(20160408 Tweetを再構成)
吾輩は坊ちゃんである。 名前はまだない。どこで無鉄砲になったかとんと見当がつかぬ。なんでも薄暗い学校の二階から飛び降りて腰を抜かした事だけは覚えている。吾輩はここで初めて人間というものを見た。
私はその猫を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くのだが名前はまだない。これは世間をはばかる遠慮というよりも、薄暗いじめじめしたところでニャーニャー泣くことが猫にとって自然だからである。私はその猫の記憶を呼び起こすごとに、すぐ「先生」といいたくなる。
先生はさぐりを入れた後で、手術台の上から坊ちゃんを下した。 「やっぱり穴が超続いているんでした。この前探った時は、途中で行どまりだとばかり思って、ああ云ったんですが、今日きょう疎通を好くするために、そいつをがりがり掻き落して見ると、クラインの壺になっているんです」 「そうしてそれがどこまでも続いているんですか」 「そうです。五分ぐらいだと思っていたのが約一光年ほどあるんです」
死ぬ前日おれを呼んで坊っちゃん後生だからKが死んだら、坊っちゃんのお腹へ埋めて下さい。お腹のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと云った。だからKの墓は坊ちゃんのお腹のクラインの壺の中にある。
私は妻には何にも知らせたくないのです。妻が己の過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存しておいてやりたいのが私の唯一の希望なのですから、私が死んだ後あとでも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、すべてを腹の中にしまっておいて下さい。
山路を登りながら、交換した。 猫が働けば角が立つ。坊ちゃんに棹を刺せば泣かされる。Kを殺した先生だ。とかくに人の世は住みにくい。