「こころ」殺人事件だよ      

39. 「こころ」殺人事件だよ 020928


報道によると、国語教科書から文豪が消えるということらしい。学生の頃教科書に載っていた漱石の「こころ」は面白かったという意見をあちこちでみかけた。未読だったので追悼企画ということで「こころ」を読んでみる。
 先ず、語り手である「私」が登場する。ここでは「私」の書くことは全て真実であると仮定する。夏休みに友達に呼ばれ鎌倉に海水浴に出かける。この友人は急に親が危篤になり、以後二度と登場しない。鎌倉の別荘を独り占めにする目的で「私」に殺されたに違いない。(太陽がいっぱいをモチーフにした第一の殺人)。そこで「先生」と不自然な出会いがある。西洋人(彼)を連れた「先生」がなぜか「私」を引きつける。その西洋人はすぐに舞台から姿を消す。「先生」に近づくために邪魔な西洋人を「私」が殺したに違いない。(異邦人をモチーフにした第二の殺人)。しかし、第一第二の殺人とも記述が極端に少ないためこれ以上の推理は困難である。残念ながら完全犯罪である。
 「先生」に近づくために「私」は「先生」が落とした眼鏡を拾ってあげたり、「どこかでお会いしませんでしたか」と声をかけたりする。下手なナンパである。これが本命のターゲットらしい。「私」の殺意を知ってか知らずか「先生」は「私」を受け入れつきあいを始める。「私」と「先生」は壮絶な心理戦を繰り広げる。結末として、「先生」は書生時代に奥さんを取り合った親友Kの自殺を苦にして自殺するとの手紙を残してこの話は終わる。「先生」が自殺している時間、「私」は郷里にいることになっており完璧なアリバイがあるように見える。

「まさかそこにトリックがあるとでも!?」

まあ、焦らずに話の続きを聴きなさい。ここで俺は不思議に思った。しかし、「私」の殺人の動機とは何なのであろうか。俺は「私」の郷里へと向かう。「私」は兄と妹がおり、

>兄はある職を帯びて九州へ

とある。九州=西方の隠喩、すなわち兄は西方浄土に=既に死んでいることが判明した。

「つながった! 巨大な円環が、今! 」

うるさいなあ。すなわち、「先生」の手紙に書かれていた親友Kとは「私」の兄だったのだ。「兄=親友K」の仇をとるというのが「私」の動機だったのだ。

「しかし、アリバイが」

そう、そこで誤算が生じる。「私」は「先生」に恋をしてしまう。

「え? 今なんて?」

最初からヒントは提示されていた。「先生」と「奥様」の間には子供がいない。そのことに関して「それはどうしようもないことだ」といった風な記述がある。これは「先生」が男色家だったからだ。「先生」と「親友K」との許されない恋。そして親友Kの裏切り。よりによって女性に恋心を抱いて結婚したいとは! 「先生」は「親友K」と「奥様」の間を永久に引き裂くべく「奥様」と結婚したのだ。「先生」の嫉妬の炎に焼かれて「親友K」は自殺してしまう。その「親友K」の仇をとるべく「私」は「先生」に接近する。しかし、そこで誤算が生じた。「私」は「先生」の男性としての魅力に負けてに恋心を抱いてしまう。兄の仇かそれとも恋心をとるか。ふたつの間で揺れ動く心理を描いた傑作。

「はあ、ところでさっきのアリバイ工作の話はどうなりました?」

語り手が犯人という驚天動地の叙述トリック!

「アリバイは?」

さらに叙述トリックが! 実は私は「女性」だったのだ。

「さっき、男色という話をしてませんでしたっけ。必然性がないです。ところでアリバイは?」

俺がアリバイ工作の解説を始めようとしたまさにその時、突然爆発音が聞こえ明かりが消え天井が落盤してきた。犯行の発覚を恐れた「私」のしかけた爆弾が爆発したらしい。何トンもの土が降り注ぎ俺と警部は生き埋めになってしまった。この八王子地下の大本営跡の地下通路から脱出できるのか。俺が頼りに出来るのはこの両手しかない。頭上何十メートルの土をかきわけて地上まで行き着くことができるのか。しかし俺は死にはしない。

またいずれお会いしよう。



(プロット破綻雑文祭参加作品)
縛り:プロットが破綻していること
   登場人物が誰か死ぬこと
   最後に天変地異に類したことが起こって事態が無理矢理収拾すること
   途中で文体が変わること
   とにかくごめんなさい

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【閉会の辞】
 え〜、56億7千万年の長きに渡って開催された「プロット破綻雑文祭」もいよいよ本日をもちまして無事閉会となりました。長い間ありがとうございました。初代開催委員長の弥勒菩薩もきっと西の方で喜んでいることでしょう。そして2376345765代開催委員長の三葉虫の三葉氏も、きっと化石となった岩石の中で祝杯をあげていることでありましょう。
 しこうして、この世は矛盾と嘘に満ちております。ああこの腐敗した世界に舞い降りた汚れ無き魂を持つところの我々が破綻せずにいられることがあろうか。いやない。(反語)。そのありうざるべき「破綻」を表現せずにはいられようか。いやいられない。いやいられる。いやいられない。いやいられる。いやいられない。(反語が3つで反語三兄弟)。書かニャイことがあろうか、いや書くニャ〜。(黒猫の反語)。その崇高な開催意図に賛同していただき、更には参加までしていただいた方には次の言葉をお送りしたいと思います。

「破綻という字は、碇という文字に似ている」

 ここで、僭越ですが自分が書いたものの説明をさせていただきます。
 気づく方がいるかどうかと思ったのですが、さすがに御本人にはバレました。「『こころ』殺人事件だよ」は、下条氏の「☆ジュンのパステル学園☆」に多く触発されております。英語ではインスパイヤされたとかリスペクトしていると言います。フランス語で言うところのパクリ。下条さんすいません。ポルトガル語ではシモジョウセニョールイスパシボセーヌタ。下条氏の名誉のために申しますと下条氏の雑文は破綻しておりません。

 しかし、参加者の皆さん書くの速いよ。私が「『こころ』を推理小説として誤読する」というアイディアが浮かんでからにっちもさっちもいかなくなって破綻させてしまえと書き上げるまで三週間掛かっているのになあ。

 「『こころ』殺人事件だよ」の参考文献
「☆ジュンのパステル学園☆」下条氏 教科書から消える「文豪」の作品(天声人語)  「こころ」夏目漱石  「禁色」三島由紀夫  「太陽がいっぱい」ルネ・クルマン監督  「MMR・マガジンミステリー調査班」石垣ゆうき  「異邦人」カミュ  「阿弥陀如来と西方浄土信仰」新書忠夫  「やおいの傾向と対策」古書漁  「針井探偵犯罪録」半茶  「狼男だよ」平井和正


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