『アンの愛情』のなかでも、感動的な場面の一つです。
さて、私も昨日、忘れられない経験をしました。
ある国文学者の先生にお会いしたところ、思いがけないことに、私が18年前に書いたデビュー小説『巨食症の明けない夜明け』の単行本を、さしだされたのです。
「娘の本棚を整理していましたらね、松本さんの本があったので、持ってきました。どうぞサインしてください」
本の帯は少し破れて、しっかり読んでくださった形跡がありました。
私はお嬢様のお名前をうかがい、そのお名前を冒頭につけてから、署名をして、本をお渡ししました。
すると先生は、本を受けとりながら、うつむいておっしゃったのです。
「娘は、20代で事故で亡くなりましたけど、きっと喜びます。ありがとうございます」
私は、その場はこらえていましたが、家に帰ってから、涙がこぼれて止まりませんでした。
亡くなった方のためにサインをさせて頂いたのは初めてだったのです。
何よりも、亡くなった娘さんを今も思う先生の親心、癒されることのない悲しみと無念さ、父親の愛の深さに、胸をつかれたのです。
たとえこの世とあの世に離ればなれになっても、親子の愛情ときずなは決して消えることはないのだと、あらためて深く心に刻まれました。
考えてみると、『赤毛のアン』シリーズの作者モンゴメリも、2歳になる前に母親を喪っています。
アンが亡き母を慕う気持ちは、まさに、母の愛に飢えて育ったモンゴメリの心情そのままであると言えるでしょう。そう思うと、母が自分を産んでくれた部屋を訪ねるアンの感慨はまた、モンゴメリの切ない気持ちであったとも言えるでしょう。
寒さが厳しくなりましたが、どうぞみなさま、あなたのご両親さま、お子さまを大切になさって、仲良くおすごしくださいますように。
そして愛に満ちた、心温かなクリスマスの季節をおすごしくださいますように、心からお祈りしています。(次へ)
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