暗い部屋      

38. 暗い部屋 021201


カメラ・オブスキュラとは、ラテン語で〈暗い部屋〉の意で、カメラ(写真機)の語源。密閉した部屋の一方の壁に穴をあければ、外景が他の側の壁上に倒立して映る。16世紀以前よりこの原理は知られ、これを小型化した道具が絵のスケッチに使われていた。一説にフェルメールが 使用し、ドイツのイエズス会士キルヒャーが改良したとも言われている。11世紀のアラビアの学者イブン・アルハイサムの研究報告やレオナルド・ダ・ビンチの非公開のメモにも記述されているそうな。つまり、この装置というか、部屋というかが「カメラ・オブスキュラ」だったのだ。この方法はヨーロッパで評判になり、日食の観察に使われるようになった。 レンズを使うことで「部屋」を小さくできたのだなってことにしておこう。

気がつくと岬の灯台の前。白い塔の壁に塗りこめられた扉をくぐって狭い螺旋階段を二人登る。最上階の遠くを見つめる管理人が言うには 「よく一人で来たな。」水平線の彼方から届く海の青と空の青とその繋ぎ目の光は、灯台の大きなフルネルレンズを通り真空のガラスの中のフィラメントに結像する。昼中はその光の像を溜め込んで夜はその太陽の光を夜の闇に放射する。昼の灯台の最上階のランプ部屋は文字通り暗い部屋であり岬からの画像を取り込むカメラオブスキュラとなる。

灯台を出ると管理人が崖に座り込み遠くを見つめている。「やあ、君の探しものは見つかったかね。」彼の見つめている方には海と空と水平線があるだけ。彼の顔を見ると口から砂を吐き出し続けている。気がつくと君は彼が吐き出す砂となり地面に小山を作り流れて崖から滑り落ちてゆく。両手で掬い取ろうとかがみ込むけれどもただ君の影を撫でるだけ。

残された管理人の僕は砂となった君を追うか町に帰るか灯台でフィラメントに結像するはずの君の姿を探すか決められず海と空と水平線を見つめる。


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