庭に埴輪、裏庭に埴輪      

-7. 庭に埴輪、裏庭に埴輪 000811


「ニワトリが先か? 卵が先か?」と言えば、皆さんも一度は考えたことがあるであろう。ニワトリ(chicken)は卵(egg)から生まれる。その卵はニワトリが産む。これを遡っていくと、そもそもの始まりはニワトリなのであろうか? 卵なのであろうか?(Which came first, the chicken or the egg?) これが古来哲学者達を悩ませてきた「ニワトリ卵問題(chicken and egg argument)」である。「鶏卵問題(chicken egg argument)」としてしまうと食料流通業界の話になってしまうので注意が必要である。

気が利いた人なら「どちらが先か良く知らないけど、先に死ぬのはニワトリだよ。」と答えるところであろう。しかし、無精卵であった場合、その卵はあらかじめ死んでいるので注意が必要である。あらかじめ死んでいる卵は存在するが、その逆の、あらかじめ死んでいるニワトリは存在しない。ニワトリになる前にヒヨコになる必要があるからである。あらかじめ死んでいたらニワトリになることができない。そう言う意味では先に死ぬことができるのは卵と言えるかもしれない。

進化論を採用しない聖書原理主義の立場をとれば話は簡単である。神は世界を創ったとき、ニワトリも卵も卵を抱いたニワトリも一度にお作りになった(はずである)。すなわち、どちらも同時に出てきたのである。ニワトリ卵同時説である。しかし、吉田戦車の説「神様が『なんだか小さくてふわふわして可愛いものを作ってみたくなったのでヒヨコを先に作ってみました』と言っていた。」というヒヨコ先説も極めて捨てがたいものがある。

進化論を採用する立場であれば問題は複雑になる。ニワトリの系統を遡ると次第に、なんだかニワトリのようであるがニワトリではない鳥となる。最近の研究によるとニワトリの先祖は東南アジアに住む赤色野鶏だそうである。

赤色野鶏はその名の通り羽が赤い。その昔、赤色野鶏の先祖が卵を生んだが、突然変異で卵から白い羽のニワトリが生まれた。すなわち、赤色野鶏から生まれた「ニワトリの卵」が先にあって、それが「ニワトリ」になったと言う結論が導き出される。すなわち卵先説である。

ここで議論の余地がある。いくらニワトリになるからと言っても、赤色野鶏から生まれた「卵」をニワトリの卵と言っていいのであろうか?と言うことである。赤色野鶏から生まれたらそれは突然変異してても、あくまでも「赤色野鶏の卵」であって、ニワトリの卵とは言いがたいのではないだろうか? ニワトリの卵で無いならば、それはこの議論で言う卵ではないのではないか? しかも親鳥の赤色野鶏は我が子を見て、「羽が赤くなくったってそんなことは問題ではありません。ニワトリなんていう風なものではありません! これは私の子です! 立派な赤色野鶏の子です!」と叫ぶであろう。この母親の心の叫びを無視できるだろうか?

「ニワトリ卵問題」の議論がしばしば錯綜する原因は、実は厳密な用語の定義がなされていないためである。ここで、卵を「ニワトリの卵」ではなく「一般的な卵:雌が産む丸い形の物。孵ると子になるもの」と定義してみよう。この場合、ニワトリで無い鳥から生まれた「卵」であっても「卵」と判断できる。この場合、なんだかニワトリのようであるがニワトリではない鳥をニワトリと定義しても論理的には差し支えない。ニワトリではない鳥と書いてあるのが引っかかるならば、「生殖能力を持ち活動する個体」と定義しなおしても良い。こうすると進化樹をどんどん遡ると始祖鳥、爬虫類、魚類・・とどんどん遡るが構わずニワトリであり、ヌルヌルしたり、ピョンピョン跳ねたり、すいすい泳いでもニワトリである。この時は「卵」も存在する。そのうち「卵」を生まないが分裂によって増殖する単細胞生物につきあたる。この単細胞生物は「生殖能力を持ち活動する個体」であるからここで言うニワトリである。しかし、このときには卵は無い。すなわちこの場合、ニワトリが先であるという結論が導かれる。

しかし、この問題を用語の定義を変えて「親鳥と卵のいずれが先か」であるとか、「ニワトリとニワトリの卵はどちらが先か」といった命題と捉えた場合にはまた話が錯綜することになる。

この問題を解決するために異なったアプローチをとってみよう。「辞書には卵が先で、ニワトリが後に掲載されている。」という報告がされている。卵先説である。しかし、英辞書では「chickenが先でeggが後である。(ニワトリ先説)」という反論が用意されている。オムライスでは先に卵が口に入ると主張する強硬派もいれば、親子丼では同時に食べるのが普通であるという穏健派もいる。

 このように「ニワトリ卵問題」は奥が深いものである。私はニワトリ恐怖症(alektorophobia)になりそうである。


    一覧  トップ