オケラのくりごと  コンピューター

  オケラがコンピューターと称するものと付き合い始めてから、もうかれこれ十余年になる。 最初に手にしたのはシャープのポケットコンピューターの初期のもので、電卓の一階級上の程度のものであったが、それでも電卓とは根本的に異なり、曲がりなりにもBASICという言葉を持ち、オケラ専用の結構複雑な計算を非常に早くやってくれた。 やがてポケコンは PC1501 という機械に替えたが、これは小さいけれど優れものでずっと愛用している。 9年前購入したのが富士通の FM11 で、最近の32ビット指向から見ると幼稚な8ビットだが、それでもオケラの水準から見れば、とても使いこなせない程の能力を持っている。 古いけれど実力十分というのはオケラ(これは4ビット未満だが)の自称と同じで、今でも家のチビ即ちPC1501のアンちゃんとして、簡単には別れられない程オケラに頼られている。 オケラの店はPOS化されていないが、データはこのアンちゃんがここ数年分をディスクに貯め込んでいる。 方法は簡単で、チビに毎日の時間毎の売上累計、時間毎の客数、現金在高、仕入額、等を打ち込んでやると、チビは即座に消費税抜きの時間毎の売上額や客単価、月初からの夫々の累計や平均売上、平均客単価、物流からの仕入やその累計に至るまで、日報が必要とする数字を総べて打ち出すと共に、これを記憶している。 これを月末に、チビとアンちゃんを繋いで送り込んでやると、アンちゃんが一ヶ月分纏めてディスクに書き込み、それをオケラが仕舞込むというわけ。 チビが打ち出した数字はメケラが手書きで日報にする。 これが面倒なので何とかアンちゃんに書かせようとしているのだが、うどん屋とアンちゃんの世話が両立せず、結局アンちゃんは一頃のようには面倒を見て貰えず、この点に関しては何時までも成長できない儘になっている。 子供が馬鹿なのは親の責任、という典型例がここにもある訳だが、親としては忙しいとか、難しいとか、面倒臭いとか、教育費が足りないとか、来年夏までに完成すればいいとか、その気になれば直ぐに出来るとか、メケラが手伝わないとか(ア、これは関係ないか)、等々一切の弁解や言訳はしないことにしておく。
 アンちゃんのもう一つの大事な仕事はワープロの代理をすることである。 ご承知のようにパソコンというのは着せ替え人形のようなもので、ある程度の体格を持っていれば、後は服装即ちソフト次第で何にでも変身する。 アンちゃんも昔ワープロの服を買って貰って、本人はパートの心算かもしれないがしょっちゅうワープロに成らされる。 前回年賀状をワープロで打つように書いたが、実はアンちゃんがワープロの真似をしているわけ。 何と言っても真似だから本職より作業性や印刷効果は劣るが、まぁ似たような結果、即ち本文のようなものを作ることができる。 オケラの年賀状も、あれだけの字数を端書に手で書こうとしても到底無理だが、ワープロなら奇麗に、早く、読み易く、而も少しの手間で大量に打ち上げてくれる。 紋切り型から前回のものまで、幾つかの版を用意すれば、後は相手の人と版を適当に組み合わせて、宛名をメケラに書かせれば良い。
  然し、ワープロの本当の便利さは印刷にあるのではない。 勿論印刷を業者に頼まなくて済むのは大きな利点ではあるが、それよりも自由に推敲を重ねることが出来る方が大きい。 曾ては各社に数人づつの邦文タイピストがおり、手書きの原稿を邦文タイプで打っていた。 この場合、原稿を書く人と、それを提出用に書き直す人が別であるため、時間が掛かるとともに、一寸微妙な字配りをしたくても総べて統一された公文書型になってしまうきらいがあった。 ところが原稿を書く人がワープロを使用すれば事態は一変する。 先ず原稿を書こうとすれば、手ぶらでワープロの前に座りスヰッチを入れる。 紙や鉛筆は要らない。 書く順序は如何でも良い。 題名からでも、結論からでも自由である。 切れぎれの文章を思いつくままに書いてもよい。 適当なところで編集し、ゴロ合わせをする。 接続詞の使い方次第で演繹的にも帰納的にも出来る。 まずいところは削除し、足りないところは加筆する。 紙を使っての推敲ではないから、一旦消したものをイキにしたり、加筆したところに更に加筆したりして、最後には何が何だか判らなくなり、タイプで打ってからシマッタということも少なくなる。 前に作った文章を手直しして新しく使える。 ディスク一枚に何十枚分も保存できるから、整理も簡単である。 そして原稿が出来上がったらすぐ印刷も出来上がる。 行端の字余りなど、変なところがあれば逆に原稿の方を訂正してしまう。 一字一字捜しながらポツリ、ポツリとキーを叩くオケラにとってすら便利なのだから、慣れた人にはこたえられない優れた道具であろう。 おまけに表やグラフ、住所録や通信、POPや垂れ幕、ゲームまでこなす。 (これだけ紹介して褒めあげれば、例えばワープロ普及協会なんてのがあって、プレゼントして呉れるかも知れない。 ワープロ普及協会様、オケラはワープロを持っておらず、良いのを一台欲しいと思っています。 住所が判らなければ編集部に聞いて下さい。) こうして、Y新聞に依ればワープロの一般家庭への普及率は30%になった。 使い方は夫々で、年賀状は言うに及ばず、家庭新聞やら自分史(昔は自叙伝といったものだが)やら様々だという。 曾てマスコミの急膨脹に際し誰かさんが“一億総白痴”と言ったが、この調子では“一億三千万総文化人”になる日も遠くはない。 オケラ? もう成ってますよ、ホラ。 正真正銘の似而非(エセ)だけど。

−−−−−−−−−−1992.01記


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