1998年北海道流氷旅行記・3日目

3月11日


 朝,旅館で目覚める.今日も快晴だ.朝食の準備ができたので食べる.ご主人によると,昨日あれほどたくさんあった流氷は,もう沖の方へ流されてしまったということだった.本当に昨日見られてラッキーだった.会計を済ませ,紋別バスターミナルへ移動する.
 本日乗るバスは「流氷ロードバス」と呼ばれるもので,流氷シーズンのパック旅行用の観光バスであるが,一般の旅行者にも乗せてくれるものである.それほど乗客はいなかったが,ちゃんとバスガイドのおねーちゃんまでいてる.乗り込むとまず車掌を兼ねたバスガイドから網走までの切符を購入する.切符といっても紙にメモ書きしただけのものである.紋別から網走まで2700円もするが,距離もかなりあるので仕方がない.発車してしばらくすると海岸線に出るが,やはり流氷はなかった.遥かかなた沖に流氷が確認でき,青空と深青のオホーツク海の境目に白い流氷がある.バスは昨日に引き続いて,名寄本線の線路跡沿いに走行する.観光バスなので快適であり,またバスガイドがいろいろと沿線の説明をしてくれるので勉強になる.オホーツク紋別空港の脇を通り過ぎ,湧別の町で一旦右折し内陸の方に進路を変える.すぐの中湧別で左折し再び海岸線と平行に進路を取る.この交差点を直進していれば名寄本線の終点遠軽に着く.中湧別と網走の間はかつて湧網線というオホーツク海や能取湖など景色のきれいな国鉄線があったが,バスはその湧網線沿いに終点網走まで走行する.上湧別はチューリップで有名な町と紹介され,富山平野のものをしのぐとも言われているそうだ.しばらく走行すると日本で3番目に大きい湖であるサロマ湖が姿を現した.湖は凍っていて一見して湖とは判断できないが,氷上をスノーモービルで楽しむ人の姿が見られた.サロマ湖は大きく南端の栄浦にある「サロマ湖緑館」というホテルに到着するまでかなりの時間を要した.ここで休憩が行われた.緑館を出発するとサロマ湖ともお別れで,しばらくすると常呂という町に着く.この町は長野オリンピックで有名になったカーリングが盛んな町である.ここで再びオホーツク海と対面,一面流氷で覆い尽くされていた.オホーツク海との対面もつかの間,今度は能取湖沿いに走行する.湧網線の線路跡とすぐにわかるサイクリングロードが能取湖沿いに設けられていた.能取湖と別れるといよいよ網走である.網走刑務所の前を通り過ぎ,網走駅前に到着した.
 網走駅に到着するとK島氏は名物のニポポ人形の形をした公衆電話でメールのダウンロードを始めた.まずコインロッカーに荷物を預けた.駅の観光案内所に行き,流氷船の予約を行うことにした.博物館網走監獄にも行きたいと話すと,うまくまわれるようバスのダイヤを教えてくれた.流氷船の予約も行ってくれ,紋別と違い網走ではまだ流氷がたっぷりあるとのことだった.またこれだけ移動にバスを利用すれば,バスの1日乗車券を買えばちょうど元が取れ,運賃の支払いの面倒くささがなくなるのでおすすめだと言われたので,900円の網走バス1日乗車券も購入した.
網走刑務所
▲網走刑務所
 網走駅から約10分で博物館網走監獄に到着した.私は,網走バス1日乗車券による割引と学割のダブル割引を効かせることができ,入場料はかなり安くなった.しかしK島氏は学生証を持ってこなかったので学割を効かせることはできなかった.学割のワイド周遊券を使っているのに学生証を持ってこないとは何を考えているのだろうか.帰りのバスの時間を気にしながらも,一通り見てまわった.受刑者の生活の様子が非常に良く分かり,大変勉強になった.受刑者の食事は,元旦のみおせち料理が供されるというのには笑ってしまった.特に受刑者の収容所である「放射状五翼平屋舎房」は見事に復元されており見応えがあったが,冬は冷え込み辛かったのではないかと推測された.
 次にバスで本物の網走刑務所へ.網走刑務所前でバスを降りる.やはりここまでこれば本物の刑務所の方も見ておかなくてはいけない.記念写真を撮ってから,急いで網走駅へ向かう.刑務所から駅までは約1.5kmあり,流氷船乗り場行きのバスまでのあまり時間がなかったので,かなり早歩きをする.歩道には氷がありかなり手こずったがなんとか間に合った.
流氷と知床連山
▲流氷と知床連山
 流氷船乗り場行きバスに乗って約10分で終点オーロラ号乗り場に到着した.紋別ではそれほど人はいなかったが,ここではどこから現れたのか,観光客だらけである.大型の観光バスが何十台と止まっている.まず予約券を乗船券に引き換える.それから昼食も食べていないのでお腹が空いてきており,「いもかぼちゃ団子」というのを購入した.食べようとしたら乗船が始まったので,乗り込みながら食べる.流氷船は満席で出港した.団体客が多数組に個人旅行者も多数いる,なかには昨日紋別で見かけた人もいた.この日は天気が良くしかも暖かかったので,船の外にいても紋別ほど寒くは感じなかった.ここの流氷も見事であった.特に知床の山々がはっきりと望むことができ,満足であった.流氷船は厚さ約1mの氷を次々に打ち砕いて進んでいった.紋別の砕氷船とは違いかなり大型の船なので,大きな氷にぶつかっても乗り上げるような感触はなかった.また紋別の船はドリルで流氷を砕いて進んでいたが,ここの船は砕いているのではなくただ大型船が割り進んでいるという感じだった.なおこのおーろら号は夏は知床ウトロ港から出航する知床巡りに使用されている観光船であるので,流氷用に作られたものではない.約1時間のクルージングは素晴らしかったが,あまりの人の多さで写真をじっくり撮る余裕はなかった.流氷を見るのであれば紋別が一番であると感じた.
