純粋旋律 第二


詩とは何でもないもの。
価値があるといえばあるし、ないといえばない。どこにでもあり、どこにもない、ただそれだけのもの。

詩とはすべて。
すべてにおける存在であり、その存在のすべて。無駄であり無駄でないもの。真実であり真実でないもの。正義であり正義でないもの。生と死、美と醜、善と悪、有と無、そのすべて。

詩とは営み。毎日の記憶の営み。
過去から現在へ、現在から未来へ。決して止まることのない営み。姿かたちを自在に変容し、それでも人類はそのバトンを受け取りながら手渡しながら、一歩一歩進んでゆく。揺らぎながらもつないでゆく。

詩とは対話。地球との対話。
果たして人類はまだ本当に生きているのか。自己の源泉からまだ深く呼吸し続けているのか。それを惑星と語り合い、宇宙に問い、確かめ合う方法。

そして。

ひとつの詩はひとつの音。ふたつの詩は次に向かう旋律。それらはあちらこちらから重なり合い、くりかえされ、いつかは壮大な抒情となり、交響となる。

永い永い年月をかけて。

それを耳にするのがだれであろうと何であろうと、人類自身であろうとなかろうと、その育みは止められない。裏切り裏切られ、詩は地球はなお待ち続け、人類はなお追い続ける。奏でられ、うたわれ続けるその友情の行方を。お互いの唯一の信頼の行方を。

永い永い年月をかけて。

終わりのない旋律の道をたどって。

人類はなお追い続ける。
その何でもないはずのものの中に、はかなさと、それでも確かな強さを正面にみつめながら。







初出「詩と思想」2003年9月号





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