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218.腹を割って話そうか 20240830

「ロボット……ですか」

そう言った私の頭に浮かぶのはビームサーベルの代わりに手術用メスを持ったガンダムが手術室の入口から覗き込んでいる光景である。身長18mのガンダムは手術室のドアから入れず無理やり頭を手術室にねじ込んで私もろとも手術室を破壊する。

もしくは四足歩行の頭のない犬ロボットが手術室でピョンピョン跳ねていて単に手術の邪魔である光景であるとか、二足歩行のロボットの安定性を確認するために周りの医師と看護師たちからガンガン蹴られながら私を手術する光景とか。

「ロボットは人気なので通常は数ヶ月待ちなのですがキャンセルが出たのでお盆に手術ということで」

手術がキャンセルって、その患者さん、お盆前にご先祖様にお会いにいかれたのでは……

ということで直腸がんの手術を受けることになった。ちょうどお盆だから胃がんで亡くなった祖父と母も応援に来てくれるかもしれない。

大腸内視鏡検査で良性のポリープを切除、腫瘍は大きすぎるので内視鏡ではとれず、手術、ロボット手術となった。

腹からロボットアームを入れて腸を腫瘍ごと切除、腸は縫い合わせる。念のためリンパ節を切除するとのこと。

腸の外側からは腫瘍の位置がわかりにくいので内視鏡検査の時に腫瘍に墨を入れられた。これで銭湯とか市民プールにはいけないことになった(理論的には)。

手術の前には腸を空っぽにするために下剤を2Lほど飲まされる。胃カメラだとか大腸カメラだとかのたびに飲まされるのだが、この味がだんだん苦手になってくる。

手術の日、まず背中に針を指してというあたりで麻酔が効く。目が覚めると呼吸機もすでに外されている。腹が痛い。特に膀胱が痛い。でもまたすぐ寝る。病室のベットで目が覚めると、さあリハビリですと起こされて歩かされる。腹に穴を開けた当日なんですけど、鬼か。病院半周150歩を二周、悲鳴を挙げながら歩かされる。もう一周歩けます?無理ですが、でもちゃんと歩けますね、明日からはつきそいなしで一人で歩いてください。やはり鬼である。

腹を見る気力はないが、事前の説明によると腹には5つ穴があいているはずである。4つはすでに縫っているはずだが一つはドレーンの管がつながっている。もう2つほど穴を開けてもらえば北斗神拳を使えるようになるのかもしれない。

ベッドに横たわって寝る。腹からのドレーンと尿道カテーテルと左右の腕からの点滴で横たわるまでに管の整理に時間がかかる。横になっても寝返りも打てない。腹も痛い。膀胱には尿がたまらないはずなのだがなぜか膀胱が破裂しそうでトイレに行きたくて辛い。

5日間ほどその状態が続く。点滴のせいか腹も減らないしトイレに行きたくもならない。楽ちんといえば楽ちんなのだが口から水分をとらないせいか声が枯れる。

背中の痛み止めが抜かれる。尿道カテーテルが抜かれる。久しぶりにトイレに行ってみると尿道から空気が出てくるという人生初めての経験をした。下腹のドレーンを抜く。穴を縫うかと思ったらそのまま。いいのか。点滴の針も抜かれる。

いろんな検査の結果、転移はなさそうということで一安心。

ということで手術も(多分)成功し、久しぶりに我が家のんびりとしている。まだ見ていないが、入れ墨は腸ごと切除したはずなのでこれで銭湯や市営プールを利用することが可能となった。それにしても久しぶりの我が家はいい。何と言っても我が家の換気扇の下でで吸う一服は最高である。 (家人からのタバコやめなさいという叱責は辛い)。

まあ、私の近況と言えばこんなもんでしょうか。君も良かったら腹を割って話そうじゃないか。

<終わり>


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