第53回 第1部 講演1「食物アレルギーの診断と医学的対応」抄録

食物アレルギーの診断と医学的対応


              国立病院機構相模原病院小児科 小俣貴嗣
同臨床研究センターアレルギー疾患研究部  海老澤元宏


はじめに
乳児期、幼児期早期のアレルギー疾患といえばまず食物アレルギーとアトピー性皮膚炎
が大きな問題である。乳児期には両疾患は合併することが多いが、幼児期後期になると
食物アレルギーとアトピ―性皮膚炎は別々に考えて対応していかなければならない。

食物アレルギーの基本的事項
・食物アレルギーは「原因食物を摂取した後に、免疫学的機序を介して生体に不利益な
症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシーなど)が惹起される現象」をさす。
このため食中毒はもちろん、免疫機序を介さない食物不耐症(仮性アレルゲンに伴う不
耐症や乳糖不耐症など)は食物アレルギーと分けて理解する必要がある。
・食物アレルギーといっても様々な病型があり、「食物アレルギーの関与する乳児アトピ
ー性皮膚炎型」は乳児期に顔面から前胸部にはじまり慢性の経過を辿る。本症は食物
抗原IgE抗体が誘導され、経過中に誤食や負荷試験を通じて即時型を発症することも多
い。
・「即時型」は、乳児期から成人まで様々な原因食物によって引き起こされる。
本症はIgE依存型であり、乳児期発症例では耐性化(治っていくこと)していくが、成人発
症では定かではない。
・食物アレルギーの診療の基本は「正しい診断に基づいた、必要最小限の原因食物の
除去」である。また除去の程度は患者ごとに異なり、個別の診断や対応が必要である。
・不適切な診断や曖昧な診断は除去食物の拡大を助長する。湿疹などをキチンとコント
ロールした上で食物アレルギーの診断は負荷試験を基本として行う。
・"除去"は最小限にとどめ、できるだけ摂らせることを基本とし成長発育や栄養のバラ
ンスなどに注意する。

食物アレルギーの症状
・食物アレルギーの臨床病型により出現症状も異なる。
・「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎型」では、乳児期早期から顔面から
始まり前胸部に広がるそう痒の強い湿疹が特徴的である。まず、スキンケア、ステロイド
外用療法を指導しそれでも改善しない場合は食物アレルギーの関与を考える。
・「即時型」は蕁麻疹に代表される皮膚症状が90%程度の症例に認められる。以下呼吸
器症状(鼻汁、咳嗽、喘鳴、呼吸困難など)、粘膜症状(眼瞼浮腫、口唇浮腫、気道浮腫
など)、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、腹痛など)、全身症状(ショック症状(活動性の低
下、ぐったり、意識消失など))の順に多い。

アナフィラキシー
・アナフィラキシー症状とは、アレルギー反応が原因で複数の臓器症状を呈する場合に
いう。症状の重症度は軽症から重症まである。例えば食物が原因で散在性の蕁麻疹と
咳嗽が出現したら軽症のアナフィラキシー症状と考え症状の進行に注意し、血圧低下、
意識レベルの低下等を認めれば、アナフィラキシーショックと判断し迅速な対応が必要で
ある。症状の進行は速く、分単位で進展していく。このため発症早期の発見と対処が重
要である。
・アナフィラキシーの治療は、ショックおよびその前段階の状態の場合には、出来るだけ
迅速にアドレナリン0.01ml/kg(最大0.3ml)を筋肉注射するべきである。アナフィラキシー
ショックに陥った場合には、発症30分以内のアドレナリン投与が予後を左右する。アナフ
ィラキシー症状におけるアドレナリンの筋注のタイミングは呼吸困難・喘鳴などの呼吸器
症状の出現が1つの目安である。


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