「性遍歴」第2章 松本侑子著
(前ページより)  代々木原先生は英語教師で、大学院を出ていると、生徒にも教師にも一目おかれていた。その先生が、
「私の若いころは、作家になるか、海外小説の翻訳家になるのが夢でした」と常づね語っていた。
 その影響か、私もまた、声に出していったことはなかったが、翻訳家か、あるいは作家になりたいと思っていた。時間を見つけては絵本を訳したり、短い小説を書いて、手書きの原稿がたまっていた。それをパソコンで打って印刷したかったのだ。
 休み時間になると、部室へ行き、パソコンとワープロソフトの使い方をおぼえた。マニュアルを読み、わからないところは後輩の笹掛クンにきいた。政志は使えないので、聞いても無駄だった。笹掛クンに教わるときは、必要以上になれなれしくして、政志の嫉妬心をあおろうとしていた。
 といっても、私は政志が好きなのではなかった。
 むしろ、尊大な態度が苦手だった。図体が大きく、それをかさにきて後輩だけでなく同級生にも威張っているところかあった。
 そんな彼が、何かしろ私につきまとう。
 ……(以下略。続きは単行本でご覧下さい)

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小説集『性遍歴』(松本侑子著・幻冬舎刊・定価1500円・2001年4月26日発行)より引用。
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