだった。 それにしても裏窓のグレースケリーは奇麗だった。 その後レニエ大公と結婚してしまったが、オケラとレニエ大公の審美眼は同じ、唯向こうが賭場で稼いだ金でヨットを持っていただけの話。 尤も彼女だったら“Oh! Udon shop, I iya yo!”なんてうどん屋になることを拒否したかも知れないから、手頃なメケラで良かったけれど。
 漫画といえばウォルトディズニー。 今はアニメと呼び名が変わったが、一連の作品のレベルは確かにそれまでの漫画とは次元を異にしていた。 中でも101匹ワンちゃん大行進や、ファンタジア等は劇場でもう一回観たいものである。 それにしても、白雪姫が1937年、バンビが1942年、ファンタジアが1940年等、製作年代の古いのに驚かされる。 日本のアニメはまだ漫画なのに。 大型映画では何といってもベンハー。 古くは風と共に去りぬ、その後にはクレオパトラ等もあるが、ベンハーには敵わない。 当初65mmという新方式で封切られたが、その時はオケラの懐具合が観せてくれなかった。 然しこのベンハー、オケラの頭の中ではいつの間にかスパルタカスと一緒になって、チャールトンヘストンの代わりにカークダグラスが主役になってしまう。 他にピラミッドも、最後の仕掛けが素晴らしくて面白かった。
 ヨーロッパ映画も観なかった訳じゃないし、嫌いな訳じゃないが、禁じられた遊び、道、鉄道員や、太陽がいっぱいにしても、どうしてああ暗いんだろう。 話も暗ければ画面も暗く、出てくる役者は皆笑ったら損するような顔をしている。 ジャンポールベルモンドの楽しい泥棒映画があったが、題名を忘れた。
 日本映画もアメリカ映画と同じかそれ以上に見ており、印象に残った映画も多いのだが、総じて言えばやはり上質の笑いが不足しているような気がする。 それはそれとして野菊の如き君なりき、二十四の瞳、戦艦大和、ビルマの竪琴、等に感激していた当時のオケラは若かった。 悪名当時の勝新のオッチャンは颯爽としていたのに今やあの体たらく。 役の上と本人とは異なることは判っていても、オケラも同程度に変化したのかと思うと我ながらゾッとする。
 他にもバスストップのマリリンモンロー、五つの銅貨のダニーケイ、007のショーンコネリーと新兵器、トロイのヘレンのロッサノポデスタ、オーケストラの少女のディアナダービン、等本人は知らぬだろうが、東洋の片隅のオケラの頭にもこびりついているのだから、役者という商売も悪くないね。 でも、メケラに依れば、オケラは汗っかきでメイキャップが落ちるから役者にはなれないんですと。 そしてメケラは成れるんですと。 勝手にしやがれ。

−−−−−−−−−−1992.11記


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