 クルーズが終わり土産物を購入し,帰りのバスに乗る.再び網走駅に戻って来,ロッカーから荷物を取り出す.所持残金が少なくなってきたので列車発車までのわずかの時間に郵便局に寄り貯金を下ろす.釧網線の普通列車に乗る.周遊券を持っているのに使うのは昨日の名寄駅下車以来久しぶりである.釧網線網走〜斜里間はオホーツク海の車窓が美しいことで有名だ.かつては北海道に多数の国鉄線がありオホーツク海沿いの路線は多数あったが,現在はこの区間のみである.網走を発車するとすぐに流氷原のオホーツク海が現れた.昨日,今日と流氷はたっぷりと見たので,もうそれほど感動しなくなったが,素晴らしいものに変わりない.北浜駅に到着,ここはオホーツク海に一番近い駅として有名だ.線路のすぐ横にオホーツク海の流氷がある.流氷の上に乗って溺れかけたという事件が頻発したためか,「流氷の上には危険ですから乗らないでください」という注意書きがいっぱいある.
知床の夕日と流氷
▲知床の夕日と流氷
 網走から約45分で斜里駅に到着,駅前から発車するウトロ温泉行きのバスに乗り換える.駅についてびっくりしたが4月から斜里駅の駅名が「知床斜里」駅に改称するという.バスの車内で発車を待っていると,バスの営業所で乗車券を売っているようだったので,いったん降りて購入した.バスは斜里駅を発車してしばらくすると斜里の市街地を抜け,いかにも北海道らしい風景の中を走る.「○○宅前」(○○には人の名字が入る)という北海道らしい停留所名も多数あった.しばらくするとバスはオホーツク海沿いの道を走るようになり,流氷とまたまた対面した.ちょうどその時夕日が沈もうとしており夕日と流氷の組み合わせが素晴らしい光景を作り出している.夕日は徐々に地平線に近づいてゆき,見ているだけで全く飽きさせない.夕日に見とれていて,名所である進行方向右側にあるオシンコシンの滝を見過ごしてしまった.私は中学生の時の夏にもウトロへ来ており,その時ホテルの風呂から見た夕日が忘れられないくらい素晴らしかったのを覚えている.知床は日本一夕日のきれいところなのだろうか.そうこうしているうちに太陽は完全に沈んでしまい,斜里駅から約1時間でウトロ温泉に到着した.バスから降りると,マイクロバスが停まっており,各宿泊先まで送ってくれると言うので乗せてもらった.山の方へ登ってゆき,本日の宿泊先「夕日のあたる家」に到着した.この宿は以前は知床YHとして使用されていたところだがユースホステル協会と解約し,普通の宿となった.部屋は普通の旅館とほぼ同じ設備と豪華であるが他の宿泊客と相部屋になるという.それでも1泊2食付き5500円税別はかなりお得である.この日は他に男性の宿泊客がいなかったので定員4人程度の部屋をK島氏と2人きりで使うことができた.
ウトロのオーロラ
▲ウトロのオーロラ
 夕食はとびきりすごいものが出たわけではないが,かなりおいしかった.夕食後は,冬のウトロ名物「知床オーロラファンタジー」を見に行く.宿の人がワゴン車で会場近くまで連れていってくれた.知床では冬には知床岬へ行く観光船が運休,知床五湖や知床峠への道路も閉鎖されるので,特に見所がない.それを補うため,このイベントが毎年開かれている.会場は雪で雛壇のような物が作られていた.この狭いウトロの町にこれだけ人がいたのかというほど次から次へと人が集まってくる.会場は氷点下1℃だが,この冬1番の暖かさだという.赤・青・黄緑などのレーザー光線を駆使した光の芸術であった.オーロラらしくはあまりなかったが予想していたよりは良いものであった.最後には流氷の天使「クリオネ」の形を浮かび上がらせるなど凝っていた.なお知床での天然のオーロラは伝説上のものであって,見えたという記録は残っていない.北海道内では数年に1度の割合でオーロラが観測されているそうだ.しかし私は1カ月後に本物のオーロラをアラスカで見ることになるとは...本物のオーロラは今回のように激しく動き回らず(激しくはないが思ったよりはよく動く),色もほとんど黄緑一色であった.帰り道,寄付をすると「オーロラ感動証明書」というものを貰えるとのことだったので,わずかの金額だけ寄付し,その証明書を貰った.帰りは宿まで歩いて戻った.

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