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119. 人生至る所に山あり(20120120)

 朝から降り出した雪はどんどん激しくなり、寒さは増すばかりである。窓は横なぐりの雪で白く塗りつぶされ、向かいのビルも見えない。昼食は外に食べに行くのも寒くて嫌なので、この前買っておいた果物を食べてごまかすことにした。しばらく放置しておいたので皮がところどころ黒くなってしまっている。そんなバナナとは言え、結構おいしい。

 今冬は暖冬なのか、初めての降雪のような気がする。朝から降り出したので積もらないだろう。積もらなければつまらない。積もってしまえば犬が喜び庭駆け回り、尻尾にも雪が積もって面白い(尾も白い)。

 外気に冷やされた窓ガラスから冷気が伝わってくる。この前散髪にいったばかりなので頭が冷たい。後ろと横を刈り上げてくださいと注文すると、何故ボウズになってしまうのか極めて不可解である。坊主頭が冷たいくらいであるから、更に剃り上げている和尚がツーメタイのは察して余りある。寒さのあまり錯乱して水を撒いたりしなければよいが。昔から、坊主が正気で常時にホースで絵を描いたというではないか。

 夕方になっても雪はやまない、体調はすぐれない。体調不振である。不振やねん。不娠ねん。あとを濁さずに去っていく方法はあるのだろうか。窓の向こうはあいかわらず降る雪で白く塗りつぶされている。その向こうにあったはずのビルはまだあるのだろうか。ひょっとしたらビルもタワーも道路も山も線路も電車も車も歩行者もあったはずというのは私の思い込みで、ガラスの向こうは雪が降っているだけの空間があるのだけなのではないだろうか。ガラスの向こうに何かすばらしい実体があるはずと信じていたインターネットと同じではないだろうか。画面に映るウエブの向こう側には結局何もなかったではないか。ブラウザに似ている窓ガラスに映っていた景色が現実に存在するというのは単なる思い込みではないと誰が保証してくれるのだ。

 ガラスの向こうにあるものが儚い幻だったとしたら、ガラスのこちら側も幻だとしても不思議ではない。いつのまにか日が暮れガラスの向こうは暗黒となり、見えるのはガラスに映った誰かの顔だけになる。よく見ると、その誰かの腕に雪が降り積もり始めていることに気がつく。


ターコイズ雑文祭2012 参加作品

縛り
1.題名に「青」を含む。
2.文中に「そんなバナナ」「和尚がツー」「辰年あとを濁さず」という語句を入れる。


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