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関西医科大学滝井病院小児科部長・教授: 谷内昇一郎
食物アレルギーの発症機序(経皮感作の可能性): 2008年のアメリカ小児科学会の声
明1)では妊娠中や、授乳中の母親の食物除去はアトピー性皮膚炎を予防する可能性 は残るがそれ以上の効果はない。また固形食は生後4-6ヶ月以前に開始されるべきで はないが、それ以上遅らせてもアトピー性疾患の発症を予防する根拠はないと報告して いる。卵、ピーナッツ、魚にしても同様である。またピーナッツアレルギーで興味ある報 告がある。内容はイスラエルに居住するユダヤ人小児のピーナッツアレルギーの頻度は 0.17%であるのに対し、イギリスに居住するユダヤ人小児では1.85%で有意に高い。生 後9ヶ月までにピーナッツを与える頻度はイスラエルで69%、イギリスで10%である。さら にピーナッツ摂取に関する中央値の比較では、摂取タンパク量はイスラエルで7.1g/月、 イギリスで0g/月であった。これらのことは乳児期に積極的に経口摂取することがピー ナッツアレルギーを予防していること示すものである。以上のことを総合すると今までアト ピー性皮膚炎がある、食物アレルギー関与しているだろう、血液検査で食物抗原が陽 性、陽性食品の除去、アトピー性皮膚炎が改善という考え方が本当に正しいのかという ことである。逆にアトピー性皮膚炎があり、そこに母乳あるいは環境中の食物アレルゲ ンが炎症をおこした皮膚面から体内に侵入し、特異的IgE抗体が産生され、食物アレル ギーを引き起こすことが十分に考えられる。食物アレルギーは経腸管感作より、経皮感 作と考えた方が今までの事実を明快に説明できる。またこれらの考え方は今まで食物ア レルギーは除去のみといった考え方からむしろ積極的に食べて治すといって考え方に大 きく変わらなければいけないことを示している。
耐性獲得の時期:乳幼児にみられる食物アレルギーは加齢に伴い、自然寛解(食物摂
取可能)すると一般的に言われる。実際最近の大規模な成績では鶏卵アレルギーは、4 歳までに4%、6歳までに12%、10歳までに37%、16歳までに68% に自然寛解すると報 告している。また自然寛解しない群と自然寛解する群での2歳までの卵特異的IgEを比 較してみると自然寛解しない群でする群と比較して明らかに高値を認め、さらに卵白特 異的IgE値の最大値が2歳まで一度でも50kU/L以上超えた者は90%以上のものは16歳 までに寛解に対しないとされる。喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレ ルギー疾患を合併していると有意に寛解に達するのが遅いと報告している。このように 卵白特異的IgEが乳幼児期に高く、他のアレルギー疾患を合併している場合は自然寛解 する頻度は決して高くなく、予防や早期の除去の介入が必要である。また牛乳アレルギ ーでも卵アレルギーと同様の結果が報告されている。
食物経口負荷試験:血液特異的IgEが高くてもアレルゲンを摂取できるということが報告
されており、かならずしも血液検査(特異的IgE)が本当に摂取できるかどうか判定できな い。そのために実際に摂取すればいいが、やはり今までに食べたことがない患者、ある いはいままでに摂取して症状が誘発された患者に自宅で摂取してもらうのはあまりにも 危険である。そこで厳重な管理体制で食物経口負荷が必要である。原則30分毎に倍量 負荷増量するという方法をとる。最終負荷量はこどもが通常摂取できる量を最終量とす る。食物アレルギー負荷食品は卵白の場合はゆで卵か卵焼き、牛乳の場合は牛乳かヨ ーグルト、大豆の場合は豆腐か豆乳、小麦の場合はうどんを原則として食べてもらう。い ずれもこどもが摂取可能でないと検査は施行困難であり、甘みを加え、工夫が必要であ る。筆者らの施設ではこの2年間に241例の食物経口負荷試験を施行した。卵白、牛 乳、小麦、大豆の陽性率はそれぞれ69%、80.5%、53%、45%であった。すべての食品 に関してRAST値との一致率は高くなく、RAST100(スコアー6)でも摂取可能な症例を認 めた。
食物特異的経口耐性誘導療法(経口減感作療法):アトピー性皮膚炎や気管支喘息合
併例に食物アレルギーが遷延する例(いつまでも食べられない)が多く見受けられる。完 全除去を続けているのにもかかわらず、アレルギー検査が上昇し続け、いつまで経って も卵や牛乳、小麦などが食べられない患者がたくさん見受けられる。その人たちの家庭 環境、学校や幼稚園等ではゴミやほこりに食物アレルゲンの混入がありそれらが炎症 のある皮膚や気道に侵入し、IgEが上昇すると考えられる。以上の観点から いつまで経 っても食物アレルギーが治癒しない場合はまずアトピー性皮膚炎や喘息の治療を十分 におこない、状態を良くして積極的に食物特異的経口耐性誘導療法(経口減感作療法) を施行することを勧める。食物経口免疫耐性誘導療法には緩徐法と急速法がある。 緩徐特異的経口耐性誘導法とは負荷試験で閾値(症状が出現する量)を決定し、その1 /4-1/2量を外来で負荷、その後は週2-3回自宅で同量を負荷し、1-2か月毎に外来で1. 5-2倍に増量し、年齢にもよるが卵焼き1/2個、牛乳100ml、うどん100gを目標とします。
急速特異的経口耐性誘導法とは負荷試験での閾値量の1/10から開始し、1.2倍ずつ1
日3-4回増量します。これを連日実施し、アレルギー症状の出現をもって終了します。自 宅で週2-3回或は連日、その量の負荷を継続します。1-2ヵ月後に再度負荷試験(外来 および入院)の上で増量し、緩徐法と同様に卵焼き1/2個、牛乳100ml、うどん100g摂取 することを目標とします。
筆者らの施設での緩徐法での成績は卵では対象の82例中39例で規定の摂取量を平均
6ヶ月で終了できた。部分緩解(卵で1/4個:10g)は25名で、中止したのは18名であっ た。また小麦では対象の31例中14例は平均7ヶ月で終了できた。部分緩解(うどん20g) は9名で、中止となったのは7名であった。牛乳に関しては緩徐法では殆ど目標に達せ ず、34名中にわずかに2名のみ100ml摂取できた。緩徐方法は安全で施行でき、成功率 も高いですが、時間がかかることまた重症(閾値が低い)では増量が難しい。また食物の 種類によっても成功率が異なる。卵、小麦、牛乳の順番で成功率が下がる。一方急速法 は牛乳アレルギー患者(8名)や卵(5名)・小麦(3名)の重症アレルギー患者に施行し、 牛乳では施行17.5か月で平均133ml、卵では施行4.4か月で平均17.6g(約1/2個)、小麦 4か月で平均113g摂取可能となっている。急速法は極めて重症患者には有効だが、入 院、自宅負荷でアナフィラキシーをおこすことがありより安全に行なえるかが今後の課題 である。
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