同室の患者にノドを切開している男性がいた。まだ30代のようで、声を出すことができない。
今思えば咽頭ガンだったのかもしれない。
当時、幼い二人の子どもを両手につないで、疲れ切った様子でその人の奥さんが見舞いに来ていた。
ひどく落ち込んでいるようで、帰りに近くにある大きな川に飛び込んでしまうのではないかと思えるほどだった。
まだ、私も20代で、その奥さんの心情など思いやる頭もなく、ただ、どうしてあんなに疲れ切った表情なのか不思議でならなかった。
同室の人たちはあまりにも対照的な二人の奥さんに、あきれていたに違いない。
だから私をみてクスクスと笑っていたのだ。
夫の退院後、同室の人たちが私を見て笑っていたことに話が、また、及んだ時、私はすかさず言い返した。
「なん言いよん。私があの奥さんのようにズタボロで見舞いにやら行きよったら、あんたはオチオチ入院やらしちょられんやったやろ。抜糸もせんずく、もー、帰ります!っち、言わなやったバイ。よかろうもん、元気で明るい見舞いやったんやき」
んー。
「お前のせいでこうなった」
と、いつも薄い頭をなでなでぼやいていたのは、あながち間違いではなかったかも。
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