|■|| Christmas ||■|
Said-a





雨は夜更け過ぎ〜に〜〜♪


パシャ、と水溜まりを小さく跳ね上げつつ、華やかに暗闇を彩るクリスマスのイルミネーションを酔いしれて見ている人々を後目に、俺達は早足で歩いていた。

雪へと変わるだろう〜♪


はあ、と白い息を吐き出して口ずさむ俺の背中から避難の声が上がった。

「ちょっと。不吉な歌、歌わないでよねっ!」

じろりと睨まれた俺は、思わず肩を竦めた。
確かに、只でさえこの真冬の夜の雨の中、呼び出しを何度もくらって歩き回っていた俺達としては寒さもピークに達していて、此処で雨が雪にでも変わられた日には凍え死んでしまうのでは無いのかと思われた。

「もう、世間は幸せなクリスマスをエンジョイしてるっていうのに、何やってんのかしら、全く!」

周りの幸せそうなカップル達に軽く目をやり、そして隣を歩く俺を見て深い溜め息を吐く。
……それってどういう意味?

「毎年の事なんだからいい加減諦めたら?」
「絶対嫌」
「あっそ…」

自分の要求に相変わらず素直なすみれさんに、俺は思わず苦笑した。

「……何よ、その笑い」

ぶー、と膨れた顔をした彼女は俺をさっさと追い越した後突然立ち止まり、クルリと振り向いて言った。

「どうせ相手なんかいないんだろう、とか思ってんでしょ!」
「思って無いよ」
「思ってる!!」
「思って無いって」

子供の喧嘩の様な会話を、すれ違う人々は笑いを含んだ目で見て行く。きっと傍から見れば、俺達はクリスマスを楽しむカップルのひと組に見えるんだろうなぁ。

「何よ、余裕な大人の顔しちゃって。青島君には今夜を楽しみにしてくれていた恋人でも居たって言うのかしら?」
「居る訳無いでしょ。……居たってこんな日に『仕事だから』なんて言って放り出したら、その時点で振られる事確実だよ」
「……だね」

はあ、とお互い深い溜め息を吐いてしまう。そうなんだよね、相手が居たって『恋人と過ごしたいから仕事を休む』なんて、きっと俺達は間違っても出来ない。
ま、どうせ天秤にかける程一緒に居たい人なんて居ないし、今は仕事に燃えてるんだからこういうのも気が楽で良いんじゃないかと思ったりしてるんだけど………。

「何?」
「え?」

いきなり問う様に視線を向けられ、俺は首を傾げた。

「さっきからキョロキョロ視線を動かしてる。誰か捜してるの?」
「……別に」


誰かを捜してる?


「そんなにキョロキョロしてた、俺?」


誰を?


「してた。しかも、只単に周りを見てるって言うより、誰かを捜してるって感じ」
「別に誰も捜してなんて………」

いない、と言おうとして。
俺は彼女の後ろを通り過ぎたカップルに目を奪われた。

「………っ!」

声に出して呼び止めようとしたが、それが違う人物だと言う事に気付いて動きが止まる。そんな俺の行動をすみれさんはじっと見詰め、今し方通り過ぎた二人を同じく見送る。

「……知り合い?」
「否………違った」
「ふうん?」

クルリと背を向けて、数歩歩いた後立ち止まってポツリと言われた言葉に驚いた。

「電話」
「え?」

訳が判らない俺に、すみれさんは怒った様に近付いて俺の胸ポケットを軽く叩いた。

「携帯持ってんでしょ?! 電話掛けてあげなよ」
「……誰に?」
「あたしが知る訳無いでしょ! 青島君が無意識に捜しちゃう程、”今”会いたいと思ってる人。きっと向こうも連絡を待ってる」
「別に捜して無いって……」

今のは只、偶然あの人に似てる人を見掛けたから……そう言おうとして止まる。


偶然?


「捜してる。じゃなきゃ、知り合いと間違った位であんなに驚いた顔しない」

偶然なんかじゃない。俺は、無意識にそう……黒いコートの人を見かける度に目で追っていた。

「電話、してあげな。取り敢えず又呼び出し無ければ一晩署に居るだけだし。ちょっと位戻るの遅くなっても大丈夫よ」
「……何か奢るんでしょ?」
「タダで言う訳無いでしょ」

悪戯っぽく笑う彼女に、俺は苦笑しながら感謝した。
「じゃね」と肩を軽く叩いてそのまま走り去って行く彼女を見送り、俺は胸ポケットから携帯を取り出した。メモリボタンを押して、あの人のナンバーを呼び出す。

「仕事かな。電話位……良いよね」

声が聞きたい。何故かなんて、そんな事はどうでも良くて。

「…何か…すっげードキドキする」

通話のボタンを押す指が震える。それは寒さの所為だけじゃない。

軽いコール音が二回鳴り、受話器からあの人の声が聞こえた。俺は大きく深呼吸し、努めて何気なさを装って話し掛けた。

「あ、俺です。今大丈夫ッスか?」

神聖なる冬の夜    
会いたい人は只一人だけ


END




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会社の側のイルミネーションが綺麗だったのでつい…(笑)。
室井さんバージョンを思い付いていたのに何故か青島君編に。
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