アンの愛情の言葉 第24回
アンにとって、ここは聖地も同然だった。この部屋で、アンの母は、母親となる日を楽しみに待ちながら、すばらしく幸福な夢の数々をつむいだのだ。この部屋で、母と自分は、神聖なる誕生のときをむかえ、朝日の赤い光に照らされたのだ。そしてこの部屋で、母は息をひきとったのだ。アンは涙にかすむ目で、辺りをうやうやしく見まわした。それはアンにとって、記憶のなかで永遠にまばゆい輝きをはなつ、人生の珠玉のひとときだった。──第21章「過ぎし日の薔薇」より
It was as a shrine to her. Here her mother had dreamed the exquisite, happy dreams of anticipated motherhood; here that red sunrise light had fallen over them both in the sacred hour of birth; here her mother had died. Anne looked about her reverently, her eyes with tears. It was for her one of the jeweled hours of life that gleam out radiantly forever in memory. ──Chapter 21 "ANNE OF THE ISLAND" by L.M.Montgomery
『アンの愛情』は、アンが、プリンスエドワード島を離れ、カナダ本土にある大学に進学した4年間の青春の日々を描きながら、一人の女性として成長していく姿を追った長編小説です。
孤児として育ったアンは、大学生の夏休みに、自分のふるさとノヴァスコシア州ボーリングブロークへ行き、両親がありし日に暮らしていた家を、物心ついてから初めて訪ねます。
その小さな家の二階の寝室で、アンの母は、彼女を産んだのです。そしてその部屋で、母は熱病のために若くして世を去ったのです。
今日のメルマガは、自分が生まれた母の部屋に、初めて足を踏みいれたアンの感慨を描いた文章です。
自分を産んでくれた母への感謝と慕(した)わしさ、孤児として育ったアンが自分の生家を訪れることができた喜びとともに、若くして亡くなった母親への哀惜の念があらためてこみあげてきて、アンは涙を浮かべ、忘れられないひとときをすごします。(次へ)
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