83. 「七竈(ななかまど)」(20051223)


困ったことが起きた。朝から目眩が止まらない。しかも今までの一瞬グラとくる目眩ではなくて、まるで地震のようにグラグラグラと一定周期で長時間揺れる。回りを見回すと皆平然と仕事をしている。意味もなくきょろきょろしている怪しい奴と思われるのと嫌なので首の運動をしているふりをしてまた仕事に戻る。あ、また揺れてる。

揺れてるのか目眩なのか区別をつける方法として、外のビルの避雷針が揺れていれば地震、揺れていなければ目眩という方法を編み出したのだが、最近は偉い人が窓のブラインドを閉めてしまうのでこの手が使えなくなった。そこでロッカーの上にダンボールの空箱を不安定な状態に積み上げて、そこが揺れるかどうかで判断することにしている。なかなか芸術的に積み上げているのでいつか落ちるのではないかと思っているのだが、数ヶ月落ちてきていない。いつかは落ちるのか、落ちは未定である。

ストレスなのかなあ。ストレスで三半規管がやられるというのはどういう仕組みなのか良く判らないが、ひどくならないうちに病院に行ったほうがいいかなあ。あ、また揺れてる。

三半規管だけではなくて、一日中パソコンの作業ということもあって目も悪くなった。近視と乱視のダブル攻撃で、多分ちゃんと物が見えてないのだろうなあと思う。眼鏡をかけると日常生活には差し支えはないが、たとえば夜空の月をみると複数の光る楕円形の物体に見える。それに加えて最近は近い方を見るのに苦労するようになってきた。そのうち私の目は無限遠から距離ゼロまで焦点が合う場所がなくなってしまうのではないかという恐怖。あ、また揺れてる。

煙草の吸い過ぎのせいか喉と鼻の調子は一年中悪い。ぼそぼそと喋る癖がある上に、煙草で喉を何回も潰しているので声の通りが非常に悪い。周りがちょっと騒がしいと、話し掛けても聞こえないことが多いらしく困る。コミニュケーション不全症候群という奴であろうか。煙草をやめない限り、生涯 咳の状態。先に煙草をやめればいいのだろうが、ストレスを和らげる為には手放せない。揺れてる揺れてる。あ、また揺れてる。

鼻は慢性鼻炎で匂いがあまり感じられないようだ。鼻炎がひどくなると今度は逆に一日中オゾンの臭いがしているような状況になる。ひょっとすると気のせいではなくて自分の体臭が刺激臭となっているのではないかと心配になってこれがまたストレスとなる。おまけに今年の春から花粉症である。自分がなってみるまで花粉症というものがあんなに苦しいものとは知らなかった。あ、また揺れてる。

ストレスと言えば髪は本数が少なくなるは白髪が増えるは胃が痛くなるは歯茎は腫れるは大活躍。ストレスにより、ある時は髪を白くし、またある時は目を遠くし、そしてまたある時は胃に穴をあけ、しかしてその実態は! 性器と寝室の使途(以下略)。まるで七つの顔を持つ男である。揺れてる揺れてる。

しかし毎日毎日ストレス続きで、僕もう駄目になりそう。ななかまどの木は、七回かまどに入れても燃え尽きないことから名づけられたと言われている。七回も燃やされる方の木にとっては、いい迷惑である。この会社でストレスにさらされ続けるのと、かまどに七回放り込まれるストレスとどっちが辛いだろうなどと考えてみる。

隣の人に話し掛けてみる。
「なんか今日は体調が悪いみたい。朝から目眩がひどくてさあ。」
「裏でビルの解体をしてるから、本当に揺れてるのよ。」
あれま、ストレスのせいではなかったか。最近のビル解体は音はすごく静かなのね。でもまあ体調が悪いわけではなくて良かった。良かった。来年もいい年でありますように。

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第七回雑文祭参加作品
題名 (七を含む)
始め 困ったことが起きた。
お題1 七つの顔
お題2 落ちは未定
お題3 蒋介石の招待席
結び 来年もいい年でありますように。


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