「花と蜜蜂」──「ぼく」が、今となっては信じられないほどほっそりした体つきをしていた若いころ、もの静かで愛らしい人妻の「あのひと」と恋に落ち、激しく、淫靡な性愛に溺れた……。無惨にすぎていく歳月のなかで「ぼく」が得たことは……。
「すべての花は枯れていく。咲きひらいたその日に、もう散り初める。しかれば乙女子(おとめご)よ、若盛りの男(お)の子らよ、貪(むさぼ)れ、甘く苦い蜜を」

「葉桜」──26歳の「ぼく」は、自由が丘の駅前喫茶店でコーヒーをすすっていた。思い返すのは、7年前、この街で香里奈(かりな)に恋をして、みじめにふられた19歳の「ぼく」の幼さと一途さ……。二度と帰らない季節の輝き、残酷さと哀別していく「ぼく」の恋の物語。

「引き潮」──パートで働く45歳の美佐には、退職した年上の夫がいる。けれど海辺のレストランのシェフの西村と出逢い、久しぶりに胸がときめく。彼もまた、自分の不注意から妻を喪った暗い過去をひきずり、人生の夢さえ見失っていたが、しかし……。海沿いの町を舞台に、40代の男女の切ない恋の道行きを描く恋愛ロマン。

ほか「山里にて」(書き下ろし)の全9編を収録。

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