アンの青春の明日が輝く言葉−第107回                 松本侑子ホームページ

「いらっしゃることがわかっていて、おもてなしにやきもきするより、今日のほうが楽しかったわ」

                        
『アンの青春』第20章

 思いがけずモーガン夫人がお見えになったので、アンは、おもてなしの準備を何もしていませんでした。
 しかしそのおかげで、家の飾りつけやご馳走のしたくに気をとられることなく、モーガン夫人と、深い会話をすることができたのです。
 私たちは、人をお招きすると、とかく掃除やお出しする料理にばかり気を使って、肝心なこと……お客さんとじっくり話をする、よく話を聞いてあげる……が、なおざりになりがちです。
「おもてなしにやきもきする」は、新約聖書「ルカによる福音書」にある一節です。イエスがある家を訪ねたとき、一人の女性は「おもてなしにやきもきして」忙しく立ち働き、イエスの話をよく聞きませんでした。しかしもう一人の女性は、何もしないで座り、イエスの話にじっと耳を傾けました。
 おもてなしも優しい心づかいですが、お客さんの気持ちとのふれあいが二の次にならないように、という意味をこめて、モンゴメリはこの文章を書いています。

松本侑子 


『アンの青春』(モンゴメリ著、松本侑子訳、集英社)より引用
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