山河童      

34. 山河童 020719


やあ、俺が半茶だ。というかサイト名だ。日系アメリカ人だから、日本式に名乗ると茶半だ。姓が茶で名前が半。焼飯が好きだから名付けた。というのは嘘だ。本当は「はんち」が姓で「ゃ」が名前だ。女性と会ったりすると「はんち」DEデート。これも嘘だ。「は」が姓で「んちゃ」が名前。アラレちゃんかよ。これも嘘だ。

アップルからドット・マック使うのなら金払えというメールが来たので「@mac.com」のメールアドレスの使用を止めることにした。これで俺に連絡を取るのは非常に難しい状況になってしまったのだが仕方がない。どうせメールなんて来やしねえしよ。やれやれ。俺に用ができたら口笛を吹けばいい。そして後ろを振り返れば、そこにはただ風が吹いているだけさ。もしくは夜だったら蛇が出るだろう。それが俺だ。

これも嘘だ。

河童は川に住み、キュウリを好む。相撲を取りたがる。頭はいわゆるおかっぱで、頭の上の皿が乾燥すると力が抜けて死ぬ。背中に甲羅、手足の指の間に水掻き、口の代わりにくちばしがある。川遊びをしている子供の尻子玉を抜き溺死させる。尻子玉は、肛門を閉める役目の玉であるとも、肝であるともいわれている。

河童は亀の姿を見間違えたのではないかと推定されている。河童の元である亀には海亀と陸亀がいるのだから、河童にも河に住む河童と山に住む河童=山童(まっぱ)がいるに違いない。そう考えたのは、あの生き物をなんと呼んだらいいのかわからなかったからだ。

山童に出会ったのは私が小学校三年生の夏、裏山の道で迷ってさまよい歩いていた時だ。いつも遊ぶ道と違う景色だと気がつき泣きそうになった。こっちのほうに違いないと歩いていった先が行き止まり。もどっても見慣れない場所。疲れて道ばたの岩に座って下を向いていると緑色の足が目に入った。その足の指には水掻きがついていた。

「きゅうり ないか」
そう言った姿は、全身が緑色の子供だった。背中に亀のような甲羅を背負い、髪型はいわゆるおかっぱのようになっている。河童だ。そう思ったが、河童の最大の特徴である頭の上の皿がない。
「キュウリは無いよ。」
河童だ、河童だ。
「そうか ないか すもう とらないか」
尻子玉を抜かれる。そう思った。尻子玉を抜かれると尻の穴が開いて死んでしまう。早く逃げなきゃ。
「すもうだ すもう すもう とろう すもう」

山河童は相撲が好きな割にはそれほど強くなく、私といい勝負だった。尻子玉をとられるものかと尻を押さえていた私に、
「なんだ どうして しりを おさえている しりこだま なんだ それは そんなものは いらない」
ということで存分に相撲をとって遊ぶことができた。一緒に遊んでくれたお礼に、山河童は帰り道を教えてくれた。山河童とは夏休み中遊んだ。

夏休みも終わりに近づき、私は街へ帰ることになった。
「もう あそべないのか もっとあそびたい ずっと いっしょに あそぼうと いったのは うそなのか」
「嘘じゃないさ。だけど、もう夏休みが終わるんだ。僕は帰らなきゃいけないんだ。」
「やっぱり うそ なのか そうか うそを ついたのか うそを つくのは いけないこと なのだ」
山河童は、そう言うと私の喉をつかんだ。相撲をとっていた時には考えられないほどの強い力だった。
「いけない うそを つくのは この のどか もう うそを つけないように しよう」
そう言うと、空いた方の手を私の口に突っ込んだ。山河童の手がどんどん私の喉に突っ込まれる。
「あったぞ あった うその もとが あった」
山河童は腕を肘まで突っ込んで、私の胸の中で何かを掴み、そして引き抜いた。
「これで もう うそを つけなく なったぞ」
山河童が私の胸から引き抜いた何か玉のようなものを見ながら私は気を失った。

私は道に倒れていたのを村の人に発見された。河童に玉を抜かれたのでもう助からないと思っていたので、気がついた私はどっと泣き出した。泣こうとして気がついた。

私は声を失っていた。(了

これも嘘の話だ。


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