第2回●寂しい子どもたちと傷ついた大人たち(松本侑子)

 本書『アンの青春』には、さまざまな子どもたちが登場しますが、アンがもっとも深く心を通わせるのはアメリカから来た少年ポール・アーヴィング、双子のデイヴィとドーラ、アンソニー・パイの四人です。
 この四人には、いずれも親がありません。
 ポールは母を喪い、父はアメリカに離れています。双子のデイヴィとドーラは両親と死別。アンソニー・パイも親がないために遠い親戚に預けられています。主人公のアンも両親の顔さえ記憶にない天涯孤独の孤児です。
 彼らの親たちが短命なのは単なる作り話ではありません。当時は抗生物質などの優れた薬品がなく、衛生、栄養事情も今ほど良くなかったために、風邪、肺炎といった現在なら死には至らないような病いで命を落とす大人は少なくなかったのです。
 しかしそれを割り引いても、アンの周辺に親のない子どもが集まっている設定は普通ではありません。おそらくモンゴメリは無意識だったと思いますが、二歳になる前に母を亡くし、父とも生き別れて育った作者の深層心理がここに反映されていることを感じないではいられません。
 作家は、心の底にあるものを無意識のうちに小説という虚構に映し出すことがよくあります。私は同じ小説家として、彼女が書いた文章、単語の一つ一つにモンゴメリが幼い日に味わった孤独の影を感じて胸が痛みました。
 亡くなった母を恋しがって涙ぐむポール、愛情に飢え心を閉ざしてひねくれているアンソニー・パイ、きちんとした躾を受けられなかったために善悪の判断も持てず野放図に悪戯を重ねるデイヴィ……。
(つづく)
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